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第6回「まりりんの秘密をスクープ!?」

ゆるやかにJazzが流れる、ちょっと雰囲気の良いショットバー。
カウンターに並んで腰掛ける男女が、意味深な距離感でグラスを傾けていた。

「少し疲れた顔のキミも、悪くないね」

「仕方ないでしょ? 若い頃のように体力が有り余っているわけじゃないもの」

「そういう貴重な表情を見せてくれるのが、僕はうれしいんだけど?」

「奇特な人ね」

「で? キミのその努力は報われているのかな?」

「えぇ、まあ。少しずつだけれど…ね。あなたのお陰、かしら?」

「たいしたことはしていないよ。僕はキミを喜ばせたいだけさ」

「な~んて会話をしていたんじゃないかなーって」

「え、それってあいちゃんの妄想?」

「はい、そうですけど?」

…って、ここまで全部、妄想なんかーい!

何でも月刊誌が校了した直後の夜の街を、
まりりんが男性と寄り添って歩くのを、偶然あいちゃんが見かけたらしい。
こっそり尾行してみれば、シャレたショットバーに二人で入っていく。
それを見送って、後の展開を妄想しまくった、ということらしい。

「あいちゃん、妄想力たくましいわねぇ」

としもむーが感心したように言う。
あ、尾行したってくだりはお咎めなしなんだ。

「でも、想像力豊かって、編集者向きだと思いませんか?」

「んー、想像力と妄想力はだいぶ違うけどねぇ」

あいちゃんの超前向き発言に、しもむーは思わず苦笑い。
まあ、ポジティブ思考はいいことだから、うん、そうそう。

「まりりん編集長のためなら~って人、けっこう業界内に多いし、あながち妄想ってわけでも…」

たしかに。
まりりんはスタイル抜群の美魔女。
しかも、色っぽさがありながら、大人の分別を持ち合わせるいいオンナ。
業界内のファンは数知れず…。
彼女のために尽くしてくれる男性はいそうだ、いや、多そうだ。

「お金持ちをパトロンにつけてたりして?」

「あ~ら、そんな人がいたら、うちの雑誌ももっと売れるのにねぇ♡」

「へ、編集長!」

ニッコリと微笑むまりりん。さて、どこから聞いていたのやら…。

「そろそろ仕事に戻ってね♡」

ゆるりと促され、そそくさと仕事を始めるあいちゃんとしもむー。
噂話も本人に聞かれていたとなると、なかなかに気まずい。

「なるほど、そういう売り方もありかしら」

なんてことを、まりりんがボソリと呟いていたことを、編集部の誰も知らない。
もっとも、そんなことができる人なら、とっくに販売部数が爆上がりしてますけどね、「食べもの通信」。

地道に真面目に。真摯に正直に。
見た目や雰囲気とはうらはらに、真っ直ぐなんです。うちの編集長は。

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