「私、おばあちゃんができました。」(田丸さくら)〜TABETAI編集部に逆インタビュー〜
TABETAIには、どんな学生たちがいるのか。イベントの裏側に光を当て、企画した学生の素顔に迫る。今回お送りするのは、「20歳」(当時)と「81歳」(当時)の物語。
田丸さくら – Tamaru Sakura –
横浜出身のハマっ子。食べるのが大好き。都会で味わえない食べ物に出会うため、TABETAIに参加。南信州で“宝石のような梅漬け” を作るおばあちゃんと出会う。2018年6月に、「長野のおばあちゃんにおいしい梅漬けを教わりにいこう!」を企画した。
夏の長野の、涼やかな風が流れる。長野県飯田市の山あいにひっそりたたずむ柿野沢集落で、さくらはその日、おばあちゃんに出会った。
「あらまぁ、遠いところから来たねえ」
声をかけてくれたおばあちゃん。ほんわかしていて可愛いらしい。まさに田舎のおばあちゃん、イメージそのものだった。
「お茶しましょ?」
夕下がり、おばあちゃんはお宅に招いてくれた。築100年の堂々たる古民家。軒先に腰かけると、お茶は始まった。ところがそれは、ただのお茶会ではなかった。
まず、おばあちゃんがさらりと出してくれた“梅漬け”。緑の宝石のように輝いていた。きゅっと頬張る。あまい香りと、ほのかな酸味に手が止まらなくなった。さくらは梅の味に純粋に惚れ、またどんな風にできているのか、その来歴に興味を持った。
「この梅、昔から作っているんですか」
「竜峡小梅(りゅうきょうこうめ)という集落伝統の梅でね。昔は、梅漬けにして世田谷のマルシェで売っていたのよ」
おばあちゃんが世田谷でマルシェ?
只者じゃない、と思った。実際、この人・宮内勲さん(81)は、キレッキレのおばあちゃんだった。挑戦はマルシェにとどまらなかった。
飯田市内でも有名な、「久堅(ひさかた)御膳」。コンセプトは、「柿野沢の人びとが昔から食べてきたふだんの食事」。地場野菜を使って集落の女性たちと開発した。クオリティの高さから、お弁当コンクールで入賞を飾った。評判は広がり、単年度売上で100万円を超える集落の産業に育てた。
「ほんわかなのに、キレッキレ。そのギャップが素敵だなと思いました」。おいしい梅と、おばあちゃんの魅力。シーズンに梅漬けを教えてもらう約束をした。
お茶の空間力
さくらは、中高で関東唯一の煎茶道部に所属し、現在はお茶の先生の資格(煎茶道「東阿部流」師範代)を持っている。部活動時代から、お茶会が好きだった。お点前をする人とお話をする席主。自然と場が盛り上がった。お茶会には、知らない人同士でも「ふわっと広がるように」仲良くなれる空間力があった。
おばあちゃんのお茶の時間にも、お茶会と同じふわっとした時間が流れていた。それだけでなく、オリジナルの梅漬けや梅のドライフルーツ、手作りのお漬物もあった。これは煎茶道にはないもので、「なんだこの豪華なお茶の時間は!」と驚いた。
こうして彼女は、お茶の先生ならではの発想で、「お茶の時間」を生かした企画『長野のおばあちゃんにおいしい梅漬けを教わりにいこう!』を誰に頼まれることもなくはじめたのである。
おいしいものをおいしく食べよう
イベント当日。梅の収穫から梅漬けまでをすべておばあちゃんから教わるという内容に、東京から若者たちが集まった。
▼梅の収穫
▼梅の選別
▼梅漬け
氷砂糖につけたら完成。ひとり1瓶ずつ、「砂糖漬け」と「塩漬け」を持ち帰った。
アクティビティの途中には、いくつもの「お茶の時間」があって、そのたびにおばあちゃんお手製のおかずや、料理が振る舞われた。
▼手作りメンマ
▼塩ゆでわらび
▼手作りこんにゃく
▼料理を作ってくれた柿野沢集落の女性たち
▼最高の笑顔を見せるおばあちゃん
「こんなに若い人たちと一緒に梅漬けできるとは思っていなかった。生きてきて良かったなあ」
生まれて初めての感情
「生まれて初めて、田舎がなくなってほしくないと思いました」
イベントを終えて、さくらは言った。
さくらはある角度から見れば、今どきの若者らしい若者だ。横浜出身で根っからの“都会っ子”。田舎に親戚はいない。
「正直、田舎が廃れようとどうでもよかったんです」
ではなぜ、田舎がなくなってほしくないと思ったのか。それは、都会のさくらの心にぽっかりと空いていた穴に、田舎のおばあちゃんがころりと落ちてきて、いつしかそれなくしていられないくらい、あたたかく生きはじめたからだ。
「私は悲しいし、イヤ。こんなおばあちゃんがいる田舎がなくなってしまうなんて」
では、自分にはどんなことができるのか。かつてのように、東京のマルシェで梅漬けを売り、販路を広げる手伝いをしようか。いや、ちょっと違うかも。“モノ”として梅をたくさん売ることは、私の役割じゃない。むしろ、おばあちゃんと直接会えるイベントをどんどん企画したい。イベントに参加してくれた人が梅漬けを買ったり作ったりできるようにしたい。つまり、梅を“コト”として価値づけていきたい!
「たとえ梅漬けを教えてくれるおばあちゃんがいなくなっても、私たち若い人が先生になって、つないでいきたい。私、10年先も関わっていたいです」
何が、さくらの心に火をつけたのか。小説『あん』で、どら焼き屋の千太郎が、あん職人の徳江おばあちゃんに「あん作り」を教わる情景に、その姿が重なった。
梅漬けの継承を通じて、ふたりの間で交わされたもの。それは、生まれた意味」と「生きた証」ではないか。おばあちゃんは、さくらの心に火をつけた。そしてまた、さくらもおばあちゃんの心に火をつけた。
ますますおいしくなる、宝石のような梅漬け。あなたもいつか、ご賞味あれ。
文:森山健太(TABETAI編集部)
※この記事は2018年4月に作成されたものです
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