ホームレス状態と特別定額給付金
新型コロナ・ウイルスの影響で起きている困窮状態や生活の逼迫を緩和することを目的に特別定額給付金の支給を国が決め、手続きが開始されました。
本人確認書類・住民票と住所・銀行口座、どれもが、ホームレス状態で生活する人が持ちづらく、失いやすいものです。もしこのまま、国・自治体による給付の運用の緩和が行われなければ、ホームレス状態で生活している方に、たくさん給付を受けられない事態が生じることでしょう。
「申請主義」の考え方や、「自己責任」論によれば、給付を受けられないのは、「しょうがない」ということになるでしょう。私は、この問題は、社会的排除のたいへんわかりやすい例であると考えます。
生活の逼迫によるひとりひとりの苦しさを客観的に数値化することは、できないかとても難しいことでしょう。だからこそ収入の多寡にかかわらずの一律給付ということなのだと思います。仮に同じように衣食住に困っている人がいたとして、片方はかろうじて住居があるゆえに、本人確認書類・住民票と住所・銀行口座を揃えることができ、給付を受けることができた、もう片方はすでに住居を失って本人確認書類・住民票と住所・銀行口座を揃えられず、給付を受けることができなかったと考えると、要点がわかります。特別定額給付における課題に限定すれば、住居があるかないかという問題ではなく、住居に結び付けて構想されている制度から零れ落ちてしまう人々がいるという問題です。
ゆえに、二重給付を回避しながら、ホームレス状態で生活する方のできるだけ多数に給付を行えるよう制度の運用をどのように設計するかが、国と自治体にとって、重要な課題として浮上してきていると思います。
今、思いつく範囲ではありますが、ポイントをいくつか挙げてみたいと思います。
(1)自立支援センター・シェルターでの住所の認定を考える。
総務省自治行政局地域政策課特別定額給付金室発行の事務連絡(令和2年4月28日)「ホームレス等への特別定額給付金の周知に関する協力依頼について」という通知を見てみます。
https://kyufukin.soumu.go.jp/ja-JP/download/
この通知の、2段落目に次のように書かれています。
「この場合、住居を得て住民登録を行うことが難しいときも、自立支援センター等が生活の本拠たる住所として認定される場合があります。」と書かれています。
この「自立支援センター等」とは、おそらく生活困窮者自立支援法を根拠法とした「生活困窮者一時生活支援事業」を指すのではないかと考えます。とすると、例えば、大阪であれば、自立支援センター舞洲・ケアセンター・あいりんシェルター等が該当するはずです。
そして、「自立支援センター等が生活の本拠たる住所として認定される」という注意深い国の書き方に注目すると、「住民登録」と「住所としての認定」は異なることを指しているのではないかという読み方ができるわけです。
もちろん自立支援センターは、住民登録できるわけですが、自治体によって多様な「一時生活支援事業」が行われていることを踏まえて、住民登録ではない「住所としての認定」という言い方が出てきたのではないかと考えています。
まず総務省や厚労省に、一時生活支援事業における「住所としての認定」は必ずしも住民登録ではないこと、本人確認ができれば、「自立支援センター等」を設置している自治体が、「住所として認定する」ということを確認してもらうといいのではないかと思います。
「自治体の判断に任せる」という回答でもよいでしょう。国としては、給付から漏れる人がなるべく少なくなるよう自治体は鋭意取り組んでほしいという程度の言及でもよいわけです。
そうなれば、自治体での「こなし」になっていきます。
①本人確認書類あり
②ずっと一時生活支援事業を利用していることを行政の担当者が確認できる。
③住民票が消除されていることを確認した
この3つでもって、一時生活支援事業を実施する自治体が給付の責任を持つことになります。
(2)遠隔地に住民票があって、取り寄せ等によって申請はできたが、銀行口座がなく、遠隔地にある自治体の窓口に取りにいくこともできない場合。
このような人は、けっこういそうです。
(1)の①②と、住民票のある自治体との確認によって、一時生活支援事業を実施している自治体が、住民票のある自治体の給付金を先行して肩代わりし、その費用については、証拠資料の添付とともに、一時生活支援事業実施自治体から、住民票のある自治体に請求を行う。
というのがいいと思います。ただ、自治体全体での調整事項がいることになりますので、(1)以上にハードルは高そうです。が、だからこそ要望する価値があると言えます。もしかすると代行する自治体が事務手数料を1,000円ぐらい取るという話もあるかもしれません。私はホームレス状態で生活する方を支援するNPO法人で働いていますので、なるべくご本人にお金がわたることを望みますが、本人確認等の資料まとめのため、戸籍の附票の取り寄せを行う場合でも、手数料はかかるわけで、行政機関として相場の手数料であれば、考えられないことではないでしょう。
シェルター等の利用をしない方で、野宿をしている方については、自治体が実施している巡回相談による認定ということが可能性としてありえます。「いつもこの人はここで野宿していて、①と③が確認できれば」というわけですが、こうなると、総務省自治行政局地域政策課特別定額給付金室が事務連絡している内容からは大きく外れます。ただ、なんとか方法がないか、知恵をしぼってみる価値のある領域です。
(1)(2)の要望を仮に達成することができたならば、私見ですが、「住民票が消除されているが生活保護を受けたくない」、「住民票はあるが、通帳がない」などの問題をお持ちの方が、相当の規模で、給付を受けられることになると思うのです。民間で相談実務を行う場合は、とにかく本人確認書類の確保にまず取り組めば、先が見えてくる感じとなるでしょう。
郵便物の受取をしてくれる窓口を地域の中でどこに設定できるかも、重要な点となるでしょう。
(3)戸籍がなくて、就籍しないといけない方のこと。
ホームレス状態で生活している方のうち、少数ではありますが、戸籍のない方がおられます。通常生活保護等で住むところを確保した後、家庭裁判所に申し立て、新たに戸籍を作り直す(就籍)を行います。
特別定額給付金の申請期間は自治体が受付を開始してから3ヶ月ということになっています。就籍の手続きを3ヶ月以内に終了することはできません。国の視点からは今まで存在していなかった人の籍を作るわけですから、短期間では種々の確認作業や決定をこなすのが難しいわけです。
就籍について手続きを始めた日が3ヶ月以内に入っていれば、のちにさかのぼって自治体が給付を行う等の対応をするよう求めていくべきと思います。
居住が不安定な方に対して、特別定額給付金の受給を支援するには、行政とのやりとりの多様な組み合わせによって、技術的にクリアできることもたくさんあります。ここでは、技術では越えられない部分、しかし、柔軟な制度運用が求められることについて書いてみました。
これからも日々の取組の中で、気づくことがあれば、書くことにします。