空間を彩る音楽は、店舗の売上をも左右する カワムラユキ×久林紘子対談2
空間を音によって唯一無二の記憶に変えるサービス、「サウンドアメニティ」。このプロジェクトに関わるプロデューサー、DJ、選曲家など「音」のプロフェッショナルとして活躍するカワムラユキさんと、パーティースタイリスト・空間スタイリングなど「空間づくり」のプロフェッショナルとして活躍する久林紘子さんの2人が対談。第2弾は、適切な「音」を加えることで変わること、「音」と「記憶」の結びつきについて語りました。
大切な記憶と深く結びつく「音」
――サウンドアメニティのサービスは、どういうシーンにフィットすると思いますか。
カワムラユキ(以下、カワムラ):やっぱり一番はプロポーズじゃないでしょうか。もし思い出の曲があれば必要ないとは思うんですが、美味しいワインやお茶があって、美味しいお料理がある、というところで無音だと盛り上がらない。いつもと違うような、旅先でプロポーズすることもあるかと思うんです。プロポーズする側も、される側も緊張すると思うから、そこに2人の会話を邪魔しない程度に薄く、甘い音楽がかかっていたらプロポーズもうまくいくんじゃないかなと思います。
あとは家族旅行でも、音楽の選曲の主導権を誰が握るか? などでもめたりすることになることもあると思うので(笑)、あえてアウトソーシングしてみよう、という選択も楽しいしアリなのではないかな。それからサークルのメンバー同士や同級生でパーティーなんかをやるときにも使ってもらったら面白いと思います。
久林紘子(以下、久林):私はウェディングのシーンでもすごく需要があると考えてます。私が結婚した頃(15年ほど前)はDIYでやれる時代ではなかったんですよね。ホテルだったらもうパッケージが決まっていて、外部の人を入れるとメイクの人で10万プラス、音楽も10万プラス、という時代でした。
今はだいぶ自由になってきたとは思うんですが、あまり音楽に深くたずさわってこなかったお二人もいると思うんですよ。そういう方達にヒアリングもなく選曲をするのは、空間を作る側としてあまりにも心がないんじゃないかなと思っていて。それが自分の中で色々思うことがあったので、もっとユーザー目線、ユーザーが喜んでくれることをしたくて、身動きが取れる範囲でやろうと決めていました。そういう理由もあり、ウェディングにはあまり関わってこなかったんです。
ウェディングに関してはもっとヒアリングをして、お二人を紐解いてあげてそれに合う曲を提案してあげる、というのがいいんじゃないかなと思っています。そこで結婚式の日に音楽が紐づけば、1周年、2周年の時にもその音楽を聞いて、記憶をたどって、思い出が色濃くなっていく体験ができると思うので。丁寧にヒアリングをしてその人のために選ぶ、ということを大事にしていきたいですね。
あともう1つは、「生きてることを刻む瞬間」に、記憶と音楽がセットになっていればいいなと思うんです。都会に住んでいて時間に忙殺される中でも、誕生日とか、非日常を作れるタイミングでお祝いをする。最近だとハロウィンとか誕生日会、キッズバースデーとかもホテルのお部屋でやる需要なども増えてきているので、ありなんじゃないかなと思います。
カワムラ:キッズバースデー、いいですね。
久林:そうなんです。誰かの家に集まるとやっぱり片付けが大変というのがネックだったりするので、お昼にホテルにみんなで集まって、みんなで割り勘するというのが負担が少なくていいんですよね。海外のパーティーみたいに、自分がホストになって、ゲストを楽しませて、お土産も用意して……という一大イベントになってきているなと。
たとえばそういう時だったら、日本語の音楽だと声を拾ってしまうので、外国人の子供の声のABCソングのBOSSA JAZZなんかをセレクトするとキッズパーティーの雰囲気にも合いますよね。音楽によって、来てくれた人をさらに楽しませられるのが理想ですよね。
それから、同じホテルでやるパーティーでも、ハロウィンや女子会だったらまたシーンごとに音楽の内容も変えて、ってすると、雰囲気も全然変わりますよね。それを提案できると思います。でも選曲って、そもそものストックがないと出せないので。ここをプロがやってくれる、というのは空間づくりの上で可能性がいっぱいあるなと思っています。
適切な音楽をかけるだけで売り上げが変わる
――この「サウンドアメニティ」を導入する上での、施設側のメリットは何があると思いますか。
カワムラ:自分自身も音楽を扱うバー空間を運営していて、独自に選曲したものを流しているのですが、季節や推したい飲み物を意識した選曲を流してあげるだけで、本当に売り上げが変わります。だからプライベートで他のお店やレストランに行くとBGMが気になっちゃって仕方がないんです。
久林:面白いですね!
カワムラ:沖縄の田舎で静かな海が見える綺麗なロケーションで、グルテンフリーとかオーガニックのパン屋さんに行った時、海辺のすごくロケーションがいい場所だったんですけど、音楽だけはEDMがかかっていて……。本当に、音を消して無音にした方がいい! その方が商品が絶対魅力的に見えると思ったんです。EDMが悪いとは全く思いませんが、その空間には全然あっていなかったんですよね。
私はDJを始めた頃に、お店の売上を意識することを1から叩き込まれました。だから今でもじんわりと飲ませるようなDJが得意で、私のやっている音楽がバレアリックやチルアウト系な事もあり、どちらかというとメインフロアの大きい箱の場合は、隣接した小さなバーフロアを担当することが多いんですね。そこであえて引き算しまくりの選曲やミックスをする。
そうすると、メインフロアに疲れてちょっと会話がしたい、友達とゆっくり飲みたいっていうお客さんがみるみる集まってきて、バーカウンターでお酒を頼んだりショットを入れて乾杯したりして、どんどんお酒が出るというシーンに出くわすことも良くあります。それは会話の邪魔をしない選曲や音量を微調整しながら心がけているから。
かといって当たり障りない選曲だけ、というわけでもなくて、なんとなく体も揺らしつつもお酒を飲みたくなる、みたいな選曲をします。たまにバーテンダーさんやマネージャーさんが選曲を褒めにきてくれたりしてくれることもあって、そんな夜は最高に嬉しいですね。
久林:コロナになってから、声を張り上げてしゃべるのって時代に合わなくなってきましたよね。声を張り上げないと聞こえないぐらいのクラブの音量のところには長くいたくないな、みたいな意識になってきたので、適度な距離感で話せる音量の加減や音選びってますます重要になってきてますよね。
カワムラ:本当にそうだと思います。例えば、フェスでワーって盛り上がっている時って、お酒を飲む余裕がないじゃないですか。盛り上がるイコール、飲食物の売上が上がる、というわけではないんです。そこをちょっと気をつけて誘導してあげるだけで、お酒やお料理の存在にも気を留めてもらえるきっかけにもなって、空間をさらに楽しんで頂ける可能性も秘めているなと考えています。
私は小さなお店ではありますが、渋谷の道玄坂という場所で「渋谷花魁」というウォームアップ・バーを13年間続けてこられた。これこそが音楽と売上の関係がうまくいっているということの、まずは証明だと思います。
久林:かかっている音楽が居心地に影響するという話で、私がびっくりしたことがあったんですけど……コロナでしばらく外に出られなくて、自粛後初めて娘と泊まりに行ったのが、舞浜のディズニーランド近くのホテルだったんです。久々の外食で、ワクワクしながら向かったその時のレストランバーがちょっと「え?なんでこれ?」と思ってしまうような選曲をしていて。スキー場でも流れてないよね? みたいな……。
音楽って一歩間違えると雑音になってしまうんだな、というのをその時初めて感じました。さすがにホテルの方に「音楽を変えていただくことってできますか」とお聞きしたぐらいでした。音楽って、大切な時間を良くする場合もありますが、悪くする場合もあるんだなと改めて色濃く感じましたね。
ホテルでもみなさん気をつけられて選曲されていると思うんですけど、ユーザーと合わないものになってしまうと滞在時間も変わるし、選曲や音量はサービスと同じぐらい大切だなって感じました。ホテルがここまで乱立した中で、そこを大事にするだけでも差別化できるなと思います。
カワムラ:例えば食材の産地にこだわるような、それと同じぐらいの気持ちで選曲にもこだわってほしいなって思いますよね。
久林:まさにですよね。空間を構成する重要な要素だと思います。
(聞き手・高橋ひでつう 撮影・構成 藤井みさ クリエイティブディレクション NORISHIROCKS)
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