私の話 6
2022年8月25日、中村格が警察庁長官を辞めた。元首相の男が銃撃事件で死んだから、警察の失態の「責任」を取って辞任した。中村格は、刑事部長だったときに性加害者の山口敬之の逮捕をもみ消した「責任」は一度も取っていない。性犯罪を一つ不起訴にした男が、2021年9月22日からこれまで警察長官のポジションについていた。
私は2021年8月中旬からオンライン署名キャンペーン「小田急線事件を契機に、フェミサイドの実態を解明し対策を講じてください!」を始め、その約1ヶ月後の9月17日に記者会見を開いて署名を提出した。中村格が警察庁長官に就任予定だというニュースを読んだのが、記者会見の前日、9月16日のことだ。
私は心底怒った。警察を軽蔑した。一瞬絶望しそうになった。その日の自分のインスタのストーリーに「レイプ事件もみ消した奴が警察庁長官になるとか終わってんなマジで」と書き殴った。その後せめて何かしようと思って、警察庁のご意見受付フォームにご意見を送った。
翌日17日の記者会見のとき、記者の人から警察についてどう思うかと聞かれた。私は「性加害に対して寛容な人間、女性に対する暴力を無かったことにした人間が警察庁長官になってしまうような社会だということがショックだ」と話した。「そんな状況でフェミサイドなんて言っても絶対わかってくれないだろうと思った」と話した。
その時は本当にそう思っていた。でも今考えると、自分もっとちゃんと闘えよ、と思う。警察に対して言いたいことなんて本当に山ほどあったのに。なんで「絶対わかってくれないだろう」と退いてしまったんだろうと思う。私は署名キャンペーンの宛先を、法務大臣の上川陽子、内閣府特命担当大臣(男女共同参画)の丸川珠代、内閣府男女共同参画局長の林伴子の3人に設定していた。警察庁長官の中村格でも、その上の国家公安委員会委員長の棚橋泰文でもなく。話を聞いてくれる可能性が少しでもありそうな女性リーダー3人にしていた。実際、男女共同参画局長の林局長は、話は聞いてくれた。大臣2人から返答はなかったけど。おそらく警察庁や公安に訴えたところで、たぶんスルーされただろうとは思う。
それでも私は意思を表明するべきだったんじゃないだろうか。女性に対する暴力に対して最も甘い人たちに、私たちの身近に暴力があると、その延長線上にフェミサイドがあると訴えるべきだったんじゃないだろうか。そのことが今も引っかかっている。
それから約1年弱、警察庁長官の座に居続けた中村格が辞めたのは、8月2日に森喜朗が銃撃事件について「これだけの事件だったのに、まだ誰も責任を取っていない」と言ったことも背景になっているそうだ。性加害者の逮捕状を握りつぶしたうえで警察庁長官になった男が、女性蔑視発言で五輪組織委員会の会長を辞任した男の言葉で辞めた。
そんなくだらない理由で辞めるような奴と、私は闘わなかった。