旅の話が続いたので、今回はバイクのレースと写真のエピソードを書きました。
タイトル「光と影」
僕の仕事部屋はそんなに広くはないが、部屋の広さの割にはやや広めのクローゼットがあり、その中は仕事用の機材やスーツケースなど旅の必需品であふれ足の踏み場もない。そこで、新型コロナウイルスの影響で仕事が出来ないこのチャンスを活かし整理整頓を始めることにした。
必要がなくなったもの、とっくに期限切れの非常用食料など、どんどん捨てた。これだけでも気分はいい。しかし、もう必要はないのだが、どうしても捨てられないものがある。そのひとつが、僕も会員のひとりである日本レース写真家協会(JRPA)の写真展で展示されたA1サイズ(594mm×841mm)のパネルである。
JRPAの写真展は毎年開催される。この写真は15年に開催されたときのもので、1月にキヤノンギャラリー銀座で始まり、キヤノンギャラリー梅田、キヤノンギャラリー名古屋と遠征した。この年のテーマは「光と影」だった。
写真展が終わるとパネル用の梱包の箱に収められて返却される。だから、毎年増えていく。その後、選手たちにプレゼントして手元を離れたものもあるが、クローゼットに残っているのが4枚あって、これはそのうちの一枚である。
写真に写っているライダーはイギリスのスコット・レディング。2008年のイギリスGPの125ccクラスで15歳170日で優勝して史上最年少記録を樹立した。その後、18年のバレンシアGPで、トルコのジャン・オンジュに15歳115日でブレイクされるまで、この記録は10年間破られることはなかった。
レディングは、14年から18年までグランプリ最高峰クラスのMotoGPクラスに出場した。このとき、乗っているのはホンダRC213V。撮影したのはスペインのバレンシア・サーキット。14年シーズン終了後の11月に行われた公式テストの最終日だった。断続的に降っていた雨が上がり、雲の切れ間から夕陽が差し込んだ。その瞬間、彼がこのポイントを通過したのだ。
雨はあがるも気温がどんどん下がっていく時間帯。寒さと冷たさに震える中でこの瞬間をじっと待った。うまく撮れたかどうかはわからなかったが、カメラのモニターに映し出された画像を見たとき、写真展「光と影」に提出する写真は、これで決まりだと思ったのだ。
これはウエットコンディションの走りだが、ドライコンディションになるとレディングは、身体を大きくイン側に倒し、時には肩まで擦るライディングで見る者を驚かせる。5年間のMotoGPクラス出場で表彰台に立ったのはわずか2回だが、印象に残る選手だった。
それにしても、久しぶりに箱から出した写真パネルが、なんだか嬉しそうである。夕陽を浴びた水しぶきが、5年前よりキラキラと輝いているように見えるのは気のせいだろうか。
○・・・2008年7月22日のイギリスGPの125ccクラスで当時、史上最年少優勝記録(15歳170日)で優勝したスコット・レディング。となりに立つのは3位のマルク・マルケスで史上2番目となる15歳126日で初表彰台を獲得した。(表彰台最年少記録は、イワン・パラテーゼで1977のベネズエラGPで達成した15歳77日)
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