第1話 無機質な日々
都会にひっそりと佇む古いアパートの一室。そこで僕は、無意味に時間を消費していた。20代半ばではあるものの、これと言ってときめくものも無ければ、若気の至りで何かをすることもなかった。
強いていえば、生活保護で暮らす実家の妹のために、色々と頑張ったわけだが、そんな妹も社会人。家族を助けるためにサイボーグのように生きた俺は、人生の目標を見失った。
昔はやりたいことや欲しい物に溢れ、とにかくギラギラしていたはずなのに、たまにそう思うこともあるが、最近はそのことすら考えるのが億劫だ。
時刻は昼になった。
「腹減ったな。メシ買いに行くか」
そう誰もいない部屋で、独り言を言い、男は起き上がった。
男はいつものスーパーで業務用の冷食を買い込み、そしていつもどおり、家に向かう。ただこの日だけは違った。よほど暇で刺激を求めたのか、何故か古本屋に立ち寄った。
「何か家にいても暇だし、面白いゲームとかねえかな~」
男はゲームソフト売り場を物色したが、これと言っていいものは見つからなかった。
適当に店内をうろついていると、文庫売り場であるものを見つけた。
「え、俺が昔書いた本じゃん。何か複雑〜」
懐かしいと思う反面、誰か転売しやがってと思ったり、はたまた共感性羞恥のような感情が生まれたり、とにかく様々な感情が湧き上がってきた。
そして恐る恐るその本を手に取ろうとしたとき、ある女性の手がぶつかってきた。
「すいません!」
「あ、いえ、こちらこそすいません。」
幸い同じ本が2つあったため、取り合いにはならなかった。そして女性はそそくさとその場を立ち去っていった。
男は少しばかり立ち読みしていた。そして執筆当時の思い出にふけていた。
男が店を出ようとしたとき、先程手がぶつかった女性が店から出ていくのが見えた。その瞬間、男はかつて付き合っていた女性のことを思い出した。そして時を同じくして、その女性もまた、かつて付き合っていた男を思い出していた。