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それは目にとても染みて

今はもう函館と札幌から撤退してしまったイタリア料理のチェーン店「カプリチョーザ」。札幌駅に併設しているエスタの最上階にあったのですがそこが好みの異性と初めて食事をしたお店でした。当時ミクシィが流行っていたころで、とあるアーティストのファンがカラオケでオフをするイベントで出会ったぱっと見大学生に見えるくらい若々しい30代半ばくらいの男性。オフの前から「ずっとお話ししたいと思っていたんです」とDM送っておきました。オフ会当日はあえて自分からはその人のもとにはいかず、会も半ば終わりかけた頃に「なんでこっちにきてくれなかったの?待ってたのに」と現れたその人に「その方が楽しいと思って」と笑ったのでした。今よりずっと豪胆で、自信があるように見せることが出来た若い頃自分。その人と後日、デートで訪れたのがカプリチョーザだったのです。

お腹空いた!って無邪気にメニューを選び。当時大好きだった渡り蟹のトマトクリームソース。笑って、話して、こういうおいしいって表情かわいいでしょって思いながら。そこでおもむろにタバスコを手にしてかけた時、そのタバスコが跳ねて私の眼に入ったのです。「いっ…!」痛みに瞼を抑える。その時私が思ったことは「初めてでこんなかっこ悪いとこ見せられない」でした。そうです、その時、私は目にタバスコが入ったことも、今とても目がいたくて涙が出ていることも目の前の彼には一切話せなかったのです。なんとか痛みが引いて何事もなかったかのようにデートは進んでいきました。結局、この初デートの相手とは交際6カ月で別れることになったわけなんですが、そのうち3カ月はほぼ音信不通でした。今から思えばあの初デートの時、目にタバスコが入ったこと、痛い思いをしているんだということを話せない相手と心を通わせることが出来るわけなかったのです。それは相手の問題というよりもそもそもありのままの自分のことを話してもいいという自信も肯定感もなかったからです。薄い氷のようないつ割れてもおかしくない虚栄心で相手と向き合ってたからです。

それから音信不通になっていた彼は私よりもっと友人として付き合いの長かった女性とすぐ結婚したと人づてに聞きました。私が全身に張り付けていた虚栄心。きっとそれを見せなければデートしようとしなかった相手だったかもしれないなと今なら思います。今でもタバスコを手に取るたびに、若かったころの自分が思い出されてその拙さと不器用さに恥ずかしいやらおかしいやら複雑な気持ちになります。痛かったなあタバスコ。

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