『支援付き住宅 大阪釜ヶ崎の状況』認定NPO法人抱樸noteより(その1)
釜ヶ崎には、また西成には敷金・礼金・保証人無しで入居できる部屋がけっこうあります。居宅保護を申請する方が多いので、貸主・仲介業者が対応してきたのだと思います。
良いものから悪いものまでいろいろなサポート(なかにはサポートと言えないものもあるかもしれない…/そして何が良いサポートで悪いサポートかを決めている基準もいろいろかもしれない)を貸主・介護事業所・支援団体がしています。
そんな福祉のカオスの中にあって、ひとつ箍が外れた独創的な居住支援を試してみよう。それが「大阪釜ヶ崎の支援付き住宅」の正体なのです。
インタビュー記事に書かれていますが、釜ヶ崎支援機構の支援付き住宅を利用する場合、居宅保護を活用する方法もありますし、生活保護制度を使わずに仕事で生活の立て直しをめざすこともできます。どちらの場合も最低限の生活に必要な家具や電気製品が部屋に備付けられています。
後者の場合最大で4ヶ月間の家賃や光熱費の補助があり、米やレトルト・インスタント食品の食料支援があります。
ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法に基づく施策がどのようなものかご存じの方ならば、「ははーん、サテライト個室型の自立支援センターということか。しかし、食料が貧弱じゃないか。だいじょうぶかな」と思われるのではないでしょうか。
ホームレス状態になってしまった方を支援するのに個室が有効であることをここではくだくだ言いますまい。「大阪釜ヶ崎の支援付き住宅」の独創ポイントは、次の点にあります。
(1)就職活動の際の交通費、就職した後の交通費の支援がある。
(2)仕事をしている日の昼食代や休憩時の飲料代の支援がある。
(3)相談により携帯代等を支援する場合がある。
自立支援センターでは、この(1)~(3)について、施設内の作業や施設近隣でのアルバイトをして、貯金をすることになっています。
自立支援センターに入所すると1ヶ月間はアセスメント期間ということで、就職活動はできません。健康診断を受けたり、必要な相談や住民票登録などの手続きを進めたりする期間です。
次に就職活動のためのお金を貯めるアルバイト期間が続きます。このようなわけで、実際に就職できるのは早くても3ヶ月目に入ってからということになります。
ホームレス状態になってしまった方を支援する現場では、次のようなことが少なからずあります。「就職先はもう決まっている。けれども住むところがない。給料日まで交通費や生活費をまかなえないので、なんとかならないだろうか」という相談。
このような場合、これまではどう対応してきたでしょうか。相談というのはひとりひとりに対応するものなので、整理のしすぎには注意が必要ですが、概ね次のような対応になります。
(1)今は就職できないので、あきらめてもらい、生活保護の申請か自立支援センター入所手続きに進む。
(2)前借りができないか、就職先に頼んでみるように勧める。
(3)生活保護の申請をしつつ、勤務ができるように支援団体等が本人に貸し付ける。
(1)の場合が一番多いのではないかと思います。この場合、説得がうまくいったとしても本人の落胆は大きいものです。もし、私がその立場に置かれたとしたら、理詰めで説得されたとしても、気持ちの上ではなかなか整理がつかないのではないかと思います。焦りや悩みを既にたくさんお持ちのところに、もう一つ落ち込むというのは、致し方ないこととは言え、考えさせられます。就職というのはその人の人生にとっては、一つの機会ですから、その機会が消えていく社会は、倫理上の課題を抱えていると言えるかもしれません。
(2)前借りができる勤め先、ホームレス状態の方にとっても、その方を支援する人にとっても、これほどありがたいものはありません。「勤め始めたばかりで、申し訳ないんですが、だいぶ貯金を使ってしまって生活がちょっと厳しいんで、前借りお願いできませんでしょうか」という願いに耳を傾けてくれる勤め先はすばらしい。
近年すっかり前借りに応じてくれるような企業が少なくなりました。理由は簡単で、前借り・日払いと対応していると、事務や経理の作業が煩雑になるためです。現金の取り扱いが多くなればそれだけ業務が難しくなるということもあります。合理化して事務方の人件費を削減してきたため、月給1本で処理する企業がほとんどです。小さな商店とか零細の企業は前借りの対応をしてくれることもあるのですが、そうした勤め先は雇い入れる力も小さいため、全体から見ると少数にとどまります。
支援団体は、前借り対応していただける協力企業を増やす工夫を、さまざまにしていますが、数としては伸び悩んでいるのが実情でしょう。
(3)居宅保護の申請をする場合、保護費が支給されるまでスムーズにいく場合で3週間程度はかかります。その手前で雇い主が出勤してほしいと言う場合、どうするか。大阪市の場合、保護費支給までの生活をつなぐため5000円程度区役所が貸し付ける仕組みがあります。これを頼むのが一番良いわけですが、昼食代500円とし、交通費往復500円で、朝昼抜いて5日か…みたいなとても厳しい計算になります。
ところで、支援団体やアパートの貸主などが、仕事を続けるために貸し付けをするということは、原則認められていません。生活保護制度の仕組み上、借金は収入とみなされることになります。原則通りに運用すると借りた分の保護費は後で引かれます。そして、保護費を使って借金を返すことは、これも原則認められていません。
とはいえ、社会通念上許容できる範囲であるか否かによって、いろいろなやりとりが本人とケースワーカーとその他の人々の間で生じている部分でありますので、あまりキメキメで臨むと、かえって生活保護制度の趣旨から外れてしまう内容にもつながりかねませんので注意が必要です。
生活が厳しいから生活保護を申請しているのだから、生活費を極力切り縮めればいいだろうと考える人もいるかもしれません。
新しい仕事に就くと想定して、たとえば昼食についていろいろシュミレーションしてみましょう。職員の一定数が弁当をとっているような工場でしょうか。弁当は給料から差し引かれる仕組みでしょうか。コンビニでパンを買って、休憩室で食べられるような会社でしょうか。車に乗った現場仕事で、仕事仲間とファミレスに寄ったりすることが多い会社でしょうか。ウォータークーラーがある職場でしょうか、体力仕事なのでグループで缶コーヒーを買って休憩するような職場でしょうか。
作業服や安全靴を買いなさいという職場もあります。支給してくれると良いですが、「退職されると無駄になるので、買ってもらってます」という場合がけっこうあります。
ほんとうにいろいろな職場環境がある中で、手持ちのお金がないということが就職できないことや就職しても続けられないことにつながる可能性を想像できるのではないでしょうか。
そこで大阪釜ヶ崎の支援付き住宅では、生活保護をご希望でなく、仕事での生活の安定を希望する方に対しては
(1)就職活動の際の交通費、就職した後の交通費の支援。
(2)仕事をしている日の昼食代や休憩時の飲料代の支援。
(3)相談により携帯代等を支援。
の支援を行うことにより、早期の就職と仕事の継続、自己有用感の低下防止、制度のはざまを埋める活動ということを目標としました。
それでは上記(1)~(3)のような支援は、なぜこれまでほとんどなかったのでしょうか。これは難しいテーマで、次回私なりに考察してみたいと思います。
抱樸に寄せられたご寄付は、使い道として、居室確保の初期費用や家具什器の購入に充てられるものでしたので、あらたに「大阪の未来を支える世代に居住支援を #ほっとかへんで大阪 」のクラウドファンディングをお願いして、そこに寄せられたご寄付を交通費や昼食代の支援のために活用することになりました。
今回は、「安定した住まいはないが仕事が決まっている人」を中心に考えてみましたが、次回『「支援付き住宅 大阪釜ヶ崎の状況」認定NPO法人抱樸noteより(その2)』では、大阪釜ヶ崎の支援付き住宅の取り組みの創造的な部分について、さらに掘り下げてみたいと思います。もちろん、創造的でない部分も掘り下げます。