『農業分野の仕事づくりを釜ヶ崎で!』ご挨拶より
2019年の12月に開催した講演の集いでのはじめのご挨拶です。1年以上経ってほとんど進展がありませんが、大阪で新型コロナの緊急事態宣言が一旦解除される時期に、そろそろこれからすべきことを思い出しておきたいと思い、アップいたします。
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皆さんこんばんは。釜ヶ崎支援機構の松本と申します。今日は「始めの挨拶と締めくくりの話をしてくれ」と言われまして、私最も農業から縁の遠い男でございまして、果たして役が務まるのかなあという風に感じています。「何かがこれもそういう兆しのようなものかなあ」と思いまして,お受けさせて頂いております。
今、私はNPO法人の事務局長を務めていますけれども,本当にNPO法人にも色々あります。地域のため、それから色々な困難をお持ちの方の仕事づくりのため、そういう思いで活動するわけですけれども、実際に活動を始めてみると全くそうした理想とはかけ離れた世界が待っています。とにかく締切、締切、締切。「売れてる漫画家かい」と思うくらい、社会に地域に必要だからといっていろんな受託事業をやればやるほど、仕事に追われてしまいます。
私は子供が今4歳になりまして共稼ぎです。NPO法人で働く場合は特になんですけど、やっぱり生活はけっこう厳しい。
賃金体系が昔は違っていて、働いて頑張れば給料が良かったという70年代80年代という時代もあったわけですけど、今は簡単には賃金をあげられない。
そうした社会構造の中でNPOが導入されて、なかなか行政が手を回せない活動や社会統合の補完をやっていくってことになっている。その結果というと大げさかもですが、私自身は「こんなことを頑張ろう」みたいなことで思っていても、子どもを育てることとの両立はなかなかすごいハードです。
今保育所に通わせてるんですけれども、そうすると朝起こしてから子どもに向かって「早く何々しなさい、早くご飯食べなさい、早く服着替えなさい、早く歯磨きしなさい、早く行きますよ」って言ってます。3歳4歳なのに追い立てていかなかったらもう生活が回らない。こういう世の中になっちゃってます。
子どもが、ふだん親が使っている「早く」っていう言い回しを覚えて、大人の方がかえって「早くやって」みたいな形で攻められて、ますますしんどくなっていくというやぶへびのような状態になったりします。
今、いろんな社会活動をされている方、そんな状況にあるのかなと思ったりするわけなんですけれども、農業っていうのはそういうものじゃないんですよね。
締切があって「すぐ効果を出しなさい」、「早く出しなさい」みたいなことではなくて、ゆっくり植物が変わっていくのに合わせながら、出来上がっていく。失敗するかもしれませんけれども、それを受け止めながら時間を過ごしていく。この農業のあり方っていうものを、これからの世の中はもう1回思い出していかないといけないんじゃないかな、そういうふうに私は思っています。
釜ヶ崎で農業と連携。農業で何とか仕事ができないかということで、何年も綱島先生と一緒に活動しているんですけども、なかなか殻を破れない。破れないけれども、農業のあり方がやはり今のこれからの日本にとってはきっと必要なことになるに違いないと、そういうことを思いまして、私たちは農業を続けていこうと思っております。
よく「命が大切です。人って一人一人違ってそれぞれが大切なんです」みたいなことを言いますけれども、人権とか理想が示す部分,そういう抽象的な概念を使って探るその大切さっていうものは、なかなか実感できないわけです。
ところが農業で一緒にゆっくりとした時間を過ごし、自然の変化を知りながら生きていくことがあるんだなってことを思い出す、こういったことの中では命を大事にするのはどうしたらいいのかが自然に見えてくるんじゃないかと思います。
私たちはホームレス状態の方の仕事や生活を支援する活動をしています。
釜ヶ崎にいてる日雇労働者は、よくこんな風に言われるんです。「好きで野宿してるんやろう」と。ホームレス状態になってるけども、それは「自分で頑張らない生き方を選んでやっているんだ」ということが言われます。
確かに一面の真理なのかもしれません。今この世の中で生きていくためには、本当にたくさんの我慢しなければいけないことがあります。だから野宿している人たちを地域から排除しようとする方たちもいますけど、そうした方たちがどんな想いを持ってるかって言うと、「俺は家族のために頑張ってるよ。会社にいろんな苦情とかいっぱい持ってるけれど、それを言ったらクビになってしまうから辛抱してます。野宿してる奴らはどうや。好きでそこらへ寝転がって好きなことやってるだけやないか」こういう論理で言わはる。でも私は、どっちも今大変なことになっている、そんな中でどうやって時間の使い方と言うか,人との関わり方をシェアできるのかっていうことを考えることが、本当には大事なことなんだろう、というふうに思います。そのことが少し農業を通して見えてくるんじゃないかな、というふうに私は思っています。
もう一つ、この仕事づくりの集中講座ということで学んでいる中では、フリーヘルプという兵庫県でリサイクル衣料のチャリティーショップをやってるところがあるんですが、そこから学ばさせてもらうということで、これも来年ぐらいですね、なんとか釜ヶ崎の方で展開していきたいなというふうに考えているところなんです。フリーヘルプの代表からお聞きしている中では、「リサイクルの衣料に関しても地産地消でいかないといけない、例えば寄付で衣類が北海道から送られてくる。そうすると送料から何からコストがいっぱいかかってる。燃料とかそういったものを使って運搬しているという状況だ。そうではなくて、地域の中で不要になっている衣類を使い尽くしていくという循環を作っていくことが大事なんだ」そういうことを言われています。私はやはり農業も同じでないかと思います。遠くにある美味しいもの食べるって事じゃなくて、大阪で農業をやって私たちの地域で食べるのがいい。とはいえ、なかなか現実は厳しいです。私たちもこの土地で農業したらどうかって持ちかけられることが時折あるんですけど、実は前に工場が建っていて化学的に土壌がダメなんですということが分かって頓挫しちゃったりとか。そんなことがあったりして、なかなか都市の中でどうやったらいいか分からないっていう部分があります。しかし自分たちも作物を作ることに関わりなりながら、そしてそれを近いエリアにいるいろんな方と共有できたらいいなと思います。例えばひと花センターってところで、後で紹介しますけども、そこで採れた野菜を地域のコミュニティ食堂で役立てながら使っています。これはまだ仕事というところまで行けていないかもしれませんけれども、新しい世の中の構成の仕方をやっぱり試していきたいと私は思っています。そんな世の中の新しい構成ができたら、もしかしたらそんなにゆとりのある生活じゃないかもしれないけれども、みんながゆったりとした生き方を選んで行けるかもしれない。そんな風に世の中の新しい構成を試す仕事ができる場所として農業を活性化していくところまで是非とも進めたい。そういう思いがありまして、今日は埼玉の新井さんと藤沢市の小嶋さんにお越し頂いているということです。今日は皆さん、会場からも色々ご意見を頂きながら進めていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。