『POOLO NEXT』 オープンセミナーvol.1 「なぜ、観光/旅行なのか?令和におけるトラベル領域のビジネスチャンスを語る。」【イベントレポート 】
今回は、2021年4月27日に行われたイベント「なぜ、旅行/観光なのか?令和におけるトラベル領域のビジネスチャンスを語る。」についてレポートします。
このイベントは「POOLO NEXT」のオープンセミナーですが、そもそもPOOLO NEXTをご存知でない方もいらっしゃると思いますので、最初にご紹介します。
「POOLO NEXT」とは......?
TABIPPOが主催する、2030年の観光業界を担う次世代リーダー養成スクー ル。「未来の観光に貢献する、ニューノーマルなビジネスプランを生み出す」をミッションとして、全12回の講義を担当する講師らとともに、ビジネスプランを考えていきます。
より詳細はこちらをご覧ください!https://poolo.tabippo.net/next/1st/
清水直哉✖️太田英基✖️篠塚孝哉によるクロストーク
今回は3名のゲストによるクロストークがオンラインで行われました。
1人目は、株式会社TABIPPO 代表取締役の清水直哉。
2人目は、株式会社スクールウィズ代表取締役の太田英基さん。
そして、株式会社令和トラベル代表取締役社長の篠塚孝哉さん。
令和の観光業界を引っ張っていく、ネクストリーダーズの3人によるクロストークです。
令和トラベルを創業するまで
(令和トラベルのホームページ)
清水:
早速ですが、太田さん。篠塚さんに「これだけでは聞きたい!」という質問はありますでしょうか?
太田さん:
令和トラベル創業の想いを綴ったnoteで、「ノープランです」と書いていましたが、それはノープラン状態のゼロイチから関われる意欲的な創業メンバーを募集したいからなのか、それとも実は、本当はぶっちゃけ、篠塚さんの中で考えていることがあるのでしょうか?
清水:
弊社でも、篠塚さんのファンが多いので社内で話題になりましたよ。これは弊社としてもお聞きしたいです。まず、前職のReluxを退任された経緯をお聞きしたいです。
篠塚さん:
辞めた理由は一概には言えませんが、チームが育ってきて、僕がいなくても、会社組織が循環していくようになったことが大きかったですね。社内に優秀なメンバーが多かったんです。僕がいる場合と、いない場合の会社の伸び率を考えた時に、あまり差がないと思って。だから、僕が退くことで、みんなのためになるんじゃないかなと思った次第です。
とはいえ、葛藤がありました。自分自身が直接採用した入社予定のメンバーと一緒に働けなくなったのは、悔しいというか「やり残し感」はありましたね。ただ、退任するべきタイミングは多くないので、退任する決断をバシッとしました。
(篠塚さんはYouTubeでの発信もされています)
清水:
その後に、いろいろな地域を巡られていたと、noteで読みました。
篠塚さん:
そうですね。退任後は仲良くさせていただいているメルカリ社の山田進太郎さんに、「世界を見てまわること」を勧めていただいたんですね。ただ、その時期がちょうどコロナ禍が始まった頃。海外旅行に1カ国も行けなくなってしまったんです。
清水:
それは災難でしたね。
篠塚さん:
なので、緊急事態宣言の合間を縫って、代わりに国内を見て回ることと自身の趣味の見識を拡げる旅をしようと決めたのです。
清水:
何か目的はあったんでしょうか?
篠塚さん:
まずは日本中の、今まで行かなかった場所をぐるぐる巡ることにしました。行ったことのないエリアや出会ったことのない人々とたくさんお話をしていきました。趣味の領域を一気に広げました。
芸術家の方々に「どういう思いでやっているか」「どういう意味を持っているのか」などのお話をお聞きしたり、ワインが好きだったので、ワインを徹底的に深掘りしてさまざまなコミュニティに顔を出してみたり。自分なりにテーマを決めて、自由に1年間歩き回りました。
このコロナ禍だからこそ海外旅行事業に可能性がある?
清水:
その1年間の日本周遊の経験から、令和トラベル創業に至ったポイントはあったのでしょうか?
篠塚さん:
ありましたね。周遊の1年間は、葛藤の連続でした。人生で自分は一体何をしようか?そもそもスタートアップでの仕事をしたいのか?それともサラリーマンになるか?大企業に入ってみるか?など、日々考えました。
周遊の過程では、観光事業以外のスタートアップ、例えば、Eコマースやソーシャルメディアといったインターネット領域から、宇宙やゲノムや原子力といった応用科学を活用した事業など、観光事業の枠を飛び越えて、幅広く調べてみました。そして、1つ気づいたことがあったんです。
清水:
どういったものでしょうか?
篠塚さん:
「Will」「Can」「 Must」の3つの輪のお話はご存知でしょうか?Willは「やりたいこと」、Canは「できること」、Mustは「社会的な使命感」を指しますが、それらにぴったり当てはまったのが海外旅行事業だったんです。
自身のやりたいことや、できることはなんだろうと考えて、やっぱりそのど真ん中に旅行事業が来たんです。そして、このコロナ禍という観光業界が厳しいご時世ではありますが、業界内ではまだ伸び代があると考えていて。
自身の「Will」「Can」「Must」にぴったり沿うのが海外旅行事業だったんです。
清水:
海外旅行事業における可能性を感じたわけですね。そこから、実際に起業に至ったのは?
篠塚さん:
まず調査する中で第1種旅行業免許が必要だと分かりました。そしてこの免許はスタートアップではほとんど持っていないもので、認可にも難易度があり、遅いと1年近くの時間がかかることを知りました。
しかも、この免許を取っておかないと、この免許を持っている大手旅行会社の代理販売のみになってしまう構造があるんです。なので、まずは会社という箱を立ち上げておき、免許だけは取得しておこうと、起業を決意しました。
会社名は令和トラベルなのですが、本当はTABIPPOさんみたいなカッコいい横文字の名前を付けたかったんですが、まったく時間がありませんでした。ちなみに、最後に残った候補としては、篠塚観光がありましたが、さすがにやめました(笑)
その社名を模索する中で、令和を代表する旅行代理店を作ろうと思ったこともあって、令和トラベルの起業に至ったのです。あくまでも仮の名前なので、ゆくゆくは会社名とサービス名は一致させたいと思っています。
逆サイドにチャンスが眠っている。
(太田さんが取り組む新事業「Gariben」)
清水:
太田さんは篠塚さんのチャレンジをどうご覧になっていますか?
太田さん:
会社を辞めた後の経営者って、自分をリセットする時間がありますよね。篠塚さんもそうなんだろうなって思ってましたよ。
篠塚さんが旅行業以外の見聞を広めていたこともあったので、旅行業をやるのは意外でしたね。ワインが好きだと当時から聞いていたので、てっきり本気でワインの事業をやるのかと思っていました。もしくは、YouTubeに本格的にテコ入れしていくのかと......。
篠塚さんに質問ですが、篠塚さん目線で、海外旅行事業のどのような領域に、隙を感じたのか。余す所があれば、今回のウェビナー参加者の皆さんにも分けてあげてほしいです。
清水:
それは、私も興味ありますね。弊社のイベントの参加者は、旅好きの若者が非常に多いですし、ビジネスを実践的に行う人を育てる場所を作ろうと思ってますから。
篠塚さん:
隠すものは特にないですけどね(笑)。旅の事業を選んだのは、結局、自分自身が旅の事業しかやったことないし、大好きだからというのが一番大きいです。
清水:
私が驚いたのが、一番ど真ん中で業界的にキツイと言われる海外旅行事業を選んだことですね。
篠塚さん:
海外旅行業を選んだのは、最近の社会情勢と同じようなことが言えます。
僕は、7〜8割の人たちが「こっちが正しい!」と思っている時こそ、逆サイドを見るようにするんです。
海外旅行なんてわかりやすい例ですよね。コロナの影響で、もしかしたらまだ2年後も業界がキツイとまで言われることもありましたから。
ただ、自分自身はチャンスを感じたのです。
わかりやすい例があったので、紹介します。巷のニュースでは、「ワクチン届くの遅いよな」と政府をバッシングする報道が多いと思います。私もそう思っていました。
でも、データを調べてみると、実はそうでもないことがわかったんです。
例えば、ゴールデンウィーク後に毎週1000万本のワクチンが届いたり、ヨーロッパから輸出されたワクチンの約50%は日本に入ってきたりと、周辺国に比べたらワクチンが届くのが早いことがわかったのは驚きでした。
そもそも、イギリスやアメリカがワクチン摂取が早いのは、国内でワクチンを作っているので。当たり前の結果です。
清水:
なるほど。なるほど。
篠塚さん:
その事実を知ったとき、「僕はメディアに流されて、世間が作ったバイアスのなかにいたんだな」と確信しました。
海外旅行事業に逆張りで起業したのも同じ発想です。その時の思いをnoteに綴ったんです。
そうしたら、その投稿が思ったより周りにウケたんです。もちろん、周りからの反対もありましたが。想像以上の反響でした。
清水:
逆張りの決断すごいですね。コロナで打撃を受けたのは、弊社も例外ではありませんでしたよ。一昨年までは、業績が好調だったのに、コロナ禍で、一気にダウン。
某有名企業の社長さんと会食をしたときに、「TABIPPOはもう潰れるね」と面と向かって言われたこともあって(苦笑)。TABIPPOを心配する声が多かった。とはいえ、社員の奮起のおかげで、この半年間でだいぶ業績回復しました。
篠塚さん:
分かります。前のReluxを立ち上げた時も同じようなことがありました。
清水:
私も創業時を思い出しました。「旅が仕事になるのかよ」と横槍を入れられたこともあります。太田さんも似たような経験、ありますでしょうか?
太田さん:
うちも、風で例えると「凪状態」になったことがあります。「辞めるなら今だよ」と悪魔の囁きが聞こえたこともあります。留学事業では、潰れていく会社も多かったです。
太田さん:
ちなみに、篠塚さんは、令和トラベルでのプロダクトを具体的に決めていらっしゃるのでしょうか?
篠塚さん:
いや、正直プロダクトを創っていくのはこれからです。プロダクト創りに集中するための環境準備をしているといったほうが正解かもしれません。
清水:
具体的に教えてください。
篠塚さん:
2回目の起業ですが、プロダクトを創るための行動にとにかく時間を優先的に割いていきたいと思ったんです。
CEOって大きく分けて4つの仕事があって、1つ目が経営管理、2つ目が資金調達、3つ目が人事・採用、そして4つ目がプロダクトです。そして多くのユニコーン企業を見ているとやはりCEOはプロダクトに時間を割いているなと、気がつきました。他の業務も当然大事なのですが、気にせず取り組んでいるとプロダクトに割く時間が大幅に少なくなってしまう。
なので、創業のもっと前から半年以上の時間をかけて、人事のヘッドを最初に採用しました。リクルート社で人事の責任者をしていた優秀な仲間であり、2007年入社の同期でもあります。採用面接も彼に任せているので、私は最終面接までは出てこないです。
つまり、自分の時間を増やすためのタイムマネジメントに注力したんです。
そのために各セクションのプロを採用しています。これは2回目の起業だからこそ分かったことですね。
清水:
タイムマネジメントの話、私自身も耳が痛い話です(苦笑)
旅行手配のプロセスをDX化する
清水:
具体的に何を目指すプロダクトにする展望はあるのでしょうか?
篠塚さん:
海外旅行手配のプロセスを含めたDX化です。表層的なIT化とかの話ではなくて、私としては、「プロセス全体がデジタルである」ことこそが旅行手配のDXだと思ってます。
清水:
プロセスが鍵なんですね。
篠塚:
そうです。日本の海外旅行において、旅客者が予約依頼を出してからの裏側を説明しますね。
まず、お客さんがアプリで予約ボタンを押します。その後、その通知を代理店が確認。次には、飛行機やホテルやアクティビティの在庫をぐるっとチェック。各在庫がきちんと取れてから、その通知を従業員が予約者に流します。その後に、パスポート番号の入力などもありますね。
JTBやHISなどの大手は、10,000人以上の人員を割いて、この「予約」をアナログで支えています。アナログというのは全て紙という意味ではなく、人力で動いているというイメージです。この裏側をDX化していきたいのです。すべてデジタルによって自動化します。
太田さん:
ちなみにこれはtoB向けですか?それとも、toC向けでしょうか?
篠塚さん:
後者です。大手旅行代理店さんが創ってくれたC向けの海外旅行手配のプロセス全体を改善していきたいのです。「早く・安く・手間がかからない」を実現することで、一般旅行客の皆さんがより一層旅行を楽しんでいただければなと思っています。
清水:
その3拍子素敵ですね。
「早く・手間のかからない」観点で思い出したことがあります。政府主導のGO TOキャンペーンを適用させるために、先日パッケージ型の旅行を久々に個人予約しようとしたんです。予約サイトがまあ見づらい(笑)
篠塚さん:
本当にそうなんですよ!まだまだ「速さの価値」が過小評価されている印象を受けます。
皆さんが普段、生活していて、速いものが好きなはずなんですよ。スマートフォンやPCもサクサク動く方が値段も高いでしょう?電車も車も速いほうが価格が高いんですよ。
旅の予約も同じだと思ってます。ユーザーに今までかかっていた手間を削ぎ落として、海外旅行をより良く提供したいのです。
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イベント参加者からも質問がありました。
Q 競合が起業成長のネックにならないのでしょうか?
篠塚さん:
多くの旅行代理店さんは確かに競合になり得ますが、今日の海外旅行業界を牽引してくださった旅行代理店さんたちからも、しっかりとその歴史あるノウハウを学びたいという所存です。
ただ、先ほど申し上げた通り、予約後の裏側のオペレーションに課題が業界として残っています。その伸び代を我が社が、令和を代表する旅行代理店として改善していきたいのです。
海外旅行事業の約4.4兆円のマーケット内で、さまざまなサービスを改善していきたいのです。
清水:
この業界改善の思いは、篠塚さんの経営者としての強みにも通じるところですね。
篠塚さん:
そうですね。Relux時代もそうだったんですが、私は0から1を創ることは苦手です。ただその代わり、「今あるものを改善していく」ことは得意なんです。
清水:
具体的にどういったユーザー層にアプローチされていくのでしょうか?
篠塚さん:
「ITは不慣れだけど、海外旅行は行きたい層」ですね。
若年層はBooking.comなどでスイスイと予約していくと思いますが、その親世代はそうではありません。ITに多少慣れていても、まずはパッケージ型のみで検討するケースがまだまだ多いです。
太田さん:
旅行業界でのトッププレイヤーを目指すのであれば、ボリュームゾーンであるシニア層も狙っていかなくてはなりません。一方でデジタルに弱いのもシニア層です。シニア層における海外旅行業務のDX化についてどう思いますか?
篠塚さん:
まずアプリなどの流入チャネルだけでは無理でしょうね。ですので、店頭での接客やチラシなどのアナログ戦略もまたキーだとは考えています。ただシニア層よりもまずはヤング層に集中していくために特に検討はしていません。
篠塚さんから、起業家へのメッセージ
清水:
ここまでのお話、大変有意義でした。最後に、初めての起業にチャレンジする20-30代のメンバーに向けたメッセージをいただけますでしょうか。
篠塚さん:
「トレードオフをいかに実現させるか」です。「出来る、出来ない」と単に一つだけを選択していくようでは、並の会社までにしかなりません。
出来ないような難問に出会った時に、せめて「どうすれば双方を同時に実現できるのか?」という思考がとにかく大事です。そうすると、グンと成長角度が大きくなります。ある意味、無茶苦茶なことをしないといけない。分かりやすく言えば、孫正義さんのようにです。
ですので、トレードオフの両立が必要な難題にぶつかった時にそれをどう捉えるか。また、どのようなフォーメーションが必要なのか戦略を練る。それが大事ですね。
清水:
篠塚さん、太田さん、今日はありがとうございました!
セミナー後の反響多数!
イベント後は、「#POOLONEXT」のハッシュタグをつけた反響が多数ありました。
なかには、noteを執筆してくださった方も!