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High Line


(表紙説明:ハイラインから下の道路を見下ろしてみた。High Lineは近隣のビルの2~3階付近の高さの目線です。100%歩行者天国)

文字数:4222字

ハイライン発見現場

 私がハイラインに初めて「上った」のは、2015年の「トロント → New York」の一人旅の時だ。たまたまチェルシーマーケットを訪れた時に目に入ったのが最初だ。私の目の中には、陸橋的な遊歩道と思しき景色が入ってきたのだ。そこには車のない世界、人間のみの世界、緑が豊富な世界が語り掛けてくれたような気分にさせてくれる景色が一直線にどこかへ延びていた。
 そこで私は次の日に再度ユニオンスクウェアで地下鉄の乗り換えて、チェルシーマーケットあたりの駅で降りてみた。どこから上に上がるのかが分からなかったからだ。道行く人たちはどうせ観光客だから、聞くだけ無駄だと思っていた。実際に聞いてみると思った通りだった。
 Chelsea Market付近をあちこち歩き回っているうちに、陸橋的な場所に登るのではないかと思える階段に出くわすことが出来た。

絵葉書職人

 このHigh Lineでの最初の出会いは、絵葉書の展示販売の男性の店だった。自分で描いた絵を絵葉書などにして売っていた。色合いが目に入りつい見惚れていたのだ。そしてその男性にビデオ撮影の許可をいただいた。小さな屋台のようなその店をなめるようにして撮影したのだ。純朴そうなアートに入り込む彼を見ていると、心が洗われたのだった。私自身もアートにのめり込んで、あちこちの展示場を借りて展示販売の経験があるので、うらやましい気持ちだったのだ。High Lineでそれができるなんて・・・。

 この人を見ただけで、その誠実さが伝わってくるというものだ。それが絵によく表れていると感じたのだった。当然その絵を買って自分への土産としたのだ。

 日曜日でもないのに、とにかく人が多い。人が常に流れている。みんな楽しそうだ。ただ歩くだけなのに・・・。店があるわけでもない。歩くだけだ。

とにかく人が多い

 ゴミ箱も映したかったのだが、それよりも遠目に見えるイーストリバーだ。マンハッタンの最西端だということが理解できる。

 ハイラインの反対側から見下ろすと、二階建てのオープンバスが走る。私は何度もマンハッタンを訪れているが、観光バスに乗ったことがあるのは、生まれて初めて訪れた時だ。あの時はグレイハウンドバスの旅だったので、一日しか滞在できなかった。だからどこかのホテルから出発する観光バスに乗って、これぞマンハッタンというところを重点的に回ることが出来たのだ。しかもその中に自分と同じ地域の男性と隣り合わせるという偶然のおまけがついたのだった。

kissing figure

 全長2,3キロのHigh Lineの比較的南側に当たる場所にこの彫像はある。二度しか行っていないが、多くの人たちがこの像をキスをする。男も女も老いも若きもと言ってもいいだろう。キスした後に口を拭いている人たちもいる所をみると、実際に口をつけている人もいるのだろう。ということは、現在のコロナ禍ではとても口をつける勇気などないはずだ。しかし問題は、このHigh Lineがアメリカにあるという点だ。きっと構わず口をつけている人もいるのではないか、と心配する。

 この男性の周りにはたくさんの人がいる。その大半がこのキスシーンを見ている。私もその一人だ。

 もっとたくさんの人たちがこの彫像とキスシーンを演じていた。個性があって面白い。私はと言えば、一人旅ではしていないが、孫娘を連れて行った時には彼女たちがトライしたので、その勢いに乗じて演じてみた。やはりちょっぴり恥ずかしい。人が見ているからだ。赤の他人ばかりだから気にすることはない。孫たちは20代前半だったのだから、その方が恥ずかしがってもいいではないか、などと自己弁護だ。

憩いの場

 High Lineは全体が憩いの場だ。その中でも所々に広がる芝生地帯。子連れにはたまらない場所。親にとってもたまらない。横になるとついウトウトしてしまうのだ。若い男女にとってはたまらない憩いの場。そこにいるだけで、心が和むのだ。ここには暴力もなければ仲たがいもない。あるとすれば、仲直り。友情の芽生え。和む心。少しキザだったかもしれない。

 いろいろなタイプの団体さんも通る。みな豊かな顔をしていた。水場だってある。そこでは子供は勿論、大人たちも涼し気な水とあっという間に友達になれるのだ。

High Lineの歴史

 道中にはHigh Lineの歴史がちゃんと紹介されていた。あと少しで100周年を迎えることが分かる。

 High Lineは空中遊歩道というよりは、ある意味、「高架庭園」という方が的を得ている。2,3キロという南北に伸びた高架を庭として人々を楽しませているからだ。
 2009年から開業したというから、私が2015年に初めて知ったのも頷ける。続けて孫娘と訪ねたのが2017年だから、その時でも開業からまだ10年経っていなかったことになる。それまで聞いたこともなかったのに、Chelsea Market訪問をしたおかげでこの素晴らしい庭園に気が付いたのだった。
 聞くところによると、年間800万人もの人々がせかいじゅうから訪れる名所となっているのだ。この高架は19世紀中ごろに鉄道を敷設したのだが、1980年代には廃線となっている。高架鉄道となったのが1933年というのだから、意外と廃線が早い気がする。
 私が育った門司港レトロ地区にも廃線となった貨物車専用の単線があった。子供の頃に兄たちとその途中にあるトンネルに潜り込んだことがある。ところがそんな時に限って貨物列車が通ったりするのだ。
 しかし、そのうちにこの路線は廃線となって行く。いつ頃に廃線になったのかは知らないが、ハイラインの前身の高架線路と同じく時代の流れだったのだろう。
 それが近年になって、門司港レトロと名乗って人々を引き寄せる地区になって行く。そしてその目玉の一つが、その廃線を利用してのトロッコ列車で復活だ。門司港に生まれてきた「門司港ハイライン」とも言えるものだ。
 「門司港ハイライン」と同じように、New Yorkのハイラインの成功を見て、アメリカ中にあった廃線となった鉄道を「ハイライン化」するのが流行にもなったらしい。私は詳しくは知らない。とりあえず、調べる予定はない。
 留学していたインディアナ州立大学のすぐそばにも廃線となった鉄道駅があった。それでも一日に何本かの貨物列車が踏切をふさいで延々と100両にもなる貨車を引っ張る。

自然との共存

 そこここに見られる自然との共存。それは廃線となった高架鉄道の姿を大事にしようとする姿勢との共存でもあるように感じた。全く気付かないで歩く人たちもいるかもしれないが、私は意識して鉄道の跡を見て目を楽しませてきた。それは昔子供の時に歩いた線路と重なる気持ちがあったからだろう。そう言えば線路の上に五寸釘の乗せて、貨物列車に潰してもらった経験があったっけ・・・。その五寸釘はものの見事に潰れて手裏剣のような武器にもなったっけ・・・。勿論それを武器として使うつもりはないのだけれど・・・。

茂みにさりげなく存在する線路
その気で見ておかないと見落とす心配がある
あまりに堂々と遊歩道に存在する線路
だから、気が付かない人もいるのではと思わせる

 

ハイラインの観客席

 ハイラインの途中にある観客席はなかなかいいアイディアだと思った。道路を見下ろすその場所は、まるでリビングルームにある額縁に入った絵画のように見える。しかもそれが動いているというおまけがついている。
 その周りには人々が憩う。その周りには人々が滞留する。その周りには疲れを癒す人々が立ち尽くす。その周りにはストリートパフォーマーがいる。

背を向けている白シャツのおじさん、何か学期をしていたのだが
思い出せない

 身を乗り出して隣のビルの壁に目をやると、大きな人物が壁から飛び出すような姿を見せていた。

催し物

 ヨガあり、仏門紹介ありの楽しいハイラインに是非お越しくださいと言ってみたくなるのがHigh Lineなのだ。

ハイラインでのスマホ歩きは危ない。足元でヨガだってあるのだから。それぞれが勝手に自分の世界にのめり込んでいる。周りなど気にすることはない。通路は彼らのヨガ道場なのだ。通行人もそれを楽しんでいるのだ。何もないよりはいい。ただ歩くだけよりはいい。何であれ、見る物があること自体がハイラインなのだ。
 手前の男女の組はずっと見ていると、意外に難しい技に挑戦しているように見える。まるで知恵の輪をほどくような動きだ。その動きが静かにゆっくりと展開されて行く。見物人は遠目にじっと見ているのだ。

 丁度いいタイミングで通行人がふたり。それだけでヨガは盛り上がる。
 私のハイラインでの憩いの時間はこの後しばらくして終了となった。

ハイラインにお別れ

 実は私はハイライン全域を歩いたわけではない。次に来た時のために残しておいたのだ。だが、これは全くの失敗だった。コロナのせいだ。再訪を阻まれてしまったのだ。治安までコロナは冒しているのだ。残念で仕方がない。下の画像はHigh Lineの南側に近い方にあるビルの展望の様子である。ここにも次のチャンスに残しておいた場所なのだ。

ビデオ映像から切り取ったこの画像をみると、この高架鉄道の昔の面影を垣間見ることが出来るような気がする。この先にある階段を降りると、狭い歩道の辺りがちょっとして賑わいを醸しだす。

 私はここを下に降りて、次の見どころを探す旅を続けたのだった。恐らく、まずはユニオンスクウェアを目指したのだろうと思う。そこはある意味マンハッタンの地下鉄のハブ駅だからだ。そこから北へ行ったのか南を目指したのかは覚えていない。少なくとも、このスクウェア―の道路を隔てた向かいにある「Whole Foods Market」(ホールフーズマーケット)で夕食の買い出しをしたはずだ。少し値段が高いが、有機栽培の野菜などを買う人々でごった返す。私のお気に入りは1個パッションフルーツフルーツやその他の果物だ。次の日の朝のデザートになるのだ。





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