輪島市門前地区研修会REPORT:料理教室運営を通じたコミュニティ再生を目指して
能登半島地震がおきて半年以上が経過した7月半ば。少しずつ復興への歩みを進めている輪島市門前地区を訪問し、味の素ファンデーション(以下TAF)による料理教室運営を通じたコミュニティ再生支援の取り組みを見学しました。東日本大震災以降に東北3県で重ねてきたノウハウが詰め込まれた研修会の様子をレポートします。
ふれあいの赤いエプロンプロジェクトとは?
今回の取り組みは、TAFが東日本大震災後に岩手、宮城、福島の3県で8年半に渡り展開してきた被災地復興応援事業 ふれあいの赤いエプロンプロジェクト(以下赤エプ) の歩みなくしては実現していません。
衛生管理を徹底したシンプルでわかりやすい料理教室パッケージは約3,700回もの運営を経て磨かれたものです。地域の主催者が料理教室運営ノウハウを身につけることにより、地域の実状に合った形で自律的にコミュニティ再生を図っていける期待を携えて続けてきました。
提供されるレシピは誰にでも簡単に、かつ入手しやすい材料で調理できる内容で、栄養バランスが良く高齢者も食べやすい量や味付けに。調理のプロセスで健康や栄養の知識が身につくだけでなく、支援者も参加者も”いっしょに作り、いっしょに食べる”ことで、ゆるやかなつながりが生まれた事例も多くあります。
能登半島の各被災地においても、このノウハウが活かされていく地道な前進に復興への希望を見出していきたい――。そんな想いを各地域の行政を担う方々とも共有し、食を手段にしたコミュニティ育成の担い手となり得る地域の皆さんの協力を得て、料理教室を運営するための研修会開催にいたりました。
再現性高く設計された料理教室運営メソッド
研修会を進行・指導するのは、赤エプを牽引してきたTAFシニアアドバイザーの山田幹夫さん。仲間から「じいじ」と慕われ、頼りにされている彼の真剣ながら優しさを湛えた笑顔は、研修参加者の気持ちをほぐします。
東北での経験則をもとに、誰にでも取り組みやすい必要最小限の形にそぎ落とされた料理教室運営メソッドは、すぐれたレシピ同様、再現性が高い設計となっています。
まずは実習に入る前に座学で、必要な心構えについてレクチャーを受けます。教室でつくる料理のレシピを事前に試すことの重要性を説く山田さん。実際につくってみることで、調理器具や調理手順を想定することができ、レシピを棒読みすることなく自分の言葉で説明することも可能になります。
研修で用意した献立は食欲が落ちてしまいがちな暑い夏にぴったりな3品。
しょうがや青じそなどの香味野菜を上手に利用してさっぱりと味わいながら、栄養たっぷり取り入れることができるメニューです。2018年7月の1カ月間、東北で実際に50回以上の料理教室を運営し、のべ900人が味わっている人気の献立です。
効率的な運営のカギをにぎる調理前の準備
レシピ動画を視聴した後は、調理場に移り、調理器具や食器、食材の準備を行います。この調理前の準備が丁寧になされていることで、調理実習のプロセスを無駄なく安全に進めることができます。今回は2グループに分かれて準備を行いました。
徹底した衛生管理のもとで安心して調理を進めるために
調理環境を整え、食材準備が済んだら、3品の献立を効率よく仕上げるための手順について確認していきます。あわせて安全面、衛生面の注意ポイントについて資料の読み合わせをしながら学びます。調理前、調理中、調理後の各フェーズで細かなチェックが必要となる衛生管理では、調理道具の煮沸消毒や洗浄、冷蔵保管が必要な食材の温度管理はもちろんのこと、主催者・参加者の健康状態の確認も欠かせません。
統制型料理教室の極意
いよいよ調理実習!あらかじめ組んでいたタイムスケジュールと1分の狂いもない見事な進行に感嘆の50分でした。巧みなナビゲーションで進んだ研修の様子を覗いてみましょう。
2グループの間に立つ山田さんの、全参加者の動きを把握しながらの的確な指示により、想定していた調理手順がスムーズに進んでいきます。
手があくと洗浄や片付けに自然に回れる動線づくりも、メソッドのなかにしっかりと組み込まれています。
開催時期にあわせて旬を取り入れた献立の大切さ
予定通り13時ちょうどから実食タイムに移りました。メインの夏野菜とひき肉のトマトカレーは、長期保存可能なトマト缶をたっぷり使用。トマトの酸味としょうがの風味が辛味と相まって元気をもらえる一品に。青じそ香るノンオイルサラダは、手作りのドレッシングと細かく刻んだ青じそが絶妙なバランスでした。デザートのにんじんヨーグルトは、参加者の皆さんにとって新しいおいしさの発見につながったようです。手に入りやすい旬の食材を取り入れながら、ちょっとした調理の工夫を施したレシピですが、シンプルな調理プロセスで再現性高い料理が出来上がりました。
台所と食卓がもたらす「集うこと」の意味
食後に参加者との振り返りの時間を持ちました。参加者の皆さんのうち半数以上が、仮設住宅での生活を送っていらっしゃいます(研修会開催時点)。発災後の避難所での生活で経験された「明日は食材が手に入らないかもしれない」逼迫した環境で向き合われた食事のことや現在の心境とあわせて、研修を受けた感想を言葉にしていただきました。
衛生管理の重要性を認識されたという声が多くあがり、塩分や栄養バランスに配慮した食事づくりの工夫についても関心を高められた様子が伝わりました。
「台所がせまくて、料理をつくりたい気持ちになれない」
「一人での食事で手抜きになってしまう」
という思いを伺い、料理をつくることだけが目的ではない料理教室運営がもつ「集うこと」に見出す希望をあらためて感じています。キッチンに一緒に立って料理をつくり、食卓を囲んで一緒に食べることの意味を問う時間となりました。
最後に、山田さんからの「今日のノウハウはあくまでも参考としていただき、みなさんが進めやすい形でアレンジしてほしい」という言葉で4時間の研修が締めくくられました。
本研修での気づきを、地域で実現する料理教室運営の参考にしていただけることを願いつつ、参加者の皆さんの実体験に基づく真摯な言葉を受け止め、災害時の食と栄養の問題解決を目指すたべぷろの活動に活かしていきたいと思います。
おまけ:衛生管理をサポートする強力アイテムをご紹介♪
これまでの料理教室運営上で大活躍している2つのグッズ、アルタンノロエースとキムタオル。今回の研修でも活用し、安全衛生を徹底しています。
アルタンノロエースは、ウイルス対策のエタノール製剤。パワフルながらも食品にかかっても安全な点が魅力です。噴霧後の水洗いやふき取りの必要がありません。
キムタオルは4つ折りのペーパータオルで吸収力抜群!毛羽立ちが少なく、油分のふき取りにも適しています。