東京競馬場の今
梅雨の晴れ間を縫って、東京競馬場を見に行ってきました。7月11日(土)の午前中のことです。
競馬が無観客で行われるようになったのは2020年2月29日(土)から。わたしが最後に東京競馬場に行ったのは2月8日(土)で、かれこれ5ヶ月ぶりということになる。
今の時期はもともと東京競馬場で競馬は開催されていないのだから、シンとしているのはまあ当然?
いやいや、通常であれば非開催でも馬券の発売を行っていて、スタンドや広場を開放していたりするので、やはりここまで人がいない競馬場の姿を見ることは大変珍しい状況だ。
競馬場の公式駐車場も当然閉鎖中なので、競馬場を一旦通り過ぎ、京王線府中駅寄りの街中のコインパーキングにクルマを停めて散策開始。
競馬場ホームストレッチと平行に走る道路は競馬場通りという名前が付けられているようだ。以前の土曜日であればかなり往来が激しく、横断歩道にはたくさんの警備員が配置されているのだけれど、この日は人の姿もクルマもかなりまばらだった。
正門。閉まってます。
……っていうか、いつもここの門は基本的に閉まっているので普通だよね。この門はメインレースの後ぐらいになると開放されます。お客さんを効率的に退場させるためですね。
門の両サイドに係の方がずらっと並んでお見送りをしてくれます。
さて、実はわたし、「競馬場で臨時払い戻しをやってる」ってんで、もしかしてちょこっとスタンドに入れたりするのかなあと少し期待して来てみたのだけど。
入場券発売所横の平日払戻所がやってるだけでした。いわゆる銀行ATMと同じような感じで、小部屋に払い戻し機が2台ほど設置されている。入場口はシャッターで固く閉ざされており警備員の方2名ほどが案内のために立っていた。
わたしは勝ち馬投票券の持ち合わせはないのでスルーです。
正門を通ぎて、競馬場通りを東門へ向かって歩きます。
途中で、見たことない門を発見。場内から見て、ローズガーデンの裏手のあたりだろうか。入退場はもちろん、物資の搬入などに使われている形跡もない。馬のレリーフもなかなか凝っていてゴージャスな作りになっている。
さらに東へ。よく見ると、路面の舗装が蹄鉄の模様になっている。なかなか素敵です。
馬の形の看板。事務所って書いてあるね。手前の、歩道を区切るポールもなにげに馬の頭のかたちをしていてかわいらしい。
で、これが事務所の入口。中で働いている人たちはこちらの受付を通って中に入ります。この辺だけは少し人の出入りがあってかすかな「活気」を感じられました。
競馬がやってるときならまずありえない時間の使い方をして、新しい発見がたくさんあった。競馬場というのは本当に、端っこまでよく気を配られて作られたゴージャスな施設だなと思う。
よく見りゃ、柵を支えるポールの1本1本に馬のアタマがついてます。こんなの1個あたりいくらぐらいするんだろうね?w
はい、東門へ到着。
こちらには払戻所もなく完全にシャッターが降りた状態。奥に見えるのが競馬博物館。競馬博物館は開催のない土日や平日にも営業している施設なのだけど、今は臨時休業中です。
わたしは普段からクルマで来場することが多く、開催時は大抵東門を利用しています。もともと利用者がそれほど多くない東門でありますが、平常時はこのあたりに新聞売りの人が立っていたりしますね。
ん? ……シーンとしている中に、何やら生き物の気配。
東門脇の厩舎です。塀の隙間から中の様子を伺うことができました。
わー、ポニーさんたちじゃないですか。
おーい、元気か~。
こちらは乗馬さん。
厩舎の中では厩務員さんたちが忙しそうに働いていらっしゃいました。競馬場としてはお休みでも、生き物の暮らしに「休み」はありませんものね。おつかれさまです。
競馬場ではたらく、競走馬以外の馬たちは、今の暮らしをどのように感じているのだろう。寂しいって思ってるのかな。それとも案外気楽なものなのか。
完全にお客さんが入れなくなった競馬場に行ってみて
実は、わたしが初めて東京競馬場に来た時も、東京競馬場はOFFの状態だった。
あれはまだわたしが関西馬だった頃のこと。なんで開催を外してやってきたのか経緯はすっかり忘れてしまったが、どうしても東京競馬場に行ってみたくて、妹と二人、わざわざ宿を取って東京にやってきたのだった。
開催はなくても、競馬博物館がオープンしていれば場内に入れるし、限られた場所からなら馬場やスタンドを眺めることもできる。
競馬博物館をじっくり見学した後、日吉ヶ丘と呼ばれる芝生の広場から馬場を眺めて、
「あそこが大けやき!」「東京の直線、長いねー!!」
などと騒いでは、競走馬の走る姿やスタンドからの歓声を思い浮かべてドキドキしたものだ。
そのまま帰るのは名残惜しかったので、東門から出て正門へ向かった。例のゴージャスな正門の前で妹とキャッキャ言いながら写真を撮っていたら、通りすがりのおじいさんに声を掛けられた。
「あんたら、競馬が好きなのかい?」
はい、と答えるとおじいさん、
「今日は競馬場閉まっちゃってて残念だね。またやってるときにおいで」
と言って、にこやかに去って行った。
まあ、どこをどう切ってもなんてことない会話なのだけど、思い返してみれば、わたしの競馬人生の中ではその後もこういう会話が何度となく発生している。
競馬が好きな人というのはいつも根底に「自分も競馬好きなんですよ」って表明したい欲を抱えているのかもしれない。開催時の場内であれば「競馬好きなんですか」という問いは明らかに愚問であるが、そういうイベントは微妙なタイミングを突いてふいに発生するから面白い。
まあ、声を掛けてきた老人が実は有名なホースマンだった……!みたいなドラマは一度も起こっていないのだけど。
今回、競馬場の正門前で写真を撮っていると、明らかに馬券の払い戻しにきた訳でもなさそうな、ただの歩行者がちらほら現れては、柵の隙間から場内を伺って寂しそうな視線を送った後、名残惜しそうに立ち去っていった。
もちろん、わたしもその中の一人なんだけど。
「競馬をやる」というだけならテレビをつければグリーンチャンネルで無料放送を行ってくれているし、即PATで馬券も簡単に買える時代だけど、やっぱり競馬ってそれだけじゃないんだよなあ。
門の前まで来て、中を覗いて、寂しそうに帰って行く人々の姿を見て、「何もないのがわかっていてそれでも競馬場に来てしまう」という心理はわたしだけのものではないのだなと思った。競馬好きなんですか、なんて話しかけることはできなかったけど。
「今日は競馬場閉まっちゃってて残念だね。またやってるときにおいで」
昔、声を掛けてくれたおじいさんの声が耳に蘇る。
本当にね。競馬場閉まっちゃってて残念だよね。