コスパ最強「立山黒部アルペンきっぷ」を使い倒せ
富山県と長野県にまたがる「立山黒部アルペンルート」をご存じだろうか。
黒部ダムや室堂平の雄大な景色を眺めながら標高2000mを超える山岳帯・中部山岳国立公園を公共交通機関だけで通り抜けられる、観光向けに整備されたものとしては他に類を見ない大スケールのルートである。立山登山に向かう登山客でも賑わうが、室堂や弥陀ヶ原などの軽いハイキング程度であれば登山装備なしで気軽に絶景を楽しめるのが魅力だ。
今回はこの素晴らしい観光ルートをお得に周れる夢のようなきっぷを紹介する。
アルペンルートの難点
わざわざお得なきっぷなんか使わなくても普通に休日にさっと行けばいいじゃん…、と思われたかもしれない。それではアルペンルートの魅力を最大限楽しめない可能性がある大きな懸念点が2つほどあるのだ。
①天気が変わりやすい
気軽にアクセスできるとは言え、高山帯であることに変わりはない。立山(雄山)の西側に位置する室堂は、晴れていれば立山連峰の山々が一望できる一方、雲の中に入ると少し遠くの建物すらよく見えなくなる。この前行ってきたときはこんな感じ↓だった。
朝は比較的雲が少ない傾向があるが、天気に「確実」はない。行ってみて景色が何も見えなかった、ではせっかくのアルペンルートの楽しみも半減してしまう。アルペンルートは各所のライブカメラの映像を逐次HPで公開しているほか、立山を挟んで天気が大きく異なることもあるため、柔軟に行程を変えて雲から逃げることができればこの懸念も弱まる。ただそれは次項の理由で難しい。
②値段が高い
山では諸々の値段が高いことは当たり前だが、ここアルペンルートではそれが交通費としても降ってくる。普通に平地で列車に乗る感覚で行くと痛い目に遭うだろう。
このように、富山県側の立山から長野県側の扇沢に出るまでだけでも片道9300円である。実際はこれに富山駅からの地鉄電車の運賃や信濃大町駅/長野駅までのバスの運賃がかかるか、または乗用車の運送サービス料がかかるため、アルペンルートを通り抜けるだけでも1万円以上は必要になると言える。値段を安くするだけならWebきっぷで十分かもしれないが、アルペンきっぷはさらに強力なのである(後述)。
立山黒部アルペンきっぷとは
これらの懸念点を解消するためには、
日程に応じて行程が柔軟に変えられる=一方通行ではなく行ったり来たりできる
安い
きっぷが欲しい。旅行ツアーやWebきっぷは1.に合わず、通常料金で動き回るのは2.に合わず難しい。
これだけでも十分だが、富山・長野までの往復交通費もバカにならない(人が多いと思う)。鈍行列車や夜行バスで行けば安いだろうが、どうせなら特急に座ってゆったり行きたい。混むかもしれないので指定席が良い。そして安く行きたい。
こうした無茶な希望を全て叶えてくれるのが、立山黒部アルペンきっぷだ。
立山黒部アルペンきっぷはJR東海とJR西日本が発売しているお得なきっぷである。経路は複数あるが、簡単に共通点をまとめると
往復とも新幹線・特急の指定席が利用できる(差額を払えばグリーン車も乗車可能;詳しくは旅行記5日目を参照)
往復の一部区間では後戻りしない限り途中下車可能
アルペンルート内、電鉄富山駅~立山駅~扇沢駅~信濃大町駅は乗り降り自由(完全フリー・何度でも行ったり来たりできる)
有効期間は8日間
意味不明なほどの大盤振る舞いである。
でも、お高いんでしょう?
いえいえ。
一部の経路に限って抜粋すると以下のようになる。詳細はこちらとこちらを参照。全て2023年度の値段であることに注意。
東海発 ひだコース
名古屋市内~(中央本線・大糸線)~信濃大町=富山~(高山本線・東海道線)~名古屋市内:21180円
上記に静岡~名古屋の新幹線をつけると27580円
東海発 しらさぎコース
名古屋市内~(中央本線・大糸線)~信濃大町=富山~(北陸新幹線・北陸本線・東海道線)~名古屋市内:24480円
関西発 北陸本線往復タイプ
京都市内~(北陸本線・北陸新幹線)~富山=信濃大町~(大糸線・北陸新幹線・北陸本線)~京都市内:25890円
上記を大阪市内発着にすると26940円
上記を神戸市内発着にすると27670円
上記に岡山~新大阪の新幹線をつけると34020円
上記に広島市内~新大阪の新幹線をつけると38850円
関西発 北陸本線・中央本線利用タイプ
京都市内~(北陸本線・北陸新幹線)~富山=信濃大町~(大糸線・中央本線・東海道山陽新幹線)~京都市内:28450円
上記を大阪市内発着にすると29600円
上記を神戸市内発着にすると31390円
上記に岡山~新大阪の新幹線をつけると38010円
上記に広島市内~新大阪の新幹線をつけると42720円
なんかごちゃごちゃしてきたが、要するに東海~京阪神エリアからなら2万円~3万円程度でアルペンルート内のフリーきっぷと同時に現地までの往復交通費を賄えるわけだ。
元は取れるのか
これがどれだけ凄まじいのか、名古屋市内発着のひだコースを例に計算してみよう。券面と全く同じルートを通常運賃・料金で計算すると次のようになる。
名古屋市内→信濃大町(運賃):4070円
信濃大町駅→電鉄富山駅(運賃):13820円
富山→名古屋市内(運賃):4840円
お気づきだろうか。この時点で合計は22730円。特急料金を入れずともアルペンきっぷ(21180円)の方が1000円以上安いのだ。参考までに通常期の特急料金を示すと
名古屋→松本(しなの号指定席特急料金):2730円
松本→信濃大町(あずさ号指定席特急料金):760円
富山→名古屋(ひだ号指定席特急料金):2950円
あずさ号は本数が少ないので使いづらいとしても、特急料金5000円以上丸儲けである。元は取れるのか、とか呑気なことを言っている場合ではない。
これに加えてアルペンルート内は何度でも好きなだけ乗降が可能なのである。普通にアルペンルートを抜ける以外に追加で乗る分の交通費は実質無料と言っても良い。1乗車2200円のトロリーバスも、何回乗っても何十回乗っても無料である。
アルペンきっぷのさらなる活用法
前々章で示したように、アルペンきっぷを利用すればアルペンルート内を自由に動き回れる。天気の良いところを選んで移動しまくるも良し、トロリーバスなど面白い乗り物を乗り回すも良し。有効期間も長いので、何日かに分けてじっくり楽しむのも良し。アルペンルート内の宿泊施設は高いので、大町か立山富山に都度下りて連泊するも良し。何でもやり放題である。
ここで乗り降り自由のフリー区間をもう一度確認しよう:
アルペンルート内、電鉄富山駅~立山駅~扇沢駅~信濃大町駅は乗り降り自由(完全フリー・何度でも後戻りできる)
よく見ると、いわゆるアルペンルートの特殊な乗り物を乗り継ぐ立山~扇沢(~信濃大町)のほかに富山地方鉄道の電鉄富山駅~立山駅もフリー区間に含まれていることが分かる。せっかくアルペンルートを回るならば、この区間を利用して立山信仰の拠点である岩峅寺や芦峅寺を巡るのもなかなか楽しいのではないかと思う。沿線には他にも常願寺川の砂防堰堤や転石など立山関連の見所に加え、日本最小の自治体である舟橋村やご当地コンビニ「立山サンダーバード」などニッチな面白ポイントも多く、これだけで1日以上は使えるだろう。アルペンきっぷの提示で宇奈月温泉までの割引往復きっぷも購入できるため、地鉄で宇奈月方面へ足をのばしてみても良さそうだ。
【旅行記】アルペンきっぷを使ってみた
この記事の本質はここまでだが、参考までに、私が実際にアルペンきっぷを利用して旅行した際の旅行記をまとめる。モデルコースとして、また平日の混雑状況の参考として読んでいただければ幸いである。私が利用したのは名古屋市内発着ひだコース、19650円(2022年時点)の最安のものである。2022年9月11日から15日まで、4泊5日の日程で利用した。
余談だが、この前日には名鉄の「明治村 時間旅行きっぷ」を利用して博物館明治村を見学していた。こちらも非常にコスパが良いバグきっぷである。
1日目(日) ガラガラの黒部ダムに行ってみよう
松本までは特急しなのの指定席を利用する。追加料金はかからない。
中津川~洗馬(塩尻の1つ手前)までは後戻りしない限り途中下車が可能なので、妻籠宿や奈良井宿などの中山道の町並みや寝覚ノ床などの景勝地に立ち寄ってみるのも良いだろう。
松本では松本城を観光。5年ほど前に一度来たっきりだったのでいつか再訪したいと思っていた。満足。
松本からは1日1本の大糸線を走る特急あずさ号に乗車。アルペンきっぷには座席指定は往復1回ずつまでしか受けられないという制約があるが、あずさ号は指定回数に含まれないのだ。凄すぎる。
信濃大町では駅そばを頂いた後、少し歩いて大町山岳博物館を見学。せっかく北アルプスに向かうのだから予習をしておこうと考えた。ブラタモリでも扱われていた地形の形成史やライチョウについての展示、山岳信仰や明治以降の登山史など、なかなか充実していた。
博物館の脇にある附属園ではライチョウを見ることができた。恥ずかしがり屋なのかあまり顔を出してくれなかったが…。
信濃大町駅までは下り坂。やや汗ばむ陽気だった。
いざ、アルペンルートの玄関口である扇沢へ。ただの路線バスとは言え、700m以上の標高差を力強く登っていく。臨時便だったためか、乗客はなんと自分一人だけだった。日曜の午後からアルペンルートに向かう人は少ないのかもしれない。今日は黒部ダムまで行ったのち、引き返してきて大町に泊まる予定。正規料金ならこの往復だけで5000円以上かかるが、アルペンきっぷなので実質無料である。
扇沢駅ではアルペンルート内で使用するフリーきっぷの発券を受ける。この発券は初めてアルペンルートに入るとき1回のみで良く、2回目以降は乗り物の時間指定もなくそのまま乗り込んで良いらしい。翌日以降乗車券売り場に並ばずに済むのは大きなメリットだ。
少し乗る時刻を遅らせ、トロバス記念館を見学。これから黒部ダムまで乗車する関電トンネル区間には、かつてトロリーバスが走っていた。クラウドファンディングにより廃車予定だった車両を1台保存することに成功したらしい。内部も見学できた。関係者のご尽力に感謝。
後立山連峰の赤沢岳直下を約5.4kmで貫く関電トンネルを走る電気バスに乗車。扇沢駅では上にある給電設備にパンタグラフ(?)を伸ばして高速充電をする様子が見られる。
大町隧道(関電トンネル)工事の最難関であった破砕帯を数秒で通過。当時の並大抵ではない苦労に思いを馳せる暇もないほど一瞬だった。ちなみに混雑状況はこの写真から分かる通り、1両のバスに全員余裕で着席できる程度だった。
黒部ダムに到着。長い階段を上ると…
黒部ダムと黒部湖を一望!人もまばら。
黒部ダムの綺麗な写真はネットにもたくさん転がっているので、ここでは少しマイナーなネタをいくつかご紹介。
黒部ダムはアーチ式に見えるが、よく見るとアーチの両端が直角に折れ曲がっている。この部分のみ岩体が耐えられないために重力式となっている。ブラタモリでは見たことがあったが実際に俯瞰できて感動。
散策していると、上図のようなトンネルの出入口が複数見つかる。現在これらが実際に使われているのかは不明だが、おそらく先ほど通ってきた関電トンネルと繋がっている(いた?)ものと思われる。
迫力ある観光放水の脇に、トンネルのような構造物が見える。工事の際に用いられた歩道なのか、ダムの一部なのかなどはよく分からなかった。
続いて新展望広場で展示を見学。約20分間の映像も観た。映像が始まった時点で時刻は16時半、観光客もまばらだった。映像を見終わると展示室の入口にスタッフの方がいらっしゃり、僕が外に出るや否や施錠なさっていた。遅くまで居座っててごめんなさい。
改めてダムを見に行くと、観光放水が止まっていた。どうやら16:30までらしい。放水は夏~秋であれば朝早くから行われているので、ある意味で珍しい写真が撮れた。
17時を回り、ダムからは人の姿が消えていた。扇沢方面の終バスは17:35だが、怖くなって近くのスタッフさんに念を押して確認したほどだ。観光放水も止まり、人気観光地とは思えないほど静かだった。絶景を独り占め。
慰霊碑と発電所完成の記念モニュメント。ダムの絶景と電力の安定供給は多くの犠牲の下で実現され、現在でも人の不断の努力によって365日24時間支えられている。
終バスに乗り遅れないよう、発車10分前にはこのトンネルに入って駅に向かうよう言われた。時間に余裕を持って駅へ。
ダムは自分含めて3人ほどしか残っていなかったが、駅に戻ってみると10人以上は乗客がいた。登山装備の人もちらほら見受けられた。
先ほども通ってきた関電トンネル、破砕帯を抜けて扇沢に戻ってきた。表示されているのは関西電力のマーク。
バスに乗って信濃大町駅へ。この日は信濃大町駅近くの旅館に宿泊した。
2日目(月) 自由気ままに行ったり来たり
2日目は朝一番のバスに乗るため5時に起床。
この初便への大糸線からの接続は存在しないため、信濃大町駅付近に宿泊しないと乗車することはできない。登山客の方々も多く並んでいたが、余裕で窓側に座ることができた。
車で来る人も多いが、朝一番はさほど混んでいなかった。
始発便を待っていたら面白い光景が見られた。このサイズのバスでも関電トンネル通れるのかな…?
昨日も乗った電気バス。人はそれなりに多かったが、バス2台体制での運行でそこまで混んでいなかった。ただ座席はあまり空いていなさそうだったので、立って前面展望を楽しむことにした。
昨日と同じ道を通って再び黒部ダム展望台に到着。登山装備の方々の多くは急いで次のケーブルカーに乗り継いで行った。
ダムカードでも貰うか、と思い近くの従業員の方に声をかけたところ、なんと配布は9時かららしい。今の時刻は8時過ぎ。ずっと待つのもダルいなあ…
というわけでケーブルカー乗り場へ。黒部ダム駅から黒部湖駅までは歩いて10分はかかるので、乗り継ぐ際はご注意を。
ケーブルカーはそこそこの混み具合で、車内がボックスシート中心であることもあり座れても相席だった。乗車時間は僅か5分なので、一番後ろに立って後面展望を楽しむことにした。
黒部平に到着。後でまた来るので軽く景色を楽しむだけ。
こちらも先ほどと同じくらいの混み具合。一番後ろで立っていた。
この往復10分の単振動だけでも正規料金なら1580円かかるのでアルペンきっぷは偉大。ユーカリが丘線耐久的なこともできますね(やらんけど)。
うっかり歩き忘れていたので遊覧船ガルベ乗り場の近くを散策。早めに引き返したつもりだったが、景色が良すぎて思ったより時間がかかってしまった。
昨日からずっとダムばっか歩いている気がする。よく見たら奥の方に巨大な人工物が見えるけどこれは何だろう?
ダムカードも貰えたのでまたケーブルカーに乗車。楽しい!
黒部平は先ほども来たので庭園を軽く散策。素晴らしい景色。
ロープウェイの改札に戻ると団体客が大量にいてぎょっとした。ただ一般客向けに5分後の続行臨時便を設定してくれたため、ほとんど待たずに乗り込むことができた。アルペンルートは繁忙期には大量の乗客を捌く必要があるため、対応が柔軟でありがたい。
ほんのり冷たい風を頬で感じながら、雄大な自然を前に展望台で突っ立っていた。
一通り景色を楽しんでからは次の交通機関へ。
ここから乗車するのは、日本で唯一となったトロリーバス(※2025年度以降に電気バスに更新される方針が示されており、まもなくこの光景は見られなくなる。乗り納めはお早めに)。法令上は鉄道に分類されている。確かに車両を見るとパンタグラフがついていたり鉄道のような音がしたりと、なかなか面白い。
大観峰ではゆっくり乗ったにも拘らず最前列の「オタク席」を確保できた。かなり空いていた。
平地からは信じられない気温の低さ。火山ガス状況や事故情報なども書いてあり、山の厳しさを実感する。
天気はこんな感じ。翌朝来ればもう少しすっきり晴れるだろうと踏み、この日は軽い散策に留めることにした。複数日にまたがって利用できるアルペンきっぷはこういうときに非常に便利である。
駅前には玉殿の湧水(名水百選)が湧いており、自由に汲むことができる。美味しかった。
どうせ明日も来るので、立山自然保護センターをさっと見学してバスに乗ることにした。
立山高原バスは40分に1本なので、ちょうど曇ってきたタイミングが重なったせいかかなり混雑していた。終点の美女平までの直行便1台と途中天狗平・弥陀ヶ原などに停車する通常便1台が出たが、相席で通路側に座ることになった。霧のために景色は全く見えなかったが、どうせ明日また来るのでいいや。アルペンきっぷ最強。
美女平駅では混雑のためケーブルカーを1本見送ってみたが、結局次も混んでいてあまり変わらなかった。乗車時間は短いのでさほど気にならないが。
通路に立って前面展望を見ることにした。前についている箱のようなものはケーブルカー付属の荷物入れで、かつては資材運搬に用いられていた。現在でも登山客の大きな荷物を運んでいる。
下山!ここまで全て公共交通機関だったというのが俄かには信じがたい絶景の連続だった。後半は天気が微妙だったがまた明日に期待!
少し時間があるので立山カルデラ砂防博物館を見学しようと思ったら休館日だった。明日以降また来よう。
ここからはアルペンルートを外れ、称名滝へ。称名滝探勝バスはアルペンきっぷ利用不可なので注意。片道500円払って乗車。久々に交通費を支払った気がする。
帰りも500円払ってバスに乗車。称名川は強酸性で生物がおらず、非常に澄んでいて綺麗だった。
立山からは富山地鉄に乗車する。こちらもアルペンきっぷで乗り放題で、富山までの区間は途中何回でも自由に乗り降り可能。まだ時間が早くこのまま富山に向かうのも勿体ないので、ありがたく途中下車させていただく。
岩峅寺(いわくらじ)駅で下車。レトロな駅舎は映画「劒岳 点の記」(原作:新田次郎)のロケにも使われており、駅舎内には映画関連の写真も展示されていた。
駅から数分歩いて雄山神社前立社壇を参拝。立山信仰の中心の一つで、入山前の安全祈願などの拠点としての役割を担っていた。
岩峅寺~電鉄富山は上滝経由と五百石経由の2通りのルートが考えられるが、アルペンきっぷはどちらも乗り放題。
電鉄富山駅に到着。今日から富山駅近くの宿に連泊する。日焼け止めを塗っていなかったせいか、首が若干ヒリヒリする。気をつけましょう。
3日目(火) 絶景を求めてリベンジ
今日も富山地鉄にお世話になる。始発の列車に乗車するため4時半起き。
朝一番の列車は「快速急行」。車内はアルペンルートに向かうとみられる客で賑わっていたが、余裕で着席できた。
立山駅で券を買う列に並んでいたところ、企画乗車券類は別枠で優先案内してもらえた。特殊なきっぷなので、分からないことはスタッフさんに聞けば優しく教えてくれる。
始発列車は登山客でかなりの混雑。立席にはなったが、乗車時間が短いので全く気にならない。お盆などの最繁忙期には6:40にも臨時便が出るようなので、詳細についてはHPを参照のこと。
美女平から先のバスの始発は7:40。本来であれば美女平では30分近く待たされるところ、混雑のためか7:15発の臨時便が設定された。美女平駅には売店なども特にないため、この対応は本当にありがたい。
途中の弥陀ヶ原で降りるか迷っていたが、臨時で出るのは直行便と聞いて室堂まで行ってしまうことにした。結局ほぼ全員が窓側に座れる程度の混み具合になった。
室堂は相変わらず雲が目立ったが、昨日よりはかなり視界が良かった。朝は人もまばらで非常に快適。
景色があまりにも素晴らしかったので、雄山をバックに自撮りをしてみた(普段自撮りをしなさすぎて自分が写った写真がほとんどなく、これが2022年末の年賀状になった)。
この日は細かい行程を組んでおらず1日中アルペンルート近辺をうろうろする予定なので、かなり自由に散策ができた。登山装備を持って来ていないため登山道には入らないが、ハイキングだけでも十二分に楽しい。
人とすれ違うのがやや大変な道を通り、映画「劒岳 点の記」にも出てきた玉殿岩屋へ。佐伯有頼の立山開山伝説の聖地とされている。
散策しているうちに天気は徐々に良くなっていき、晴れ間も所々見えるようになってきた。今のうちに弥陀ヶ原を散策してしまおうと思う。
微妙な時間帯だからか、さほど混んでいなかった。
弥陀ヶ原バス停に着くと、バス停の係員さんが下車客に帰りのバスの時刻を聞いて回っていた。室堂~美女平間の途中バス停から乗車するには、バスが始発駅を出発する前までに待合所で予約が必須なので注意。降りたらすぐ帰りの席を押さえるのが最も安全だろう。
立山カルデラ展望台まで足を延ばすつもりだったが、クマ注意の看板にひるんで断念。気になる人は熊鈴を持参すると良いと思う。
室堂に戻ってきた。思ったほど天気が良くないので、少し移動してみることにした。
本来は1乗車2200円のトロリーバスに再び乗車。険しい山を挟んだ反対側に気軽に行けるこの凄まじさよ。
27時間ぶり2回目の大観峰。室堂側よりも雲が少なく、開放感が半端ない。
大観峰からさらに乗り継ぐ。乗り物はもはや移動手段というよりも無料アトラクション感覚。
もはや黒部平ブラックドッグを食べるためだけに黒部平まで戻ってきたみたいな状態。
帰りのロープウェイはなぜかガラガラだった。
一通り見たいところは見れたので富山に戻る。次来るときは雲一つない快晴だと良いな!
帰りも窓側に着席できた。よほどの繁忙期でない限り、かなり十分な座席数が確保されているものと思われる。
バスが早着し、なぜか-10分乗り換えに成功(?)
昨日は閉まっていた立山カルデラ砂防博物館にリベンジ。とは言え17:00で閉まってしまうので超大急ぎで見学。大学生以下は無料!
博物館はもちろん一部しか見られず、再訪を決意。アルペンきっぷのおかげでホイホイ移動できて楽しい1日だった。
4日目(水) 芦峅寺で立山信仰に触れる
この日も早起き。朝は資料館系は閉まっていることが多いので、乗り鉄に勤しむ。
あらかじめ運用を調べて当てたアルプスエキスプレス。
岩峅寺で単振動。座席の回転方法が分からず、同業者っぽい方に教えていただいた。座席下にレバーなどはなく、背もたれを軽く押すと回るらしい。
1日1本、富山方面しか運転されない富山地鉄の急行列車に乗車。アルペンルートのアの字もない乗り鉄にもアルペンきっぷは大活躍である。富山地鉄を乗り回すなら、アルペンきっぷを購入してついでにアルペンルートも楽しもう。
お次は越中舟橋へ。
日本一小さな自治体として知られる舟橋村を散策。市境からは北陸新幹線もよく見えた。
またまた電鉄富山に戻ってきた。アクロバットな縦列停車。
続いては見覚えのあるこちらの車両。西武からやってきたレッドアローで運転される臨時列車に乗り、再び立山に向かう。途中は立山連峰や千垣鉄橋についての観光案内放送も入った。
立山到着後、急いで単振動。フリーきっぷだからこそ許される乗り方である。
千垣に到着し、立山博物館に向かう。バスもあるようだが本数が少ないため、今回は歩いて行くことにする。
歩道がない箇所があるので、歩く方はお気をつけて。交通量はそこまで多くないです。
博物館の前に腹ごしらえ。めちゃめちゃ美味しい。食堂の建物内には山に関連した簡単な展示もあった。
岩峅寺で寄った雄山神社の中宮が芦峅寺にある。
映画「劒岳 点の記」のロケでも使われた芦峅雄山神社。祈願殿は立山を背にしており、街道との位置関係のせいか参道とは斜めに建っていたのが面白かった。ここ一帯の芦峅寺も重要な立山信仰の拠点であり、佐伯平蔵をはじめ山案内人が多くいた。
続いて立山博物館を見学する。立山博物館は展示館・遥望館・まんだら遊苑など周辺一帯に施設が点在しており、大学生以下は全て無料!
まずは展示館に入館。館内は撮影禁止の場所も多かったが、立山曼荼羅など立山信仰に関する展示が充実しており非常に良かった。陸地測量部の柴崎芳太郎が剣岳山頂で発見した銅錫杖も見ることができた。
展示館見学後は周辺の立山信仰関連史跡を含めて散策。
女人禁制である立山に登拝が許されなかった女性たちが極楽往生を願う布橋灌頂会。廃仏毀釈により廃れたが近年復活し、直近では今年9月に開催予定とのこと。
続いて立山信仰に関する映像を鑑賞。博物館のシアターだけが別施設として存在するのは珍しい気がする。内容は個人的にはあまり刺さらなかったが、風景映像などは美しかった。
お次はまんだら遊苑。立山曼荼羅の世界観を模した野外博物館である。敷地が広い上に展示が一つ一つ手間とお金がかかっており、凄まじいインパクトだった。私自身はアートに疎く全体的にピンと来なかったが、コンセプト自体は他に類がなく独特だと感じた。
この後は雨が降ってきたため足早に移動。写真は撮っていないが、道の途中には有馬家住宅や国指定重要文化財である嶋家住宅もある。
帰りは来たときとは違い、有峰口駅を利用することにした。千垣駅と距離はさほど変わらない。
横江駅から県道沿いに少し歩く。交通量が多いわりに歩道が全く整備されておらず、少し注意を要する。
ご当地コンビニ「立山サンダーバード」に到着!
店内の撮影も快諾していただいた。オーナーさんの手が空いているときは、頼めば売り切れの具のおにぎりも作ってくれることがあるらしい。おにぎりもサンドイッチもとても美味しかったので、是非オススメ。
帰りはロングシートが来たので、岩峅寺で上滝経由の列車に乗り換えることにした。岩峅寺以北の地鉄は本数が多くありがたい。
と思ったら乗り換え先もロングシートだった。こういうこともある。
5日目(木) 〆はキハ85乗り納め
今日が最終日。名古屋に帰る日だが、今日も朝から立山へ。
元々は7:08発の立山行に乗る予定だったが、立山行がロングシート、岩峅寺行がクロスシートだったので岩峅寺まで快適に座ることに。通学の高校生が多く乗車していた。
立山では少し時間があるので駅周辺をぶらぶら。
時間になったのでいよいよ…
立山カルデラ砂防博物館へ再び。今日こそ満足いくまで見学するぞ。
地元の小学生の団体と見学時間が被ったため、館内の写真は少なめ。
立山カルデラ砂防博物館にはシアターがあるが、この日は団体に合わせた特別プログラムを上映するということで貸切。しかし受付の方が親切に「団体さんと一緒で良ければご覧ください~」と案内してくださり、ありがたくシアターの隅に静かに座った。
上映前、スタッフさんが立山について小学生向けに簡単に説明されており、小学生に混じって聞いていた。途中で「この中でライチョウ見たことある人~?」というスタッフさんの質問に児童の半数程度が手を挙げたのには衝撃を受けた。部外者が観光でわざわざ見に行くような光景も、地元で生まれ育った人々にとっては当たり前のものなんだなあと実感。
昨日乗った臨時立山行の折り返し運用で富山に戻った。
富山とはこれにてお別れ。立山の絶景を堪能し文化に触れた、盛り沢山の数日間だった。また来ます。
帰りは今はなきキハ85系の特急ひだ号。それも…
おそらくこれがキハ85乗り納めになるだろうということでグリーン席を取ってみた。みどりの窓口へ行ったところ、レアケースなのか係の方が対応できず、車内精算することに(5日間回った感じの印象としてアルペンきっぷはあまりメジャーではないっぽいので、発券関連の時間には余裕を持ちましょう)。車掌さんもきっぷの規則を確認した上、手元の端末で指定席料金との差額を念入りに計算して精算となった。JR東海のきっぷでJR西日本の車掌さんを手間取らせてしまったことになり、少し申し訳なかった。
今回は途中下車せずに富山から名古屋まで直行したが、アルペンきっぷでは飛騨古川~岐阜間は乗り降り自由となっている。映画「君の名は。」の聖地飛騨古川や白壁土蔵街、高山の町並み、下呂温泉、日本最古の礫岩・上麻生礫岩で知られる上麻生・飛水峡、鵜飼、犬山城に岐阜城など沿線の見所は挙げきれない。
さて、名古屋に到着してアルペンきっぷもここまで…、とはいかない。券面をよく見ると、行先は「名古屋市内」となっている。というわけで。
イベント開催に伴って臨時停車する特別快速で笠寺へ。
無効印をもらい、今度こそ本当にアルペンきっぷの利用は終了。凄まじい威力のきっぷだった。このあと名鉄築港線に乗りに行った。
まとめ
おわりに
立山黒部アルペンルートは、大自然の壮大さを身近に感じられる素晴らしい観光地である。困難な立地にも拘らず多くの人々の尽力によって建設され整備されていること、その恩恵を誰でも気軽に享受できるのは本当に凄まじいことだと感じる。ぜひアルペンきっぷを利用して、心ゆくまで立山を満喫してみてはいかがだろうか。
長文をお読みいただきありがとうございました。