健康を目指すのに違和感がある
家族や友達、知人…大切にしている身近な人たちの健康を願って管理栄養士になり、薬膳を学び、薬草茶のブランドを立ち上げた私ですが、実は健康な人に「健康になろう!!」と提案するのはとても違和感がありました。
健康であることは良いことです。
頭では納得している。
でも健康な人は、「おなかすいた、ご飯を食べたい!」
「疲れた、寝たい!」
そういった本能が突き動かすほどの強い欲求で、健康を求めてはいない気がしていました。
食や健康に対しての意識が高い人は、ご自身や身近な人が体を壊してしまったなど、なんとか健康になりたいと心から願った人が多い気がします。
一度失わないと、当たり前にあった大切なことのありがたさを実感できないのが人間らしいなぁと思うこともあるのですが…
管理栄養士としては、そうなる前になんとかしたい。
病気ではない人には健康になりたいという欲があまり働かない。
私自身も、ついつい自分の健康に関しては時間の使い方としてのプライオリティが低くなっていることがある。
だから、健康が大切だからといって強く願ってない人に健康を押し付けるのは、なんだか違和感がある。
(だからWellnessとHealth careはマーケティングでもきちんと分けないとうまくいかない、、、と教えてくれた一般社団法人WelleMe代表の島村実希さんの言葉を思い出します。)
病になる前の段階で健康増進を目指すには、どんな提案をしたら良いのだろう。
そうやってぐるぐる健康のことを考えていた時に、リビングワールドの西村佳哲さんのワークショップに参加する機会をいただきました。
長野県にあるホリスティックリトリート施設・穂高養生園で、おいしい野菜の養生食をいただきながら、健康や回復についてトークセッションを聞き、語る三日間。
そこで、ようやく納得できる回復の在り方を見つけることができました。
「病気でいることが幸せ。治りませんように。」
ワークショップのゲストとして来てくださった北海道で社会福祉法人浦河べてるの家を運営する向谷地生良さんが、こんなお話を共有してくださいました。
べてるの家に入居していた、ある人には以前から幻聴が聞こえるそうです。とんでもないことを言われることもあれば、落ち込んだり社会でうまくいかない時に励ましてくれるのも幻聴だったりする。彼にとって、幻聴は生活の、そして自分自身の一部になっている。果たして、幻聴が聞こえなくなることが正解なのでしょうか?
そして彼は言いました。
「病気でいることが幸せ。治りませんように。」
…その話を聞いて、私の中での病の印象がガラッと変わりました。
病と健康、本質的な回復とは?
病は、私たちを立ち止まらせ、もう一度普段の生活について考え直すきっかけをくれます。歪んでいた生活を戻そうとして、体は病というサインを出す。
ナイチンゲールも「すべての病は、回復過程である」という言葉を残しました。「病」は、からだがバランスのとれた状況に戻そうとして、症状を出しており、それも自己治癒能力の一つの現れだと捉えているのです。
確かに、病になっていなければ感じ取れなかった感覚や学びもたくさんあります。辛い経験があるからこそ誰かの痛みがわかったり、成長もできて、今の自分があります。
健康が正義、病が悪、といった考え方をなるべくしたくないなぁと思うこの頃です。
(この辺のことをもっと知りたい方は、べてるの家の向谷地さんの本が何冊
か出版されていますのでおすすめです。)
回復とは、元どおりに戻るのではなく、
そんな自分と折り合いをつけていくこと。
アレルギーも冷え性もなかなか完全には治りにくいけれど、寄り添いながらうまく付き合っていく。
健康でなくなってしまった時、自分自身に対して劣等感のようなネガティブな感情を抱いてしまうこともありますが、そんな部分も含めて自分を愛する。そんな自分も受け止めてもらえる健やかな関係。
WHOが定める健康の定義は身体的、精神的、社会的な健康の3つがそろうことですが、社会的な健康はそういった意識の中から芽生えるのではないでしょうか。
健康であることは良いことです。
みなさんが元気であることを心から祈っています。
でも、健康でなくても許容してもらえる社会の方が、ずっとずっと魅力的だし、生きやすいと思うのです。
私自身も完全な健康ではありませんが、一人一人が完璧である必要はない。凸凹を補い合い、調整しあいながら、緩やかに暖かい関係を築いていくのに、薬草がつないでくれたり、助けてくれたりする。
そんな自然と先人からのギフトをぜひ、みなさんと楽しんでいけたら嬉しい。
植物の力を給(た)ぶ、得る。
慈しみのある食卓が、どうか続いていきますように。
そんな祈りを込めて、ノートを記していきたいと思います。
平成31年1月吉日 新田 理恵 拝
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