釜ヶ崎でのワクチン接種支援と見えてきた課題について、短いレポート
新型コロナウイルスのワクチン接種、ホームレス状態で生活する人が多い釜ヶ崎でも接種を支援する動きが始まっています。
写真はあいりんシェルターでのワクチン接種相談会のようすです。
あいりんシェルターは、65歳以上の高齢者が多数利用していることから、高齢者施設に準ずる施設と位置付けられました。地域の医療機関との連携で医療従事者向けワクチンの余りを活用して接種を進めています。これにより65歳以上の高齢者約90人が7月上旬までに2回目までのワクチン接種を終える予定です。シェルター利用者の接種率は40%以上に達することになります。
ワクチン接種の希望をたずねると、9割以上の方がためらいはありつつも接種を希望しました。一般の方よりも医療受診について距離がある場合が多いので、この結果は少し意外でした。「みんな受けるって言ってますか」「周りに迷惑かけられへんからねぇ」という具合に接種を希望することが多いようです。
セルフ・ケアの意識が全体として低かったとしても、公衆衛生的な意識は高めになるというのは、シェルターや高齢日雇労働者特別清掃事業などの社会資源をシェアしあっている釜ヶ崎での必要や仕方なさから生ずることと言えそうです。
新型コロナウイルスの感染拡大で、ふだんは隠れている共同性の存在が浮き彫りになったとも言えるかもしれません。
シェルター利用者のワクチン接種支援に続いて、6月15日から釜ヶ崎とその周辺の路上生活者向けのワクチン接種支援が始まりました。こちらの方は、9割が接種希望というわけにはいかないようです。夜回りをしている地域の団体に協力していただき、路上で声かけをしています。郵便物を受け取れる住所がなくてもワクチン接種を受けられることを説明していますが、手ごたえとして、関心をもっていただける割合は10人に1人といった具合です。
制度や行政区分からの視点では、シェルター利用者と路上生活者は別の存在になってしまいます。しかし、一人の人としては、ある日はシェルター利用者で、別の日は路上で野宿かもしれません。仕事や地域のいろいろな施設の利用を通して、生活は厳しくても、人々の豊かな交流があります。
生成・変化している地域の中の共同性や共有の場所を、切り分けた参加やマネジメントとして捉えるだけではなく、往来する人々の交流力の向上や社会資源へのアクセスしやすさの課題として捉え、活動をしていくことが重要です。そのことがコロナ危機で生活困窮に至った人たちが再出発できる大阪のまちづくり全体にも資すると考えます。
結核対策の推進と利用者の利便性の向上をめざし、「あいりんシェルター利用者カード」のシステムが始まりました。当初の予定になかったことですが、新型コロナウイルスの感染拡大予防のために、このシステムが昨年度後半大活躍しました。
公衆衛生の推進は、「命を守る」ために不可欠のことです。しかし、結核の封じ込め、新型コロナウイルスの封じ込めが、ホームレス生活者に対する支援で高すぎる比重を占めてしまうと、人の心は内向きになり、管理的側面が強くなってしまうことに注意しなければなりません。カードシステムでは、新型コロナウイルスが一定制圧されたあと利用者が宿泊のために列に並ばなくても良くなるという自由度の向上や、希望者に仕事や生活の情報を提供することで、交流力を高め孤立を防ぐことを助けていくツールが組み込まれています。
少し話が変わりますが、新型コロナウイルスの影響で帰国できなくなった方の支援をする中で、「ホームレス生活者への支援」についても別の側面からの光が当たったように思います。ホームレス生活者への支援と海外からの移住者への支援のそれぞれの領域はこれまで相互に関心を持ちながらも別々の認識と活動になっていました。しかし、仕事と住まいの不安定と孤立や交流の不足との問題は、二つの領域に共通する課題です。ホームレス生活者も日雇労働者も派遣労働者も海外からの移住者も、定住という要素とかかわりつつ、移動しながら生活をしている人々であり、そこに焦点を当てた理念の形成が、今求められているのではないでしょうか。中国やベトナムから働きに来ている人がたくさん住み着いている近年の釜ヶ崎では、ホームレス支援団体も未来の交流へと自らを開いていくことが大切なことと思います。
新型コロナウイルスの感染拡大で、この列島に寄りついて暮らす人々全体が忍耐と工夫の生活を強いられています。その苦しさをしっかりと踏まえ、社会をよりよい方向へ変えていくことをめざすNPO団体の一つとして、「ピンチはチャンス」の姿勢でこの危機を乗り越えていきたいと思います。