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001 儚き島

2002.2.19
【連載小説 1/260】

「ニンベン」に「ユメ」と書いて「儚」という字が出来上がる。
そう「ハカナイ」という字だ。

人の見る夢が儚いのか?
夢見る人そのものが儚いのか?

椰子の木陰に座って海を見ながら、僕はそんなことを考えている。

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ノースイースト・ヴィレッジの海岸に打ち寄せる波は今日も穏やか。
こうやって一日のかなりの時間を自然のリズムに身を任せて過ごしていると、この現実そのものが夢なんじゃないかと錯覚しそうになる。
いや、慌しく暮らしていた都会の日々のほうが不確実な夢だったのかもしれない…

確かにいえること。
それは僕がこの小さな島、トランスアイランドに移り住んだということ。
そして、まだ数日ではあるがここでの日々が予想以上に快適であるということだ。

さて、ここで、この手記について説明しておこう。

僕の名前は真名哲也。職業は作家。
元来の放浪癖と南方への憧憬心の強さから各地を転々と旅して文章を書くことを仕事にしてきた。
主たる創作は小説なのだがエッセイやノンフィクションの記事を書くこともあれば詩を書くこともある。
好んで書いた作品のフィールドが南洋の島々であったこともあり、数年前からは日本とハワイの双方に拠点をもって活動をしていた。

ITやインターネットの進化は、個人の自由な表現活動と場所を選ばない自在な行動を可能にしてくれた。
そして、その成果を最も効果的に享受したのは僕のような人間なのかもしれない。

ひとところに留まりながら世界中の情報を探ることができるネット環境は執筆前の取材精度を質量共に高めてくれたし、どこへ旅していても完成した作品をボタンひとつで遠く離れた相手先に瞬時に送れるメール環境はグローバルな創作活動を可能にしてくれた。

ひとりの人間が、その思いを文章にする。
それを誰かに伝えたいと願う。
それも出来ればたくさんの人に…
そのためには伝達の経路が必要になる。
それも万民に開かれた広がりのあるもの。

そう、言葉の表現者に対してITやインターネットがもたらしてくれた可能性はあまりにも大きい。

そんな僕が、今度はこのトランスアイランドに住むことになった。
きっかけは、ある日送られてきた一通のメールだった。

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メールタイトルは
「21世紀の『パパラギ』を書いてみませんか?」
差出人はトランス・コミッティ。
そう、この島の実質的オーナーである数人のメンバーからなる委員会だ。

守秘義務があるのでコミッティの面々を公表することはできないが世界レベルで名の通った政治家・財界人・著名人などが名を連ねている。

メールに添付されていた書類に書かれていたのは当時は準備段階であった「Trans Island Project」の概要とそこに住んでレポートを書いてくれないかという具体的な依頼。

「文明から距離をおいた南の島で人類の豊かな未来を模索する物語的社会実験」
とタイトルされたその内容は小説を書く僕にして驚くほど完成度の高いフィクションのようで、その着想と具体的なシナリオの数々に感動を覚えた。

ところが、それはフィクションではなかったのである。

---------- To be continued --------

※この作品はネット小説として20年前にアップされたものです。

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【回顧録】
僕の仕事がアナログからデジタルに変容したのは1995年のWindows95発表が大きな契機でした。積極的に海外へ出かけるスタイルは国内の仕事に穴を空けることにならないか?という不安はeメールベースのやりとりで問題なく仕事が進んだことで払拭され、一気にフットワークが軽くなり海外の仕事を増やしました。
そもそもノマドスタイルの一匹狼だった僕のビジネススタイルはデジタル環境に親和性が高かっただけのことなのですが、当時は想定外の進化が自身に起こったような感じでした。
その後WEBサイト構築やコンテンツ造成の仕事をあれこれこなして迎えた21世紀。掌に乗る電子端末との出会いが創作活動の転機になります。
/江藤誠晃

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