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なぜ山言葉があるのか【無線のない時代にマタギはどうやってクマをとったか】

連載シリーズ「無線のない時代にマタギはどうやってクマをとったか」(全4話)

いまはマタギもスマホを使う時代だ。しかし、山中ではスマホは使えないので、「無線機」を使う。だが、かつて「無線のない時代」もあった。そのころ、東北のマタギたちはどのように山を歩き回り、集団で意思疎通してクマを捕らえていたのだろうか。マタギ界のオピニオンリーダーに聞く。(編集部 森山)

語り手:斎藤重美さん
山形県小国町猟友会の副会長。
10代でマタギになり、現在まで約100頭のクマを仕留めてきた。

連載:無線のない時代にマタギはどうやってクマをとったか
第1話 クマとの距離、2メートル
第2話 なぜ山言葉があるのか(当記事)
第3話 マタギの頭の中の“図面”
第4話 変えてはいけない掟


第2話 なぜ山言葉があるのか

— マタギの先輩は厳しかった?

山言葉はかなり厳しく教えられたな。上の写真は、「山ノ神のほこら」だ。クマ狩りに行くとき、ほこらまでは普通の言葉で行くわけよ。でも、そこから一歩でも入るとぜんぶ山言葉に切り替わるんだ。

—なぜ?

「ここから先は、山ノ神様に自分の命を預けました」という意味だ。礼儀というより、完全に神様の領域に入っていくんだ。だからそんなとこで「死んだ」とかいったら大変なもんよ。

— どうして?

仏さんに関する言葉だからだ。それいったら「お前、帰れ」と言われる。「帰るのやんだったら水垢離(みずこり)とれ」と。真冬でも川の中さ入れられる。すっぽんだかでペロンとよ。

それいやだったら、帰らねばなんねぇわけよ。そしてナァ……、また年寄りが、わざわざ里の言葉いうように仕向けてくるわけよ。

— それはいたずら?

若い者の気持ちを確かめるというかよ、引っかからないで山言葉でポンと言えれば「よしこの野郎は大丈夫だ」と。それで引っかかれば大変よ。

— では、決して意地悪ではなく?

いんや…… 今でいうイジメだな(笑)。

— そんなことばかりだったら嫌だなとは思わない?

おれは思ったことはないな。この前やられたから、今度は絶対引っかかんねぇぞと。最終的には、変なこと言うとまずいからなんもしゃべんなくなった。

— なるほど(笑)。

そういう風に山のこと覚えてな。あとはよ、山歩ってる時、山の名前、沢の名前とかって、年寄りからは絶対教えないからよ。

— 教えない?

わからねぇ時は聞かねばならねぇ。年寄りは聞かれないことは、お前わかってんだべと判断してしまう。そこで失敗すっと、お前なんで知ったかぶりして聞かねぇんだとなる。あと、2回聞くと怒られるよ、必ず1回で覚えねばなんね。

— つまり山言葉は、山のことを積極的に覚えるためのシステムか。

んだ。と同時に、「山ノ神様に命を預けました」っていう気持ちを育てるしくみだ。

第3話 マタギの頭の中の“図面”につづく

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