第二十章 「うそをつくのはわるいこと?」
「全米が泣いた」「絶対に泣ける映画」「涙なくしては見れない」などという売り出し方が私は好きではない。何故なら泣かないからだ。この歳になってやっと泣こうと思えば泣くことも可能だなと言うことが増えたが、若い頃の私の涙腺はめちゃくちゃに固かった。のび太とおばあちゃんのエピソード、しずかちゃんの結婚前夜の話、ワンピースのベルメールさんの「大好き」、チョッパーとヒルルクの話、ゴーイングメリー号との別れ。私の周りでこれは泣くとやたらに聞くアニメシーンだが泣くいた事はついぞない。涙腺に来る話なのは理解できなくはないが、私にとっては泣くほどの話ではないのだ……。とかいうと、「人の心がない!」などとよく言われるが余計なお世話である。だから「すみっコぐらしの映画で泣いた」とやたらに周りから聞いた時期も私は殆ど「へー、あ、そう」と生ぬるーい視線を送っていたのだった。だが、今なら本当に泣けるかもしれないと思う。もうすぐやる映画がちょっと見てみたいとすら思う。
すみっコぐらしを子供たちに人気があるキャラクターだとしか認識していなかった私だが、自分の子供らが興味を持つと無視出来る存在ではなくなった。「おかあさんきいて!」と子供というのは好きなものを沢山教えてくれるものだからだ。うちにもすみっコぐらしのおもちゃが少しずつ増えていった。そしてある日、子供が欲しいと言った本がこれである。
子供の頃、「玩具を買ってあげる」と言われても本屋にばかり行ってしまい、玩具を欲しがらない子供だった私。しかし、母親の好みもあって、キャラクターものの絵本は読んだことがなかった。ノンタンシリーズは大人になるまで読んだことがなく、ディズニープリンセスなども今子供が興味を持ってしまったがために履修したに過ぎない。よって私も子供にキャラクターものの絵本を自ら買い与えようという気にはならなかったのだが……そこは母親よりは幾分寛容な私。欲しいと言うならと買ってみた訳である。そして読み聞かせを強請られ、はいはいと絵本を読んだ結果。まんまと………このとかげにキュンとしてしまったのである。私はすみっコぐらしの中ではとかげが一番好きだ。
すみっコぐらしのホームページをそっと置いておく。お暇があれば見てもらいたい。大人でも面白いと思う。
さて、このとかげ。ご存知の方もいると思うが、とかげではない。
きょうりゅうのいきのこりなのである。この絵本の中では、きょうりゅうだとバレたら皆怖がるかも、みんなと一緒に捕まってしまうかも……そんな事をかんがえているとかげ。とかげは捕まらないためとかげを名乗っている偽者のとかげなのだ。そしてとかげは考える。「うそをつくのはわるいこと?」と。大好きなお母さんを想いながら「うそつきだけど、いいこにしてるよ」と述べる。深い……深すぎるぜ、すみっコぐらし……。
嘘はいけないことだと子供の頃には言われるものだと思う。けれど、人を思いやって吐く嘘もある。それを私が実感したのは実はあまんきみこさんの『ちいちゃんのかげおくり』を読んだときだった。家族とはぐれたちいちゃんを避難させるために、おじさんが「お母ちゃんはあとからくるよ」と言うのだが、きっとおじさんにはそんなことは分からない筈だ。ただ、ちいちゃんを逃がすために嘘かもしれないけれど、そう言ったんだろう。「この嘘は吐いていい嘘なんだ」と小学3年生の私はそんな事を噛み締めたのを覚えている。
私が9歳で実感した「吐いていい嘘」を、すみっコぐらしを読んでいる子供たちは7歳と5歳で理解している。というよりはこれはひとつの切っ掛けだろうと思い、私も説明したのだ。「悪意ある嘘が他人を傷付ける」のだということを。
とかげ推しな私。絵本の後にゲーセンでとかげのぬいぐるみをGETしてしまった。
子供たちが大喜びで「なんでー!?」と言うので、「一緒に来るって言うから、連れてきたの」と嘘をついてみた。おめめをキラキラさせた子供が嬉しそうに「仲良くしようね!とかげ!」と、その日の晩から暫くとかげを抱いて眠ることとなり、私の布団が狭くなったのは、また別の話(笑)