歌と、一本道

江ノ電の最寄駅を降りると、住んでるアパートまでの帰り道は一つしかルートの選択肢がない。駅を挟んで、海へ向かうか山へ向かうか、大まかに言えばそれだけ。しかも歩行者が歩けるのは道路の片側のみ。進行方向の異なる車がすれ違うときは、少しスピードを落としてセンターラインもない細い車道をそっと譲り合う。そんな道。だから出勤&帰宅ラッシュ(というほどの混雑にはならないんだけど)の時間帯には、駅へと続く唯一の道をみんなが一列に並んで歩くことになる。老若男女が一緒くたになって。小学校の集団登校を思い出すこの光景がすき。

一本道ゆえに、カップルがいい感じで手をつないで自分の少し前を歩いていたりすると、早足で追い越すのもなんとなく野暮な気がしてしまって、二人と同じくらいのペースで歩いて距離感をそっと保つ。そうすると、自分の歩く速度では視界に入っていなかったところに気がつき、これはこれで楽しい帰り道になったり。いちゃいちゃの度が過ぎてイライラ、なんてことには今のところ鉢合わせていない。

こないだは、駐車場からそろりと1匹出てきたなーと思って道路を横断するその動物を見守っていたら、車道を渡りきったところで急にあちらが足を止めたのでわたしも思わず足を止めた。車道を挟んで見つめ合うわたしたち。なんせ街灯も少ないのでよく見えていなかったけれど、そういえば猫よりもシルエットが丸いしなんだか顔だけ白っぽいぞ、なんて思ってるうちに(ここまでずっとあちらと目が合ったまま)、にらめっこに降参したあちらがそそくさとまた歩き出し、近所のお宅の脇道に入っていってしまった。猫になら会ったことのあるポイントだったけど、あれはそう、タヌキだったに違いない。この答えにたどり着いたのはご本人がわたしの前から姿を消してからのことだったけど、きっとそうだ。

日が沈むとちゃんと暗くなる、この一本道がすきだ。引っ越したばかりの頃は少々びびって足早に歩いていたけど、もうこの暗さにも慣れたし、すきな音楽を聴きながら、またはイヤホンもせずに、スマホの明るすぎる画面には目をくれず、ちゃんと星粒が見える夜空を見上げながら、たまに車道のど真ん中を陣取ったり立ち止まったりしながら歩ける、この道がすき。ちゃんと夜はくるし朝もくる。命は続く。

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