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147.真の友好は何処に

2004.12.7
【連載小説147/260】

以前に、大小様々な国で構成される世界は「個」の「独立」を前提とする「分散」傾向の中にあり、国家の吸収合併や統合話はないと記した。

21世紀ネットワーク社会における「集中」と「分散」というキーワードを通じて「独立国家の可能性」を論じた回だったと思う。
第126話

が、最近の中国・台湾問題を見るに前言撤回しなければならないな、との思いがある。

祖国日本に近しい隣国同士において、「ひとつの中国」原則を掲げる中国と、「一辺一国(中国と台湾は別の国)」を主張する台湾が未だ緊張関係の中に対峙しているからだ。

既に充分な文明国家の台湾ではあるが、国際社会における主権国家としての未来は依然として闇の中にある。

さて、なぜ太平洋の島々を舞台とする『儚き島』で台湾の独立問題なのか?と違和感を持たれる読者も多いだろう。

が、TWCの今後をレポートする上でこの問題は避けて通れないものになってきた。

一行が一昨日に到着したバヌアツ共和国が、先月上旬に中国・台湾2国間の政治的駆け引きに翻弄されるかたちでクローズアップされたからだ。

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まずは中国・台湾問題の流れをまとめておく。

歴史を1世紀少し前まで遡れば、そこに日本が登場する。

以下、史実を年表的に列記してみよう。

1895年
日清戦争で清(当時の中国)に勝利した日本は下関条約により台湾を植民地化。

1912年
中国大陸において国民党支配による中華民国が誕生。

1945年
第二次世界大戦の敗北により日本の台湾統治が終了し中華民国に返還される。

1949年
国民党が中国共産党との内戦に敗れ、蒋介石総統が200万人の人々と台湾に逃げ込む。
台湾入りした国民党は島をそのまま中華民国と名乗り続ける。

1988年
李登輝が初めて「本省人」(もともと台湾にいた人)として総統に就任、「台湾はもともと独立した国家である」と主張。

1999年
李登輝による「ふたつの中国」発言。

2000年
独立を目指す民主進歩党の陳水扁総統が誕生し、独立気運が高まる。

この変遷を見れば、現在の台湾が1世紀強に及ぶ日本と国民党政権の支配から開放され、主権国家として真の独立を目指すステージを迎えているのがよくわかる。

では、バヌアツ問題に移ろう。

まず、先月11月3日にバヌアツのボオール首相が台湾を訪問し、外交関係樹立文書に調印したことを台湾の外交部(外務省)が発表。

バヌアツ側の報道官は「中国・台湾両国と関係を維持する最初の国になりたい」と表明する。

ところが、翌4日に中国政府が台湾との国交樹立撤回をバヌアツに求めたことで混乱がおこる。

おまけに、ボオール首相が閣僚や連立政権幹部の事前承諾なしに独断で外交樹立したことが露呈し、バヌアツの閣議も混乱するという事態。

その後10日に中国外務省がバヌアツの台湾との国交樹立撤回を発表しているが、15日にはニュージーランド放送などがバヌアツ内閣の台湾との国交樹立承認報道を行っている。

その後の進捗をインターネット上のニュースに求めてはいるが今のところ事実関係がはっきりしない状況である。

では、なぜこんなことが起きるのかの背景を考えてみよう。

まず、バヌアツのような小国は大国の援助によって成り立つという紛れもない事実がある。

一方で援助する大国の側にとっては、援助する小国の数が国際社会における勢力指標となる。
「金で外交関係を買う」や「太平洋は国交樹立を争う草刈り場」などと評される所以がそこにあるのだ。
(同様の構図といえる捕鯨問題のことを第89話で紹介した)

そして、現代の中国・台湾間の友好国獲得合戦の具体的な現場が国連である。

人口2300万人の台湾は国連に加盟していない。
中国が台湾を独立国家として認めないからである。

そのために日本の外務省のホームページを見ても、アジアの中に中華民国や台湾という国名は見当たらないし、SARS流行時にWHO(世界保健機関)の協力を獲得できず対策に混乱が生じる問題が起きたりしている。

つまり国連加盟こそが国家としての独立を内外に示しうる台湾の悲願なのだ。

しかし、今年の国連総会においても台湾の国連加盟が論じられたが、友好国数で勝る中国に表決の結果94対21で否決された。

なんと12年連続の敗北である。

善意の組織であるべき国連さえも強者の論理で事が進み、そこに参加している小国は戦いの駒の役割を担わされる。

国家間における真の友好関係とは、そんな駆け引きとは異なる場所にあるはずなのだが…

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TWCの航海の今後が少し気になる。

バヌアツの後、一行はソロモン諸島、パプアニューギニア、ミクロネシア連邦、パラオ、フィリピンを経て台湾を訪問することになっているからだ。

太平洋上の島嶼国家を順に巡るジャブロ号が台湾を訪れるのには3つの理由がある。

最終目的地である石垣島の手前に位置する立地条件。

周囲に亜熱帯珊瑚礁をいだく調査上重要なエリア性。

そして、もうひとつの大きな理由がマーシャル諸島共和国との友好関係である。

今年の国連本会議で台湾問題を討議するよう提議した友好15ヶ国の1国がマーシャルなのだ。
ちなみに、ツバル、ソロモン諸島、パラオの3国もその中に含まれている。

TWCの活動が制限されるような政治的圧力がかからなければいいと願うばかりだ。

どんなポジションに位置する国家であっても、環境保全という善意によって成り立つ航海が無事達成される中に明るい未来を見出してもらいたいものである。

------ To be continued ------


※この作品はネット小説として20年前にアップされたものです。

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【回顧録】

ワーケーションでホノルルに着いた途端に飛び込んできた韓国の戒厳令ニュース。

ここのところ韓国に行く機会が多く、年末もベトナムへ行く前にトランジットステイ予定なので、動向が気になります。

連載を重ねていた20年前、お気に入りの南海の島々からASEANの国々へと仕事の舞台を広げていた僕ですが、東アジアに関しては1990年前後に香港、マカオ、ソウルへ一度ずつ訪れた程度で台湾は未開の地でした。

大学生の頃から国際政治への関心が強かったこともあって、シンガポールのリー・クアンユーやマレーシアのマハティール、そして台湾の李登輝の書籍には触れていたので、この回で触れた台湾の国連加盟をマーシャル諸島共和国が支援していることを知った時には「世界」の構造的理解が深まったことを思い出します。

今年も台湾は国連加盟申請を行ったのか?と気になりNEWSを探ったところ、参加支援は9カ国と20年前より減少しているようで、微妙な風が吹く台中関係の影響もあるのか気になります。

日本へのインバウンドが順調に伸びている今、韓国と台湾の旅人は日本にとって大切なお客様なわけで、東アジアのマーケット安定が望まれます。

「韓国左翼化」「台湾有事」には改めてアンテナを張っておく必要性を強く感じています。
/江藤誠晃

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