誰のための映画化か『劇場版ポルノグラファー』感想
『ポルノグラファー』の映画版の感想をそろそろ書いてみたい。
(この先は、あまり良いことは書けないと思うので、予めご注意ください)
……
「誰に向けての映画化だったのだろう?」
これが、張り切って劇場に足を運んだ私が最初に感じた正直な感想だ。
絶賛する気満々で観に来たはずなのに、素直に褒められない自分がいた。制作側の原作リスペクトは変わりなく感じられたし、演者さんの演技に文句などない。ただ、どうしてこうなってしまったのだろうというやるせなさが残った。前2作(ドラマシリーズ)は原作に忠実だったということもあるが、自分(のようなファン)に向けて作られているという無意識の確信というか安心感のようなものがあった。それが、映画版では終始感じられなかったのだ。そのかわり全体を通して感じたのは、初見の方への配慮だった。それ自体、悪いわけではないのだが、結局「誰に見てほしくて作った映画なのだろう」という感情がいつまでたっても消えなかった。
人気作を映画化(物語の途中のエピソード)する場合は、初見の観客にどの程度配慮するのかという問題があるかと思う。昨年エンタメ業界の話題をかっさらった劇場版『鬼滅の刃』も、決して初見でも全員が楽しめるという作り方をされていたわけではないと思う。しかし、物語が持つ圧倒的な力で、初見の人の心も引き込んでしまったのだろう。ここで、仲間と人々のために命を懸けて戦う話と、ゲイカップルの痴話げんかの話を、ただ同じく映画であるという共通点だけで比べても意味がない。
で、何を言いたいのかというと
『完結編もFODのがよかったんじゃね?』
初見で映画として観るのに最適な(強い)原作ではなかったということだ。
人気が出るとすぐ劇場版という安易な手法で、愛する作品が変な感じ(悪いというわけではない)にされてしまった気がして悔しい。もちろん制作側にも事情があるだろう。
他の人の感想を一切読んでいないので、この映画自体の一般的な評価がどうなっているのかはわからない。ただ、原作愛が強すぎるいちファンは、(その愛ゆえになのか)あまり楽しめなかったよ。という話だ。
あまり貶すのも悪いので、良かった点も挙げてみたい。
・演者さんの演技。特に女性が良かった。
・音楽
・映像
やはり今回は脚本がいまいちだったのかなぁ。というより繰り返しになるが、原作の強さが映画向きではなかったのだろう。それは原作の良し悪しとは全く関係のない話。劇場版を作るのだったら1作目の無印『ポルノグラファー』を再編集+追加撮影の方が映画向きだったよね。と落ち着いた今なら思う。
FODでは、劇場版の配信が始まったそうだ。見直すと印象が変わるかもしれない。
ちなみに原作の春的生活は、この一話で完結編とうたっても問題ないと感じる程の完成度で、紛うことなき名作ですし、プレイバックも明るい印象ながら少し切なくもある、ファンへのご褒美的名作だと思っています。