ホームレス支援の歴史をぶっちぎれ!釜ヶ崎支援機構の選択は!?


 2013年より務めてきました釜ヶ崎支援機構の事務局長を後任に譲るにあたりまして、会報の巻頭言を書く機会をいただきました。この機会を存分に活かし、言いたいことをわりとテキパキ(テキトーに?)書き残しておくことができました。不勉強ゆえの恥ずかしさと掘り下げの無さとはこれから身に摺り込みつつ引き受けていきたいと思います…以下会報58号の巻頭言です。


 歴史を振り返るほどに、ホームレス状態であること・不安定居住の状態であることの問題がなくなるということを想像することは難しいことです。

           ⇒歴史の視野で法人の機能・活動の意味を見る

 

江戸時代の救小屋 炊出し 
江戸時代の救小屋 事務所中央掲示に「施財喜捨人名」とあります。
江戸時代の救小屋 宿所 
以上3点の画像は、渡辺崋山『荒歳流民救恤圖』国立国会図書館デジタルコレクションより

 U.S.A.では、特に住宅価格の高騰により、2020年発表で50万人以上のホームレス生活者がいると言われ、バイデン政権は2025年までの2年間でその数を25%減らすための対策を打ち出すと報道されています。
 支援機構が発足した当時、、学識者は欧米の進んだホームレス対策を参照することを日本の社会に勧めていました。では、そうした先進国でホームレス生活をすることが無くなったのか…残念ですがそのようになっていません。

                                          ⇒学びは歴史と実践・実験との振り返りを足場に

 それでは、日本のホームレスの自立の支援に関する特別措置法や生活困窮者自立支援法が成功したので、他の国はこれに学ぶべきだと言えるでしょうか。そう簡単には言えませんが、少なくとも2000年代以後に実現した法や制度に関しては、私たちも積極的に参与しつつ評価を行っていく時期に来ています。

                                           ⇒評価に基づく提言に力を注ぐ

 ただ広がりのある視点でこの列島をよすがとする人々の行いの歴史をふりかえって見るならば、ホームレス状態という課題への取組みが、緊急に必要となる時 → 緊急事態を経て制度が作られる時 → 時代を経るにつれて制度が社会の実情と少しずつ乖離して来る時 → 再び緊急事態となり古い制度を破棄して新しく作り直さなければならなくなる時という変遷を繰り返していることがわかります。

            ⇒完全で正しい社会への憧れを捨てる

 ホームレス状態という課題がなかなか手ごわくてなくならないので、釜ヶ崎支援機構は存続し続けないといけないという意味ではありません。むしろ制度が作りなおされるように、支援活動を行うNPO法人自体も時代に応じて淘汰していった方が、社会の推移にとっては妥当ということをしっかり心に銘じておかなければなりません。

            ⇒NPO法人が存続する=活動内容が変わり続ける

 このことは釜ヶ崎支援機構にとって、実は前々からある問題意識です。すなわち、もともと木賃宿の集中などで生成した都市周辺のスラムが、ある時期労働政策上特に港湾・建設の不安定労働者層が集中したエリアとなり、経済変動により、ホームレス問題の震源となった、それゆえに緊急事態に対応した施策として、特別清掃事業とシェルターが始められた、ゆえにその時期の課題が終了したら特掃事業とシェルターは終了し釜ヶ崎支援機構もその役割を終えるだろう、というものです。

            ⇒組織を解散できる精神は活動の自由さの指標

 コロナ禍があり、都市における食料配布・相談会に多数の人が集まったこと、東京都ではストリートカウントの予測値でテント小屋掛けのホームレス生活者にかわって路上で夜を過ごさないといけない人々がむしろ増加していると報告されていること、大都市圏ではない自治体では窓口にホームレス状態で相談に来ているにもかかわらずホームレス生活者数としてはカウントされていないという実態などを見て、新しい課題と向き合っていくべきだという判断もありえます。釜ヶ崎支援機構が開設しているライン相談は、当初少しの利用しかありませんでしたが、2022年度は実人数で98人からの相談があり、今後もその数は増加していくことが予測できます。

           ⇒問題を知り、問題と向き合って活動する

 釜ヶ崎という一地域に目を向けてみると、海外からの観光客の増加があるために、ホテル等の宿泊施設が若干の更新はありつつも簡易宿所型で維持されているということがあり、そのため住宅地に変わっていくなどの根底からの変化が行われず、従来型の簡易宿所と並立するという状況となっているようです。星野リゾート等の方が突出した現象と言えそうです。生活保護制度における住宅扶助の上限額が、それで貸主の経営が成り立つ以上、売却等への歯止めとして機能し、住宅費の高騰を抑えているということがありそうです。

           ⇒ジェントリフィケーションの相をより深く見る

 そのため、これからの時代においても、日払週払が可能で保証人等が必要ない宿泊場所を求めて仕事と住まいが不安定な方たちが、釜ヶ崎にやってくるということが想定されます。歴史的に形成されてきた支援団体の活動の変化も含め、サービスハブとしてこのエリアが機能し続けると予測します。

           ⇒福祉のまちとして完結できず変化する釜ヶ崎

 そうした予測のなかで、制度や市民社会の外に半ば立って、必要な取組を社会化し実践してきた釜ヶ崎支援機構は、これまでの活動のレガシー作りに陥ることなく、果敢に課題とぶつかり新しい実践を試みていくならば、組織を維持していくという判断がありえるでしょう。そしてそれは組織をこれから担っていくより若い世代が選びとってこそ価値あるものだと言えるでしょう。

           ⇒世代交代と人材育成の必要

 内閣府による「令和2年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書」によると認定NPO法人の場合、70歳以上が42.0%、60歳以上が30.9%。7割以上が60歳以上の代表者となっています。釜ヶ崎支援機構が仕事の成り立ちや地域の特性上高齢のスタッフの比重が高くなることを考慮すると管理者として若手を登用するように務める方が法人運営として妥当と言えるでしょう。また抱える課題(複数回答)としては、「人材の確保や教育」66.7%、「収入源の多様化」56.4%、「後継者の不足」46.2%となっています。スタッフの育成と登用が大きな課題として共通していることがわかります。また収入源の多様化については、釜ヶ崎支援機構の資金構成としては、受託事業 > 助成事業 > 民間事業 > 寄付金という比重になっており、寄付金と民間事業との確保に力を注ぐ必要がありそうです。

           ⇒現実に立脚した法人運営のバランス

 とは言え、受託事業でありこれまで取り組んできた中心的事業である特別清掃とシェルターとの運営を疎かにしてよいということではありません。こちらも時代の変化を受けとめながら、働いている人宿泊している人の実情を良く聴きながら、実績とデータに基づく企画力や実行力とを持って、行政の構想と相対しうる内実を積み上げていく必要があるでしょう。

           ⇒当事者とスタッフと行政のコミュニケーション

 大きな課題として、西成区の平均寿命が全国ワースト1ということがあります。5月に発表された厚生労働省による市区町村別生命表によると、男性女性ともワースト1位で、男性が73.2歳、女性が84.9歳でした。ちなみに男性の2位3位は浪速区77.9歳、生野区が78.0歳ということで、2位3位との間に概ね5年の差があるということは有意の課題があると考えます。生活が苦しい方が多いためにがん検診の受診率が低い等の問題が言われています。ホームレス状態の方が多いということも原因の一つではありますが、生活保護を受給している人との比率でいうと、生活保護になってからの制度活用や生活の在りようが問題の地盤としてあるのではないかと想像します。特に生きていく中で当初から与えられた格差や差別、失業・離婚・離別などから生じた傷と対峙する方法としてのアルコール・ギャンブルを始め多様な依存症と命とのバランスの結果が寿命の短さへと反映していると考えます。

           ⇒西成区釜ヶ崎全体で取り組むべきアディクション

 ここ数年の間に特掃・シェルターで認知症が進んできた方への対応が増加しました。当事者の方の「働きつづけたい」という気持ち、「シェルターが一番安心できる」という気持ちを尊重しつつ、次の生活へとつないでいく支援は正にスタッフの力量の見せ所であるわけですが、そこが同時に、よりよい支援の技法がないか就労から生活保護へのスムーズな移行について制度面も含めた新たな工夫ができないかを、当事者・スタッフ・行政との対話を介して取り組んでいく現場でもあります。

           ⇒仕事から制度へ制度から仕事へ~実践の力の場

 特掃は、高齢日雇労働者の命綱としての側面を維持しつつ、転職等の可能性が多くあるより若い世代のステップアップ就労として機能しうるような新しい形の就労支援も含んで再構成していくことも考えられるでしょう。あいりんシェルターについては、相談支援・就労支援を多様化し、新労働施設・福利にぎわい施設設置に向けて、生活に困った人、日中を過ごす場所が必要な人たちに開かれて、孤立を防ぐ関係性へと導かれるような施設となりうるよう機能拡充を模索することが考えらえるでしょう。

           ⇒これからの特掃とシェルターの役割を考えていく

 歴史は大きく深く変動しており、その中でホームレス状態を防ごうとする取り組みも、過去の取り組みをなぞらえるだけではなく変わっていくことが大切です。わたしたちがもっているものの中で、時間を越えていくものは、課題と真摯に向き合って為す仕事の中にしか無さそうです。

           ⇒歴史の外へ向けて仕事をする

 今号の会報を見ますと、昨年度に比べてさまざまな実績の数字が昨年度よりもぐっと上がってきています。これはスタッフがひとりまたひとりと現実の課題に即して行動してきたからだと思います。そうしたスタッフに恵まれていることは釜ヶ崎支援機構にとってたいへん大きな幸運だと思います。多種多様な活動を起こしながら、その持続に耐えるだけの粘り強さを釜ヶ崎支援機構全体で培えているのでしょう。

           ⇒人材は貴重な財産

 私事ではありますが、この6月をもって10年にわたり務めさせていただきました事務局長を退任し、サービスハブ構築運営事業の管理者や新型コロナ・住まいとくらし緊急サポートプロジェクトOSAKAの呼びかけ人・代表を務め、現事務局長補佐の小林大悟に交代いたします。私自身は一スタッフとして仕事づくりやアディクションへの取組みのフィールドの活性化を中心に引き続き努力いたします。
 新事務局長は30代ですし、今釜ヶ崎支援機構の中でまた釜ヶ崎の中で徐々に存在感を増してきている新しい世代がこれからどんな活躍をしていくかとてもたのしみです。みなさまにアップデートされてゆく釜ヶ崎支援機構の姿を報告できる時が近い日取りであることを期待しつつ拙文を終わります。
 これからも変わらぬご注目・ご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。


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