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セラピー犬ならぬコンパニオン犬
うちの犬は、もともと夫の精神状態が不安定な頃、夫の情緒面のサポートとコンパニオンという名目で迎えた犬だ。その頃はあまりにも不安定だったから、二人して犬の世話どころじゃなくなることもあって、先のこともよく分からず迎え入れて後悔したりもした。
それでも、うちの犬はセラピー犬でも何でもないけれど、何の思惑もなく、変わらない態度で私達のそばにいてくれた。まん丸な目でじっと見つめられると、ふっと笑顔になったり、泣きたくなったりもした。今思うと、夫よりも私の方が精神的にサポートされていたかもしれない。
初めはまだ子犬だったから、トイレトレーニングが大変だったし、カーペットをほじくって穴を開けてしまったし、今でも散歩中にほかの犬を見ると吠えて、回転して、ジャンプまでして大騒ぎすることもある。でも、あの目で見つめられると心が緩む。
飼い始めた頃、たまにしか家に帰って来ていなかった息子は、うちの犬を見て幸せそうだと言った。不安定で、犬を迎え入れたことに自信がなかった時だったから、その息子の言葉は嬉しかった。
うちの犬はグルーマーの女性が大嫌いで、いつも彼女の場所に行くと逃げ隠れしていた。その内慣れると思っていたけれど、余計に嫌がるようになり、もっとトレーニングしろ、となつかないのを私達のせいのように言われて、違和感を感じた。確かに人を怖がって警戒する傾向はあるけれど、私達のせい?夫は最初から彼女を気に入っていなかったらしい。なぜなら、私は気づいていなかったけど、いつも夫を完全に無視していたから。
そこで、別のグルーマーの女性に変えてみた。最初はまだ逃げようとしていたけれど、今では少しナーバスそうになるだけで、逃げも隠れもしなくなった。新しいグルーマーの彼女は心から犬が好きで、時間をかけてゆっくり丁寧に扱ってくれているようだ。夫にも私にも、分け隔てなく話しかけてくれる。問題はうちの犬ではなく、あの女性だったらしい。最近では、知らない人を怖がることもなくなって来て、あの女性がどれだけうちの犬を人間不信にさせていたのかと驚く。
犬にとっては、人の性別も人種も年齢も関係なく、差別もしない。でも、自分に愛情がない人には敏感なようだ。あのまん丸な目で、人の心を見据えている。もしかしたら、飼い主である私達を人がどう扱い、その人に対して私達がどのように感じているのかさえも読み取っているのかもしれない。自分だけではなく、夫と私のことも守ろうとして。
いつの間にか、家族みんなになついて、本当に幸せそうな犬になったと思う。夫の後ろをついて回り、息子が来ると走り回ってジャンプして喜び、娘に撫でられて目を細めている。ふと振り返ると、いつもあのまん丸な目で私を見つめている。まだたまに不安定なこの家族と一緒にいてくれる立派なコンパニオン犬だ。