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[イラン/ヤズド]イラン版のゴールドジム!?ズールハーネで鍛え抜かれた話
2024年2月、サッカー日本代表がアジアカップにてイラン代表に敗れた。
サッカーは代表戦がやっていたらたまに見る程度の熱量なので、敗戦の理由について何も分析的な視点はもたないが、イランの選手達のフィジカル的な強さは素人ながらに感じた。
そして、イラン人のフィジカルの強さの根幹となっているであろう「力の家」のことを思い出した。
これは2018年8月、イランのヤズドでのお話。
イラン中央部の街・ヤズドに滞在していた僕は、同じ宿に泊まっていた旅行者から「この街には筋肉自慢の男どもが集うジムのような場所があるらしいぞ。」ということを聞き、早速そのジムの門を叩いた。
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道場内には歴代のマッチョ達の写真が飾られており、その肉体がこれからこの場で繰り広げられるであろうトレーニングの過酷さを物語っていた。
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僕がやってきたのは、イランに古来から伝わるズールハーネと呼ばれる肉体鍛錬場で、直訳すると「力の家」という意味らしい。
これは後に知ったことだが、このズールハーネにおける鍛錬は、日本の能や歌舞伎と同じように世界無形文化遺産に登録されているそうだ。
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DJブースに座るおじさんが太鼓を叩き、鐘を鳴らし、時にはマイクで詠唱し、その音に合わせて道場の真ん中に位置するくぼみの中で激しいトレーニングが行われていく。
やっている人たちはかなりきついのだろうが、見ている分にはDJの奏でる独特な節が何だか心地よく、不思議と気持ちがほぐれていった。
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そんなすっかりリラックスしていた僕とは対照的にトレーニングの内容は激しさを増していき、参加者達は大きなミル(棍棒)を持ち出してそれをぶんぶん振り回し始めた。
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あとから僕もこのミルを持たせてもらったのだが、想像を遥かに超える重さで小学生一人分くらいの重量はあるように感じた。
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それを軽々しく振り回すこの人たちの筋力がなんとも恐ろしい。
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一通りのトレーニングを終え二巡目に入るタイミングで、「一緒に参加してみるか。」と優しいお兄さんが声をかけてきてくれた。
もちろんこんな機会を逃すわけにはいかず、有難く参加させてもらった。
まずはウォーミングアップ。
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アップの段階で結構息があがる。
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息も絶え絶えになってきたところで地獄の腕立て伏せ。
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もう勘弁してくれ…。
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ミルを使った運動は危ないから皆のトレーニングが終わったあとに別枠で機会を与えてもらった。
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周りに人がいない状態でよかった。
僕の筋力では隣の人にぶつからないようにミルをコントロールすることは難しかった。
フラフラとみっともない状態で何回かミルを振り回させてもらい、僕のズールハーネ体験は終了した。
しんどかった…さすが「力の家」と謳うだけある。
ちなみにズールハーネのエース(勝手に命名)は、僕が持たせてもらった軽量級のミルの何倍もの大きさのミルを軽々と振り回していた。
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この人こそ、僕に「一緒に体験してみないか。」と声をかけてきてくれた人なのだが、心も身体もマッチョすぎる。
なお、入口に飾られているズールハーネのレジェンド(勝手に命名)は、エースの振り回すミルよりもさらに大きなミルを振り回していたらしく、ズールハーネにおける鍛錬の効果を思い知った。
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そんなズールハーネでトレーニングを体験させてもらいすっかり気の大きくなった僕は、「これでマッチョの仲間入りだな。」なんてことを思いながら、疲れた体を癒すように甘いコーラを一気に飲み干し、ジューシーなチキンとライスを口いっぱいに頬張るのであった。
僕にとってのトレーニングは、罪悪感なくご飯を食べるための通過儀礼でしかないみたいだ。
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2024.03.05