
094.姉妹島構想の目指す場所
2003.12.2
【連載小説94/260】
姉妹都市というインターナショナルな地域間連携関係がある。
例えば僕が生まれ育った日本の神戸という街の姉妹都市は米国のシアトル、フランスのマルセイユ、中国の天津等々。
ハワイと日本間の姉妹都市提携も多い。
ホノルル市は広島市や那覇市。ハワイ群は洲本市や名護市、羽合町などと複数の交流関係を結んでいる。
最近では「えひめ丸」の事故を契機とする愛媛県とハワイ州の姉妹提携調印が話題となった。
また、これも最近知ったことなのだが、トランスアイランドと連携関係にあるマーシャル諸島のマジュロ市は奈良県の河合町と姉妹関係にあるそうだ。
さらに調べると、この姉妹関係が島間において交わされるケースもあった。
1963年に山口県大島郡とハワイ州のカウアイ郡が「姉妹島縁組み」を正式調印しているのである。
このエリアから多く生まれた移民の歴史がきっかけになったらしい。
また、瀬戸内海の小豆島とギリシアのミロス島も、オリーブ産地であることをキーワードに1989年に姉妹島関係を結んでいる。
地球上には様々な親戚関係があって、これらを調べるだけでも結構おもしろい。
縁組みの背景には国家を超えた歴史の深さと人類の交流史が存在するからである。
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『Trans Post』でも報じられたが、トランスアイランドの開島2周年に向けて、島の運営に関する各種会合が開かれている。
この島政会議には、我々エージェントもおおいに関わっており、それぞれの分野から2004年4月以降の島の内外戦略を提言することになっている。
(エージェントの役割は第2話を)
法律エージェントのボブからは、島をインフラとする各種社会実験に対するファンドビジネスの構築。
環境エージェントのナタリーは、「海辺の循環型ライフスタイル」モデル設計。
社会エージェントのドクター海野とマーケティングエージェントのスタンは、既に進行中の「VRツアー」や「プラネタリウムドーム」のプロジェクトを発展させたハイパー博物館構想。
(第56話と第84話参照)
産業エージェントのケンは、航空会社と組んだ観光産業の総合計画。
広報エージェントのハルコは、島外への情報発信事業の多面展開。
と、僕の知る限りでは以上のような提言がなされている。
(詳細については次回以降で紹介していくことにする)
で、文化エージェントの僕の提言がトランスアイランドの「姉妹島構想」である。
この島が国家的組織として目指そうとしているところに共感を持ってくれる環太平洋の島々と姉妹都市ならぬ姉妹島提携を結び、交流活動をネットワークしていこうというものだ。
実は、構想をまとめるにあたって、大きなきっかけとなる2通のメールが最近僕の元に届いていた。
1通はマーシャル諸島のカブア氏から、もう1通は竹富島の奈津ちゃんからだ。
(二人については、カブア氏は第23・26・30話。奈津ちゃんは第70・71話に詳しい)
マーシャル諸島共和国の「マーシャルの未来を考える会」が伝統的な航海術の伝承プログラムをベースに島嶼国家間連携で推進する「talk with coral-珊瑚と語ろう-」のプロジェクトは、その後も順調に準備作業が進んでいるが、いよいよ2004年に国際的なデモンストレーションともいえるPRイベントを計画している。
(詳しくは第61・62話)
カブア氏のメールによると、イベントはカヌーによるリレー式の航海になるらしい。
珊瑚礁に囲まれて生活する民の知恵や地球温暖化等による深刻な問題を映像と言葉によるメッセージ化し、島々を転々とリレーしながら送り続けるそうだ。
小さなカヌーによる航海といえば無寄港の長距離イベントを思い浮かべるが、数100kmの航海で到達可能な島間の道を設定し、日本の石垣島を目指したいという。
そして、目的地となる日本側への協力の依頼が彼から僕の元に届いたわけだ。
日を前後して、その石垣島に近い竹富島の奈津ちゃんから全く別の依頼があったのだから奇遇である。
八重山地方の島唄を学んでいる彼女は、いにしえのアジアにおける民俗交流に大きな興味を持ち、独自の研究活動を重ねているらしいが、その検証作業に加わってほしいというのだ。
僕が第71話に記したマラッカ王国と琉球王国の唄による交流説が、彼女に大きなきかっけを与えたらしく、これもまた自身の創作意欲も手伝って是非にも協力したい活動なのである。
そんなやりとりがあったことも大きく影響して、僕は「姉妹島構想」を提言した。
目指す構想のポイントは、国家的なマクロレベルの提携から人的、文化的交流に派生するトップダウン型の交流ではなく、島民個々のミクロから生まれた自然発生的な交流を共感のもとに皆で育てていくボトムアップ型の提携プロセスだ。
新たな繫がりとは、求めて得るものではなく、日々の営みの向こうに潜在としてある。
多分、トランスアイランドにとっての兄弟姉妹たる島々は、無数の可能性をもって世界中の海に既に点在しているから、あとはその出会いを楽しみに待てばいい…
こんな楽観論も、この島でなら許されると、僕は開島以来の経験の中で確信している。
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「繋がりなくしては、いかなる国家も存在しえない…」
この手記において、何度も繰り返してきたフレーズだ。
開島後2年目も終盤を迎えたトランスアイランドだが、振り返ると様々な出会いがあった。
マーシャル諸島とのカヌーを通じた交流やミクロネシア連邦との考古学研究、ソロモン諸島への支援活動といった国家間交流はもちろん、重ねてきたクロスミーティングに対する環太平洋各地からの参加者も貴重な友好関係を生んだ。
さらに、それらを支える3万人を超えるツーリストの存在。
島に暮らすひとりひとりが有機的に繋がって島が成立していることは充分に実感としてあり、加えて重ねた時間の中で距離を隔てた他の島とも不思議な縁で繋がっていることを僕らは体験として知っている。
コンパクトなサイズの国家的コミュニティに暮らす者にとっては、寄って立つ社会の出来事がそのまま全て私的体験に直結している。
そういう意味では、僕の「姉妹島構想」がここに暮らす皆の共感をもって可能なのだろうと期待している。
------ To be continued ------
※この作品はネット小説として20年前にアップされたものです。
【回顧録】
5年間の連載で『儚き島』には様々な人物が登場することになりました。
物語を旅するように創作していくルールのネット小説だったので、連載開始時に想定していた登場人物は5、6名だったと思いますが、回を重ねるごとに多様なキャラクターを生み出した。
「振り返ると様々な出会いがあった」とこの回に記していますが、本当に多様ま人物が登場し、彼らの間には有機的なネットワークのようなものが育っていきました。
当時の僕はまだアナログな創作をしていたので、テキストは全てキーボードで打ちながら大きめのスケッチブックに描いた人物相関図を書き足しながら創作を続けました。
自分で生み出した登場人物たちなのに、どこかそのコミュニティを客観的に観察するようになったことで、極めて複雑な物語を無理なく育てることができたのですが、これはどこか人生そのもののような営み。
そしてこの5年間で、僕自身のマーケティング感性とスキルを大きく高めることができたように思います。
あれから20年。
今週、還暦を迎えた僕は手前味噌ながらツーリズムマーケティングの分野でまずまずの地位を得て、リアルな人生でも本当に多くの出会いに恵まれる人生となりました。
ただ、若干の疲れを感じるのは、飛ぶようになくなる名刺の数が年間1000枚近くになり、「出会い」の数が身の丈を超えてしまったからです。
人間関係が「大陸的」に広がる疲労感につつまれる今、次の20年に行うべきは人間関係を「島的」にダウンサイズしていくことのような気がします。
/江藤誠晃