スペインGPの開催されるヘレス近郊の小さな街から見える景色です。僕の撮る写真は、朝陽、夕陽が多いなあ・・・。
「この景色に値段をつけるとすれば・・・」
ヘレスで行われるスペインGPは、シーズンを通じて、もっとも観客を集めるグランプリである。ヘレスの街は勿論のこと、カディスやアルコスなど、近隣の街のホテルは、カレンダーが発表されると同時にすぐにいっぱいになる。そのため、部屋を確保するのが最優先課題となり、多少、値段が高くても、仕方ないなあとあきらめることになるのだ。
しかし、数年前に「こんなところがあったんだあ」というホテルを知り合いが紹介してくれた。ヘレスから約40km。ヘレスに何十年も来ている人でも知らないだろう山の中にある小さな集落の小さなホテルである。料金は恐ろしいほど安い。
部屋のつくりは、なにもかも料金に見合ったものだったが、いまの倍の金額を請求されても安いことに変わりはない。さらに、つながったり切れたりで状態は悪いがWifiもある。しかし、これは絶対に欲しいよなあと思うもので、ないものがひとつあって、それが「窓」だった。
初めて泊まったときは2階の「5号室」で、どうしてそんなに高くしなければならなかったのか理解不能だが、床から2メートルを超えるところに窓があって外が見えなかった。2度目に泊まったときの「4号室」は5号室と壁を隔てた隣りの部屋で、窓はあったけれど、窓を開けるとなんとそこは廊下だった。
そして、今年割り当てられた「3号室」は、5号室、4号室とは反対方向の奥にあり、うなぎの寝床のような隙間部屋だったが、なんとなんと窓があった。そして、窓を開けるとこんな景色が広がっていて嬉しくなってしまったのだ。
今年のスペインGPは、雨が多く不安定な天候が続いた。夜になると、風力発電機に雷が落ちる。それはそれは恐ろしくすさまじい光景だったが、ついに落雷の写真を撮ることは出来なかった。この写真は、レースが終わった翌日の朝、久しぶりに朝陽が登ってきたときに撮ったものである。
いま、僕は、ヘレスを後にして、約400km離れたポルトガルのサグレスという街に来ている。海辺に建つホテルは、窓はでかくて、海が一面に見渡せて一泊125ユーロだった。そして、海が見えない裏側の部屋は、ちょっと安くて95ユーロなんだという。つまり、このホテルでは、海を眺める料金が30ユーロだったのだ。
ヘレスのホテルは、景色が見えても見えなくても同じ値段だった。そういうことを期待して、このホテルに泊まる人がひとりもいないからなんだろうが、この景色にあえて値段をつけるとすれば、いくらになるのだろうかと思ったのだ。
○追伸・・・「この景色に値段をつけるとすれば」というコラムは、いまから7,8年前、現在休止中の自身のホームページにアップしたものである。写真のホテルは、宿泊代が安いだけでなく、地元の人たちでにぎわう1階のバール、レストランで連日、朝食、夕食を食べても5泊のホテル代と変わらない安さだった。
いくら物価の安いスペインでも、こんなホテルはめったにあるものではない。しかもグランプリウイークだというのに通常料金だということにも驚かされる。そんなホテルも跡継ぎのいないオーナーのぺぺおじさんが売却を決めたことで、去年が最後の滞在となった。
そこで今年はどうしようかと思いながら、同じ街の違うホテルをBooking.comで見つけて予約したが、値段は予想通り、かなり高いものだった。今年は仕方ないが、来年に向けてホテル探しをしなければ、と思っていたら、新型コロナウイルスの影響で5月に予定されていたスペインGPが延期になってしまった。
新型コロナウイルスの感染が終息に向かうことが大前提となるが、予定では7月下旬にスペインGPは無観客で行われる。僕らのような新聞や雑誌の取材陣も、観客同様、当分サーキットに行けない状況が続くことになる。果たして、ヘレスに行けるのはいつのなるのだろうか。ぺぺおじさんの売却したホテルがどうなっているのか見に行きたいと思っている。