
旅生活イチお恥ずかしい姿をさらしました。ごめんの記録【旅バイト7か所目:氷ノ山】
「昨日はお恥ずかしい姿をさらしましたぁ」
出勤時間の朝7:45。
スキーリフト乗り場のわきにある、小屋の引き戸を勢いよく開き、「おはようございまーす!」と言う代わりに懺悔した。
ここは、おてつたびでやってきた、鳥取県のわかさ氷ノ山スキー場。
氷ノ山国際スキー場もあるけど、そっちは別の場所だ。
私よりも10や20は年下のアルバイト仲間に対して、お酒を飲んで失態を晒し暴れたとかそんな理由でないことは、私の名誉を守るため先に言っておかなければならない。
しっかし昨日は、みんなにトンデモな姿をさらしてしまった。
昨日は疲れてすぐ寝てしまったからあまり考えてなかったけど、朝起きたら急に恥ずかしくなってきてしまった。
スキー場にはアルバイトに来ただけで、スキー自体に興味があるわけではなかったのに。
興味がないことをやってみる気になるって、気持ちの変化だけでも相当な衝撃か何かがないとできることじゃないと思う。
しかもこの歳で。
できないしやらないと思ってたスキーを"やってみたい”と思うまででも、相当なことだった。
経緯は上のnoteに書いたけど、やるぞやるぞ詐欺じゃなく有言実行できた。
恐るべしおてつたび、である。
私と同じ期間で来てて、さらに同じくスキー未経験のおてつたび仲間の友人と、いつも出勤しているゲレンデにやってきたのは、昨日のこと。
STAFFジャンパーの代わりに、スキーウェアーを身につけ。
「やっぱりさ、教えてくれる先生は必要だよね」というのが二人の総意だった。
まるっきり初めましての二人がゲレンデに出ちゃったら、何が起こるかわからない。
実際、靴の履き方さえできてなくて教えてもらえた。
そのまま転んでたら板と靴が一緒に脱げて、雪の上で裸足になるとこだった。
先生をお願いして本当によかった。
しかも、平日で他に受講希望者がおらず、たぶん通常は1:5くらいかな? 仕事をしてるリフト乗り場で見ている感じだと。
のところ、1:2で教えてくれるというラッキーな状況。
スキー板の構造から、雪の上での歩き方から……基本的なことを一通りみっちり教えてもらい。
ゲレンデの一番下、すごく滑らかな坂道を登る練習を始めた私たち。
連日、スキーをする人たちの熱量に当てられて、子どもたちのスキー教室や滑る人たちの様子を見ていた。
こんなふうに体を使うのかな? とか体を動かしてみたり、イメトレを繰り返すまでになっていた私。
……まぁまぁの重症である。
やってみよう、あとはなんとかなる。
よく言えば大らかというか、大雑把さがここで発揮されてしまい、となりで一歩一歩堅実に踏みしめる、友人と先生を置いてサクサク登りはじめた。
元塾講師として勉強で同じような状況のとき、先生はゆっくりで手がかかる人を見てしまいがちになる。
そう。
先生が友人の方を見ている隙に、登っては滑り登っては滑りを繰り返し、散々やったイメトレを現実世界で実行し始めた。
ちょっと高いところまで登った私を、えー……(いきなりそんないっちゃう?)という感じで下から見守る先生。
先生の横を滑り降りていくと聞かれた。
「こけるのとか、あんまり怖くないでしょ?」
「イメトレしてたおかげです!」
ひとりは一歩一歩の慎重派、ひとりは早々に暴れはじめるという初心者二人。
先生は近くを滑っていた先生仲間に「ちょっと時間ある?」声をかけはじめた。
ちょっと手に負えないぞと感じたんだと思う。
ごめん。
「今日1、2回乗れればいいと思ってた」
先生が誰にともなくつぶやき、リフトへ早々にいざなわれ。
いつもはリフト乗り場の改札で仕事していたから、毎日見上げてた坂の上に行くのかと、急にビビり始める私。
「そんなとこ行ったらこけますよ!」
「大丈夫、たくさんこけるから」
いっそいさぎよい言葉に、まさに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたと思う。
心の中で「……ですよね!」とつぶやいた。
見てるだけで分かったつもりでいるのと、実際にやってみるのって、時に天と地ほど違う。
そんなことすら分かってなかった。
リフト乗り場で、いつものベテランメンバーが「あ!」と私に気づいた顔をする。
「お疲れさまです」
などと言ってみたものの、心中穏やかではなかった。
あれれ。
停止位置からリフトの椅子までって、こんなに遠かったっけ。
リフトの椅子がターンしてから前に出はじめれば、結構余裕を持って乗れるはず。
そんな確信を思って、数千人もの人を椅子に乗せて、登っていくのを見送ってきたじゃないか。
乗れる乗れる! そう思っていたのと、実際やってみるのがこんなに違うなんて。
「ちょっと、げんそ……」
乗車ポイントで待つベテランメンバーは、私の意図をくみとりながらも「大丈夫、いけるから」と爽やかな笑顔で待っている。
もちろん、本当にダメな時は減速してくれるけど、頑張ってみてといいたげな優しさが伝わってくる。
さっきまで坂をスイスイ降りてたあの勢いはどうしたとばかりに、ヨタヨタであった。
なんとか辿り着くも、椅子が来るのを確認する余裕もなく。
「うぁあ!!」
と何とも情けない悲鳴をあげ、尻餅をつくかの如く、無事に椅子に座れた(?)のだった。
小屋の中を横目で見ると、残りのメンバーが「よし、行ってらっしゃい」と笑顔で手を振っていた。
2回目のリフトは、高校生の女の子に優しく背を押してもらいながら乗車位置に連れて行ってもらい。
悲鳴をあげながら乗車し。
降り口では転び。
降り口で転ぶと、次に降りる人がくるからとても危ない。
と、転んでジタバタしている時に気づき、慌ててやってきたメンバーに起こしてもらい。
起こしてもらいと簡単に書いたけれど、雪上でバランスを崩した大人を起こすのって大変なのに。
もちろん、ゲレンデを滑り降りるのにもかなり転んだけれど、私が初スキーを楽しむためにたくさんの人の力を借りたのだ。
しかも、バイトでお世話になっているメンバーさんたちに。
初めてだからしょうがないって言えばそれまでだけど、ヨタヨタで転んでと、なんとも頼りない姿をさらしたのだった。
いやぁお恥ずかしい。
歳は関係ないのかもだけど、最初に書いたように10も20も下の人たちのおかげで怪我もなくリフトに乗れた。
「昨日はお恥ずかしい姿をさらしましたぁ」
スキーの翌日の、リフト小屋。
ちょっとは笑われるかなとも思ってたけれど、みんな超びっくりするくらいのいつも通りだった。
最初なんてそれが普通だからと。
この仕事場、めちゃ人間できてる人ばかりな、心広い。
本当に感謝しかなかった。
おかげで、スキー教室が楽しくてハマってしまいそうになっている。
本当懲りずにというか。
あと2回、教室を申し込んでしまった。
初めてのスキーが、わかさ氷ノ山スキー場で良かったと心から思う。