娘の笑顔と寝息
娘が生まれた後しばらく、夫の精神疾患のせいで苦しんだ後遺症か、夜中に目が覚めて眠れなくなることがよくあった。過去の苦しみや将来の不安で、頭の中がいっぱいになってしまって。
そんな時はいつも、別室で寝ているまだ小さかった娘の様子を見に行った。そうすると、娘は私が来た気配に気づいて起きてしまうのだけど、私を見ると、いつも微笑んだ。嬉しそうに、にっこりと。その笑顔に、何度救われたことだろう。無条件で、受け入れられている、愛されている、と実感する笑顔だった。
娘の横に添い寝すると、娘はすぐにまた眠りにつく。その寝息に、私は自分の呼吸を合わせるようにする。寝息だけに意識を集中する。余計なことを考えないように。そうすると、いつの間にか、いつもちゃんと眠れていた。
段々と眠れない夜がなくなって、娘は大きくなって、もうあの夜中の笑顔を見ることはなくなった。その後、またもや夫の精神疾患で大変な時期が訪れてしまい、眠れない夜を過ごした時、娘のあの笑顔と寝息を思い出していた。もう一度小さな娘の寝息に合わせて眠ることを夢見ながら、ただ自分の呼吸に意識を向けるようにして、何度も眠れない夜を乗り越えた。
娘が高校生の時、小学生の頃に仲良くしていた男友達が交通事故で亡くなるという悲しい出来事があった。娘は彼の死に深く傷ついて、夜が怖くて眠れない、と私に言ってきた。どうすればいいのか全く分からなかったけれど、一緒に寝る?と聞いてみたら、うなずいたので、久々に娘のベッドで添い寝した。私は普通に寝入ってしまったけれど、夜中にふと目を覚ましたら、娘は眠っていたようだったので、安心してまた眠りについた。娘の寝息を久しぶりに聞きながら。
今でも娘の夜中の笑顔と寝息を思い出すだけで、心が温かくなる。私は、娘に支えられていた。あんなにも強く、支えられていた。今度は、私が娘を支えたい。