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衆議院選挙 在外投票に行ってみた
◎筆者は…
2022年よりUAE(アラブ首長国連邦)の
首都アブダビにて駐在帯同生活中。
海外で長く暮らすのは今回が初めて。
30代のママです。
*****
2024年9月末、自民党総裁選を経て
あれよあれよという間に衆議院が解散。
10月中の衆院選実施が決まった。
筆者は別に特定の支持政党や
強い政治信条がある訳ではないのだが
国内にいた時から、投票はなるべく行く派。
海外にいても投票ができることは
制度として知ってはいたが、
この2年はチャンスがなかったので
今回初めてアブダビにいながらの投票を経験することに。
せっかくなので
どのような手続きが必要かなどを振り返りたいと思う。
◆在外邦人の投票権とは
有権者なのは間違いないが…
まずは基本的な制度の確認から。
そもそも海外駐在員とその家族などの多くは、
国外に引越す際に日本の住民票を抜いている。
(様々な手続きの都合で残している人もいるが
厳密には1年以上海外に住む場合「海外転出届」を出して除票しなければならない)
故に、国内なら自動的に送られてくる
投票の案内は、何もしなければ受け取れない。
ただ、海外在住民も日本国籍を持つ「有権者」なので、
投票権は保障されなければならないことになる。
海外在住民に投票が認められたのはごく最近
海外在住の長さは人によるが
数年後には日本に戻る人も多いし、
そもそも日本の企業や機関に勤めている都合で
海外の地に来ている方も沢山いるので、
参政権があるのは当然のようにも思える。
しかし調べてみると
在外邦人に投票権が認められたのは
ずいぶん最近であることが分かる。
以下は外務省HPの在外選挙制度に関する説明文からの引用。
平成10年(1998)5月6日、在外選挙の実施のための「公職選挙法の一部を改正する法律」が公布されました。これにより、平成12年(2000年)5月以降の国政選挙(衆議院議員選挙および参議院議員選挙)から、海外にお住まいの有権者の皆さんも投票に参加できるようになりました。
【中略】また、当初は、在外選挙等の対象は衆議院及び参議院ともに比例代表選出議員選挙に限定されていましたが、平成17年の最高裁判所の判決を受けた平成18年(2006年)の公職選挙法の一部改正により、平成19年(2007年)6月1日以降に行われる国政選挙から、衆議院小選挙区選出議員選挙、参議院選挙区選出議員選挙と、これらに関わる補欠選挙及び再選挙についても投票できるようになりました。
投票が認められるようになったのが2000年。
しかも当初は比例代表のみで、
選挙区にも投票できるようになったのは2007年のことだという。
海外在住の日本人なんて
もっと昔から沢山いたはずなのだが
それまでの長い期間、投票権は保障されてこなかったのだ。
この法改正は当時海外に住んでいた方が「投票できなかったのは違憲」として裁判を起こし、最高裁が違憲判決を出したことに起因する。
更に、衆議院選挙と同時に行われることでおなじみの「最高裁判所裁判官国民審査」に関しては、なんと今回初めて在外邦人に権利が認められたとのこと。
(経緯はこちらの記事参照)
80年近く前にようやく日本で女性の参政権が認められたのと同様、在外邦人のあらゆる投票権もまた、声を挙げた先人たちが勝ち取ってくれたものなのだ。
朝ドラ『虎に翼』にハマった後なので、なおさらそんなことを意識してしまったり。
まぁかたい話はさておき
せっかくの権利なのだから
きちんと行使しましょう、ということ。
◆在外投票をするためには
引越し前と後、どちらでも手続き可能
どのように投票権を行使するかというと
選挙期間がやってくる前に、いくつかの手続きが必要になる。
これには「出国前に日本で手続き」と「転居後に海外で手続き」の2つの方法がある。
※こちらのページの「出国時申請」「在外公館申請」を参照
「出国前」のパターンは
転出届と同時に「在外選挙人名簿への登録申請」を行い
海外到着後、在外公館で在留届を出すのみ。
筆者はリサーチ不足で転居の際に
この手続きをするのを忘れてしまったのだが、
こちらの方が早くて楽だったなと後悔した。
実際に体験したのは
後者の「転居後に海外で手続き」のパターン。
まずは在外公館に在留届を提出する。
これは在外投票をしたいかどうかに関係なく、
3ヶ月以上海外に滞在する場合は
義務とされている手続き。
実際には、手続きを忘れていても
何か言われることはないのだが、
一応在住国で災害や事件が起きた場合などに
大使館に「ここに日本人がいますよー」と
把握してもらえるためのものなので、
特に事情がなければ提出すると良いかと思う。
で、在留届を出していることを条件に
「在外選挙人名簿登録申請」の書類を
同じく在外公館に出すことができる。
この書類が、日本の該当市区町村
(≒転居前に最後に住んでいた場所)の選管に送られ「在外選挙人名簿」に登録されることとなる。
登録のためには海外に3ヶ月以上住んでいなければならないため
引越してすぐに手続きをしたとしても
(申請自体はそれ未満の時点でも可能)
登録まで少なくとも3ヶ月かかることになる。
申請から登録までにかかる日数は?
「少なくとも」と書いたのは
筆者の実体験では半年以上かかったから。
在留届はこちらへ来てすぐに出していたが
選挙人名簿登録は
「(登録可能になる)3ヶ月以上住んでからでいいや」と
後回しにしたきり、1年半ほど放置していた。
今年初め、そろそろ選挙も近いなということで
ようやく登録申請を提出。
申請書はネットでDLして記入でき、
その他に必要なのはパスポートくらいなので
さほど難しいものではない。
ただ、在外公館が遠いという人にとっては
提出に行くこと自体が大変かもしれない。
(アブダビは中心地から車で15分ほどの所に日本大使館がある)
しかし、そこからが長かった。
名簿に登録されたら大使館から連絡がきて
「在外選挙人証」を取りに行くはずなのだが
待てど暮らせど一向に連絡は来ず。
気付けば8ヵ月以上が経過し
「あれ?連絡待ちで良いんだっけ」と不安になり始めた頃、
衆議院が解散され選挙の公示日が決定。
いよいよ間に合わないぞと大使館に電話してみたところ
「申請は書類を頂いた直後に行っているのですが、まだ到着しておらず…」とのこと。
今回は諦めざるを得ないのかと思っていたが、
それから1週間と経たない公示日前日、
大使館から電話があり「在外選挙人証が到着しました」とのこと。
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海外で投票する際には提示が必要となる
筆者より後から申請したのに今回間に合ったという知人もいたので、
偶然間に合ったと考えるより
選挙の実施が決まったので選管がようやく動いてくれたと考える方が自然かなと思っている。
(多分大使館の職員さんは悪くない)
ちなみに、外務省の案内によると
今年7月から選挙人証をメールで送付できるようになり、交付が早まったとのこと。
筆者の申請は7月以前なので、
従来どおり郵送での到着を待っていたようだが
今はもう少し早いのかもしれない。
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何にせよ、もしこれから海外転居を控えていて
将来的に在外投票を行いたい場合は
なるべく早めにこれらの手続きを済ませておく方が良い。
◆公示から投票までの手順
という訳で、手続きも整い
ようやく投票そのものの方法について。
大使館からお知らせメールが届く
日本のニュースをチェックしていれば
国政選挙の日程を知らないということは
あまり考えづらいが、
在留届を出していると大使館からのメールでも
「選挙実施のお知らせ」が届く。
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全国対象の衆院総選挙や参院選のほか、
各議員の補選が行われる際なども都度都度案内が来る。
※地方議会議員選や首長選挙は
2024年現在、在外投票の対象になっていない
案内メールには
大使館で投票ができる期日や時間帯、
投票に必要な書類などが書かれている。
投票の受付は国内より短い
投票ができる期間については
国内の公示~投票日よりかなりタイトになる。
たとえば今回の場合10月15日公示で
国内での投票日は10月27日(期日前投票は16日~26日)。
これが、アブダビの大使館の場合で
10月16日~19日の実質4日間。
※受付期間は各国の大使館により異なる模様
これは、後述するが投票用紙を郵送するのにかかる日数を考慮しているためだと思われる。
受付時間はアブダビの場合で
この4日間全て9時半~17時だったので
お仕事がある方は土曜日以外はなかなか行きづらいかもしれない。
投票所の様子と投票の流れ
投票受付期間中に大使館に行くと
普段書類などの受付をしている場所とは別に、
投票専用の会場が設けられていた。
雰囲気は国内の投票所に近く、
何名かの立会スタッフ(大使館職員さん)が待機している。
記載台(囲い付きのテーブル)は2、3台で、
その他に在外投票に伴う書類を記入するための
テーブルが置いてあった。
投票作業は、国内の通常の投票より少し多い。
まず、在外選挙人証とパスポートを提示し
「投票用紙等請求書」(だったかな?)という紙に記入をする。
選挙人証にある番号や氏名を自分で手書きし、
投票用紙を請求する選挙の種類にチェック
(今回の場合、衆院の小選挙区と比例、最高裁国民審査の3種類)。
実際には投票用紙は目の前に用意してあるが、
正式に交付するために、この紙への署名が必要ということなのだろう。
さらに、投票用紙を選管に送るための外封筒に
選管の住所(選挙人証に記載)を書き写す。
※選管の場所は人によって違うので
この2つを渡すと、該当の投票用紙を受け取ることができる。
国内の投票所と異なるのは
投票用紙ごとに2つずつ封筒を渡されること。
記載した投票用紙を投票箱に入れる代わりに
まず無記名の小さな中封筒に入れて密封し、
さらにそれを記名した大きな封筒に入れる(今回の場合その作業×3セット)。
作業としては国内での不在者投票に近いかと思う。
候補者名はファイルを参照に記載
国内の投票所であれば、
記載台の壁の部分にその選挙区の候補者名や
政党名の一覧が貼ってあり、
最終確認や漢字のチェックなどをしながら
書いている方も多いかと思う。
(ひらがなでも有効ですが)
大使館に投票に来る人は
投票先の選挙区が皆バラバラなので
「記載台に一覧が貼ってある訳はないよな…、どうするんだ?」と
行く前からやや不安に感じていた。
というのも、セキュリティ上
アブダビの大使館の敷地内にはスマホを持ち込めず、入り口で没収されるからだ。
(投票所で調べ直すわけにいかない)
何らかの情報はもらえるだろうと思いつつ
もし投票所で「え、覚えてないんですか」とか
言われたらどうしよう…なんて考えてしまった筆者。
念には念を入れ、
投票すると決めた人の名前をこっそり
手のひらに書いておいたのは、
今となってはバカな話だった。
もちろん投票所には
ちゃんと候補者名の一覧が用意されていた。
全国の選挙区ごとにラベリングされた
ファイルに綴じられているので
自分の選挙区(選挙人証に何区かも書いてある)の
ページを見れば良いだけ。
名前を暗記しなきゃなんて心配は杞憂だった。
ちなみに、最高裁裁判官の国民審査用紙は
国内の場合、投票用紙に名前が直接印刷されているが、
在外投票の場合は数字が書いてあるだけの用紙を渡される。
これもまた、会場に置いてあるファイルに、
裁判官の名前と番号の突き合わせの表があり、
これを見ながら、バツの有無を考えるという仕組み。
少し調べてみたところ、
選挙のたびに、裁判官の名前を印刷した用紙を各国大使館で用意するのは難しいので
在外投票の国民審査にはこの番号式が採用されたようだ。
封筒を渡して終了
記載済みの投票用紙を前述の封筒に入れたら
それを会場にいる職員さんに渡す。
選挙人証の番号などを確認してもらい、
立会人(係?)の職員さんが
封筒の立会人欄に署名。
始めに選管住所を書いた茶封筒に
全ての封筒が入るのを見届けるよう言われ、
これで投票終了となる。
大使館に到着してから投票を終えるまで
かかった時間は20分ほど。
国内で投票日当日に行った場合と比較すると
やや長めではあるが、ものすごく待たされるといったことはなかった。
煩雑なのはやはり、始めに書いた
「在外選挙人証」を入手するまでの手続きの方だろう。
こちらは一度手に入れれば
同じ国にいる間は使える(住所や名前が変わった場合は別)ので
次回の選挙の際は、投票期間に大使館に行くだけで済む予定。
◆在外邦人の投票率は低い
過去の新聞記事などをいくつか検索してみると
在外邦人の投票率は毎回20%ほどで
国内の投票率の半分以下だという。
今回在外投票を経験してみて
「たしかに面倒だよな」というのが
正直な感想だった。
大使館へのアクセスにも少し触れたが
東京新聞のこちらの記事によると
在外公館まで往復3日かかる、郵便投票の用紙が投票日40日後に届いた、などという例が紹介されており
アブダビは投票環境がかなり良い方だと気付かされる。
海外だけでなく、
国内の投票率を上げるためにも
早くネット投票が導入されると良いなと思う。
以上、初めての在外投票レポートでした。
お読みいただきありがとうございました!