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ウマとの神秘体験!与那国島の旅23.09②
ども、旅紐夫こーじです。
今回の旅紐綴りは、前回の続きで与那国島での珍道中を小説風に書いていきます。
旅の目的が法事であったこともあり、初日は移動の疲れとバタバタとした雰囲気に呑まれたこともありましたが、夜の与那国でのいくつかの出来事で、結果心も癒されました。
本日は、次の日からです。
ーーー旅紐綴りの登場人物ーーー
宗司・・・主夫で旅紐夫
瑠羽子・・・女性起業家、宗司の妻
結菜・・・瑠羽子の友だち
梨菜・・・瑠羽子の友だち
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ドラマと神秘体験と夕陽の島
日本で一番朝の遅い島、与那国島での朝を迎えた四人。
昨夜は満天の星空に目を輝かせたが、どうやら天気は一転したようで、今日の空は雲で覆われていた。
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法事へ行く準備を済ませ、宗司はひと足先に宿を出た。昨晩は暗くてよく分からなかったが、宿である建物と併設するように隣には家がある。オーナーの自宅だろうか?
沖縄の家はこぢんまりとしていて、どこか可愛らしい。
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女性陣の準備が整ったところで、四人は瑠羽子の祖母宅へと向かう。
祖母宅は昨晩とは違い、テントなども片付けられたようで静かだった。
四人は改めて祭壇に手を合わせて、用意してくれていた少し早めの昼食をいただくことにした。
お昼を終えてからは、墓廟へと向かうらしい。お墓ではなく墓廟と表現したのは、そのお墓の大きさがもはや廟のようだからだ。とは言え、お墓なので、写真はない。
昼食を済ませ、墓地へと向かうまで宗司は庭に出て待つことにした。やたらと広い庭である。
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全てを植樹したのか、たまたま生えたのかは分からないが、庭には何本もの樹が生えている。
昼のうちに見ると、その広さがよく分かる。
もしかしたら、後二軒は家が建つかも知れない。
ふと、宗司は屋根瓦を見た。
沖縄特有の赤い瓦ではあるが、そこにはなぜか菊の紋があしらわれていた。
菊の紋と言えば、天皇家を表すものたが、もちろん瑠羽子の血脈は天皇家と関わりはない。なので、祀る意味合いなのかも知れないが、それでもなかなかお目にはかかれない瓦である。
ただ、瑠羽子は与那国島で代々祭り事を取り仕切る家系のため、その関係で神道とは縁がないとも言えなくはない。ちなみに、瑠羽子で九代目となる。
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祖母宅では、親戚の方々がバタバタと準備を行い、お昼もすっかり過ぎた頃に、ようやく墓地へと向かう準備ができた。
先頭を走る叔父さんの車の後に続いて、瑠羽子たち四人は墓地へと向かう。
道を進むにつれて、昨晩のように辺りには民家などもなくなり、ただただ自然な景色だけが広がり出した。
やがて、車は道路からそれて墓地へと入った。
そこには見たことのないくらい大きな墓廟があった。島で祭祀を司るということの偉大さが一目で伝わる。古代の天皇家や豪族たちが大きなお墓を建てた意味もなんとなく分かるようである。
小雨の降る中、特有のお線香を焚き、法事は静かに終わった。お坊さんがいる訳でもなく、お経をあげる訳でもない。これが代々受け継がれてきた島のやり方である。宗司は色々と興味津々だったが、雨があがったとたん、蚊の大群がどこからともなく湧いてきたので、それどころではなく、皆一目散に退散することにした。
四人は一旦宿に帰り、改めて着替えを済ませてから瑠羽子の案内で与那国を散策することにした。
実は、与那国にはドラマのロケ地がある。
2003年と今から20年も前のドラマにはなるが、Dr.コトー診療所の舞台が与那国だった。設定上、島の名前は与那国ではなかったが、島のあちこちにドラマで出てきた場所がある。
中でも、主人公コトーが滞在していた診療所はそのまま残されており、見学できるとのことなので、四人はそこへ向かった。
島の南へ向かうと、診療所への案内板も目についたが、あまり目立つ感じではなかった。
駐車場も特にはなく、少しだけ開けた場所に車を止めると、目の前には見覚えのある建物が、ポツンと佇んでいた。
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中に人がいる訳でもないが、受付には見学料を支払う箱が置かれていた。建物の維持にはお金がかかるし、これを支払わずに見学するのはルール違反だろう。
診療所の中もまるっきりドラマのまんまだ。
ただし、使用されていた自転車と旗は風雨にさらされぬよう、所内に置かれていた。
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中を覗いていると、ドラマの色々な場面が想起される。長くやっていれば与那国も観光で潤っていただろうことを思うと、残念にも思う。名ドラマなだけに惜しい。
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ひとしきり所内を見た宗司は、外に出て建物横から急な階段を使って、屋上にも登った。
ここに旗が掲げられていたのだが、室内で保管せざるを得ないことは理解できていても、寂しくもあった。
見学を終えた四人は、島内をドライブしながら、与那国島に生息している野生の馬を見に行くことにした。
与那国島には野生の馬がいるのである。
診療所から東へと向かう。
昨晩星を見た東崎の方だ。
しばらく車を走らせると、道にゲートのようなものが設置されていた。
すると、そこから道路上に馬糞が目立つようになる。思っているより多くの馬がいるようである。
車道から草原の方へ目をやると、そこには馬の群れがいた。
「おぉー、すげぇ」宗司は驚いた。
目の前には何十頭という馬たちが、みな一様に草を食べていた。
誰かに飼われている訳ではない。島として保護はしているだろうが、これだけの馬が野生で生息している景色は圧巻である。
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車を道路脇に止め、四人は馬の群れをフェンス越しに眺めることにした。
ここで不思議なことが起こる。
四人が馬を見物していると、1匹の子馬が道路上へとやって来て、静かに四人の方へと歩いて来た。それに気付いた四人が子馬を見ていると、馬は瑠羽子の側へと来て立ち止まったのである。
瑠羽子は馬を撫でながら「どうした?」と馬に問いかけ始めた。子馬はその間、微動だにせずただ瑠羽子に撫でられているだけである。
「えぇ、なにすごいんだけど」と結奈もその光景に驚きながら見ている。
「何か言いたいことがあるの?」と瑠羽子は馬からのメッセージを受け取ろうとしていた。
瑠羽子がしばらく馬を撫でる様子を宗司たちは見ていたが、やがて瑠羽子は思い出したかのように言った。
「あ、この子、前に飼ってた犬の生まれ変わりかもかも。そっか、会いに来てくれたんだね」
と、瑠羽子が涙ぐみながら言うと、子馬は何事もなかったかのように反対を向いて離れて行った。
まるで、そのことだけに気付かせたかったのようであった。「僕は生まれ変わって、今も元気だから安心してね」と。
そんな不思議な体験をした四人は、余韻に浸りながらと、まもなく沈み行くであろう夕日を眺めに今度は島の西へと急いで向かった。
後一時間ほどで日が沈んでしまう時刻だった。
たどり着いたのは、正真正銘の日本最西端つまり、日本で最後まで夕日が見える場所である。
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日本最西端の岬には何組かの観光客がいた。
みなで今日一番遅く沈む夕日を眺める。
気象条件が良ければ、ここから台湾も拝めるのかも知れない。
台湾と与那国島はほんの100km程度しか離れていないという。その事による懸念もあるが、どうかこのまま最西端からの夕日を誰しもが臨めるままであって欲しい。
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与那国島での二日目はこうして幕を閉じた。
法事も無事に終えたので、最終日の明日は改めて与那国観光を楽しもうと話しながら、夜の帷の降りる方へと帰って行った。