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そろそろもう一度、働こうと思えたのは、「とんでもない働き方するね」と言われたから……ではない【旅バイト5か所目:隠岐】

あ、あれは……。
荷物を抱えた人であふれてきたフェリー乗り場で。
見知った人を見かけた私が口を開くよりも先に
「おお! もう帰るんだっけ?」
と向こうから声をかけてもらった。

今日で隠岐の海士町滞在が終わり、18日間のアルバイトでお世話になったホテルEntôからフェリー乗り場でチケットを買っていたときのこと。
滞在中、夜ご飯を食べに行った料理屋の店主さんがいた。

2度しかお店に行けてなかったのに。
私のことを覚えてくれたのはスゴいし流石だなと内心思いながら、松葉杖が目に留まる。
「まだ、治ってなかったんですか?」
お店では松葉杖ついていなかったから、急に膝が悪化したのかと心配がよぎった。
「これから本土の病院で松葉杖返して、経過をみせに行く」
のだそう。

島の人は、本州のことを本土と言う。
「仕事にも慣れたと思ったらあっという間だったでしょ」
確かに、そんな小さな言葉の違いにも慣れたと思ったらあっという間だったな、なんて改めて思った。

「これからどうするの?」
あちこち住み込みでバイトをしながら旅している私。
「年末年始は、新潟に行くんです」
年末年始って……ひとり数えるようにつぶやく店主さん。
「もう、すぐじゃん。とんでもない働き方してるね」

思わず面食らっていた。
そんな自分にさらにびっくりした。

とんでもない?
「いやいや、そんなことないですよ」と返しつつ、とんでもないだろうか? と言葉を反芻する。
店主さんは、「そんなことあるでしょ」って顔でこちらをみている。

とんでもない働き方してる、なんて考えたことがなかった。

思い返してみれば、9月以降は月に3日ほどしか家にいない。
私は主に「おてつたび」というサイトでバイト先を決めていたけど、うまい具合にほとんど隙間なくスケジュールが決まったおかげだ。

おてつたび先でももちろん休みはあるのだけど、やっぱり家で休むのとは感覚が違うし。
シェアハウスだったり、二人部屋だったりすることもあったし。
今回は朝5時起きだったけど、前のところは朝3時起きだったし。

これだけ書くと、朝が劇弱で、割と一人時間もしっかり欲しいタイプの私からすれば、とんでもな部類に入る。

でもなぁ、とんでもない働き方をしてるかって言われたら、なんか違う気がするのだ。

そう、ずっと心が軽い。
仕事はしているけれど、これまでに比べたら全然疲れない。
これまでの仕事が嫌いだったかといえば、そんなことはないのに。
まぁ、詰め込まれるばかりの勉強は嫌いだったけれど。

「たとえば仕事するとして、店主としてお店で働くのとアルバイトだと、違いますよね」
上手くいえない感情は、どうやら伝わったらしい。
なるほどね……など話しているうちに、店主さんは人と合流した。

ひとり、フェリー乗り場の2階への階段を上りながら、ソレは自分への言葉だったことを知る。
人手不足の各地で、それぞれ仕事をいただいて働いてきた。
どこも楽しかった。
仕事も、出会いも、知らない世界を見れたことも。
思い通りにいくことばかりではなかったけれど、幸いなことに、いろんなことをひっくるめて楽しかった。

今年の春に仕事を辞めて4ヶ月ほど、本当にアルバイトすらしていない。
それに比べたら、今の生活はとても濃くてあっという間に過ぎていく。

でもそれって……ひょっとして、自分にとって楽だっただけなのかな?
決して手を抜いてた訳じゃない。
言われた範囲をやることを、そろそろ出たいと思い始めてるのかも知れない。
旅しながら働くの、楽しいんだけど、な。

「何かしたいことはある?」
Entôに来て最初に聞かれたことをふと、思い出す。

日本の各所で仕事して、その地域のことも知れて、好きな場所が増えた。
正直、私がもっと若い時にこんなサービスがあれば、なんて思ったりもした。

楽しくてこれまで転々としてきたけど、もう一度アルバイトでない働き方をしようかな。
もう一度、どこかに腰を据えてという意味で。
なんて思えるようになったのは、きっとこの数ヶ月、各地で旅バイトをしながら出会えた人たちのおかげだと思う。

フェリーの見送りに来てくださったEntôの方達と、船の上から手を振りながら人生初めての船での別れを経験しながら、こういう温かい場所で近い将来働くのもいいのかも、と思ったのでした。

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