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第六章  そこに愛はあるんだよ。

 うちの父は絵に描いたような昭和の男だ。
 家事や子供の事は母に丸投げ、家業や自身の仕事に打ち込む人だった。学校行事にも、習い事の行事にも、部活などの大会にも、父がわざわざ来てくれた思い出はない。
 態度はデカく、気分屋で、融通がきかない頑固者。妙な所に拘りを持ち、その癖テキトーで、筋が通っているのやらいないのやら。口癖は「くさったげ(しょうもないの意味)」と「生産性がない」で、まぁまぁ扱い難いオッサンだ。

 こう言っておいてなんだが……私は別に父が嫌いな訳ではない。寧ろ好きだ。プロ意識の高い所も、仕事に対して周りから一定の評価を得ているところも、不器用ながらちゃんと家族を愛してくれているところも好きなのだ。尊敬だってしている。

 だからこそ……私は父の前では猫を被る。

 父は、穏やかで優しく、家庭的で、女らしく、男を立て三歩後ろを歩んでくれるような──大和撫子とでも言うべきか──そんな女性が理想であり、私にもそれを求めていた。否、父に限らず家族親類は皆そうだったと言える。絵に描いたような女の子、それが皆の理想だった。

 だか私はそうはならなかった。

 私は自分らしく生きている。しかしそれを他人に認めて欲しいとも、受け入れて欲しいとも思わない。友人にも、親兄弟にも、旦那や子供にもだ。私のことは私が理解していればいいと思っている。だから、ここに私がどんな人間なのかを書く気もない。我を押し通すことで不利益が出ることを知っている私は、猫を被り大衆に足並みをそろえるだけの小賢しさは持ち合わせていた。だがそれを他人に共用する気もやはりないのだ。

 話を戻そう。
 私は、自分らしさを押し出して受け入れてくれと駄々を捏ねるより、父の前でだけでも理想の娘で在ることを選んだ。
 それは接待のような、サービスのような……意図しての作り物には違いない。しかしそこにあるのは私から父への尊敬と家族愛だ。誰がなんと言おうと……。

 昨日は父の誕生日だった。私は娘らに頼んでハッピーバースデー動画を撮って編集し、父にそれを贈った。
 少しはにかんだありがとうの返事が動画で届いた。可愛い可愛い孫からのメッセージに「くさったげ」とは流石に言えなかろう。知ってる。
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 元気に長生きしてくれ、父さん。
 アンタに似て不器用な娘より。

 

P.S.
スタバのメニューは魔法の呪文。2種類しか頼めないよwww
 今日はもうお外に出ない……アイス食べてごろごろ自分を甘やかしてます。
 蚊って人類の敵だよね。安眠妨害されて、フマキラー片手に目を血走らせていた火曜日の晩。
 リアルゲージが示されたら、私もHPの低さが露呈しそう。

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