歌と、平成最後の

夜の呼び出し。いや、呼び出しってのもこちらの勝手な思い込みだ。たまたま今日、私の名前が彼の頭に思い浮かんだだけなのに。ただ、それだけ。
滅多に寄らない、と見栄を張ったけど、本当は初めて足を踏み入れた夜の街。雑多な飲み屋は嫌いじゃない。彼の言葉を借りて言うなら、誰もが対等な空間。ただ、そんな場所での呼吸の仕方、居場所の作り方を忘れかけてて、チューニングを合わせるのに少し時間がかかった。そんなこと、誰も気にしちゃいないんだけどね。それがまたこの空間のいいところでもある。
彼には付き合ってる相手がいることがわかった。ニュートラルな人だけど、まぁそういう相手はいるだろうなとは思ってたから、それが同性だと分かってもそんなに驚かなかった。私と彼との間柄ではとても聞き出せなかった類いのことを、第三者がいとも簡単に問いかけた。一旦濁したけど、彼も正直に答えた。それが聞けただけ、今日駆けつけた甲斐があったじゃないか。
さよなら淡い恋心。令和を前にして、ひとつ、もやついた想いを成仏できてよかったよ。これからも、そういうのは関係なしに、ゆるゆるこの仲を続けられればそれで。それで。

彼の身体を労わる言葉を送って、先に私は終電の迫る中央線の駅のホームで、いつものようにラジオを起動して。この展開を見越したかのように、天才バンドが、君が誰かの彼女になりくさっても君が好きだと歌い出す。
あともうひとつくらいあるんだけどな、平成のうちに白黒つけるのは難しそうだ。親子に挟まれながら揺られた電車の中、久しぶりに自分の鼓動を感じた。おかげでちょっとだけ若返った気がする、ということにしておく。

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