『フェミサイドは、ある』の仲間たちと座談会②
小田急線刺傷事件から1年が経ち、活動記録をまとめたZINE『フェミサイドは、ある』を書いたり、1周年のデモを企画するなかで、去年一緒に活動してくれた大学生・大学院生の仲間たちとまた話したい!と考え、座談会をすることに。日程の都合で2グループに分けて行なったオンライン座談会の様子をお送りします。
座談会①はこちら。
座談会②の参加者:田澤真衣さん(大学院生)、冨永華衣さん(上智大学エンパワーメントサークル「Speak Up Sophia」共同代表)、皆本夏樹(「フェミサイドのない日本を実現する会」発起人)
格差社会への不満を女性に向けることこそ女性差別だ
皆本:ZINEのなかで、去年のフェミサイド反対の記者会見の時に、皆さんが話してくれた内容も書いたのですが、それが田澤さんの伝えたかった意図を伝え切れていませんでした。今回記事を出すので、田澤さんが本当はどういうことを言いたかったのかっていうのをわかるようにしたいと思っています。
田澤:この座談会の記事を出すときに注釈で加えてもらえれば、読者さんには伝わるかなと思います。該当箇所はZINEの49ページの「田澤さんは」って書いてあるところからですね。
「田澤さんは小田急線事件を『フェミサイドではなく格差社会への不満』や『死んでないからフェミサイドではない』などと言って、フェミサイドと解釈することを否定する言説に反論した」って書いてあります。このとき念頭に置いてるのは、犯人が「幸せそうな女を殺したいと思っていた」と言っていて、女子学生を執拗に刺したのだから、明確に女性を狙った犯罪だった。家父長制的な犯人の価値観が犯行動機になったっていうのは事実なはず。それなのに「死んでないからフェミサイドではない」とか「女殺しなんてない」って否定する流れがあったんですよね。それに対して「フェミサイドは存在するんだ」っていうことがひとつ重要でした。
そして、犯人が「格差社会への不満」で女を殺したとしても、それは立派なフェミサイドだということも言いたかった。問題はその殺意を、格差社会を作っている政治家や自分のことをひどい労働環境で使っている雇用主に対してではなくて、女性に対して向けるっていうところなんです。自分の置かれた環境に不満を持っていたことが背景になっていたとして、「女に対して」不当な恨みを募らせるようになっていった、それこそが女性差別だと思います。そこが記者会見の私の発言では伝わってなかったと反省しているので、この機会に補足してもらえればなと思いました。
皆本:私も同じように思っていたのですが、文中で上手くわかるように表現できていませんでした。すみません。冨永さんのところは「本当はこう言いたかった」っていうところないですか?
冨永:言いたかったところが簡潔にまとまっていたので大丈夫です。
田澤:私たちの話も取り上げてもらってよかったです。やっぱり全然違う団体でみんな活動してて、立場とかも全然違うかもしれないけど、ワンイシュー運動がすごく上手くいった例の一つですよね。
サークルで作った性的同意の動画を1000人の新入生が見た
皆本:冨永さんはSpeak Up Sophiaの活動はまだやってるんですか?
冨永:まだやってます。最近はあんまり大きいことはやってないですけど、フェミサイドの記者会見の後に、性的同意の動画を上智大学の新入生全員に見せるっていうことに成功しました。
皆本:すごい!
冨永:Speak Up Sophiaが性的同意を広めるのをモットーにしてるサークルなんですけど、コロナ禍の新入生オリエンテーションはオンデマンドの動画を見ることになっていて、その動画の中で義務的に見るものとして、私たちは性的同意についての動画を作って見てもらったんです。
田澤・皆本:すごい(拍手)
冨永:それは大きな成果でした。
皆本:新入生って1000人くらいですか。1000人に性的同意の動画見せたって本当にすごいです。私、大学の時にジェンダー系のサークルとかを全然見ていなくて、フェミニズムを勉強し始めたのも大学3、4年生だから遅かったんです。もし1年生の時から知ってたら違ってただろうなと思います。
田澤:私も運動やり始めたのは大学後半だったので、もっと早く知ってたらって思いますよね。
女子大学生が中心の団体で立ち上がったことに意味がある
皆本:私がSpeak Up Sophiaさんに「一緒に運動やりませんか」って話しかけたのは、インスタを見たからなんです。小田急線の事件が起きた時にフェミサイドについて発信してましたよね。それを見て、「こうやって関心を持ってる大学生いるんだ」と思って、メッセージを送ったんですよ。そうしたら返事くれて。
冨永:それを「投稿しましょう」って呼びかけたのが私だったんですよ。
皆本:そうなんですか!ちゃんとそこで「リアクションしよう」ってなっているのがいいですよね。きっと世間のいろんなところで「この事件やばいんじゃないか」と思って、何かやろうとしてた人がたくさんいると思うんですよ。ポストイットを貼りに行こうとしてやめた人が知り合いにいて。「やりたかったけど怖くてできなかった」とか「リスクがあるからできなかった」っていう人がたくさんいるんだろうなと思ったら、見えているよりもっとたくさんの人が気にしてたんだろうなって。運動してよかったなと思います。
田澤:政治家もそうですけど、女が立つと何かと叩かれるし、何かと危険な目に遭いますよね。女性が政治運動をするっていうことにはすごく緊張感があるっていうか、「攻撃してもいい」って思われる。そういう中で、はたから見たら女子大学生の団体でできたのはすごく大きな意味があるんじゃないかなと思っていて。差別に対しても、労働運動とか反戦運動でも「自分は闘えない」と思っている女の人っていっぱいいるんですよ。そういう中で「代わりに闘ってくれて嬉しい」っていうのもあるだろうし、「自分も闘いたい」とか「自分もできるんだ」ってエンパワメントしているところは絶対あると思うので、もっともっとできることあったらやっていきたいですよね。
皆本:なんかもっとやりたいですよね。「できるんだ」って思っちゃったから(笑)私、最初に駅にポストイットを貼ってめちゃくちゃクソリプを受けたから、しんどくて。覚悟はしていたけど「このくらい攻撃が来るものなんだ」って思いました。先に運動をやってきた人たちはこういうものを引き受けてやってきたんだろうなって。でも割と元気にできたというか、意外と仲間いるなとも思えました。助けを求めれば助けてくれるし。前に出たのは私たち大学生が中心だったけど、その背後を支えてくれてた中年の女性たちもいたので、心強いなと思いました。
冨永:運動をしていても、やっぱり先駆者たちがいて結構年配の方々が私たちと同じような思いを持って運動してきたと思うと、流行りとか世代とか時代じゃなくて、差別に対する問題意識はずっとあったものなんだと実感しますよね。
労働運動もやっています
冨永:運動っていうことでいうと、私は労働組合に入ってるんですけど。
皆本:そうなんですか!
田澤:へえ~素晴らしい。
冨永:労働問題に関する運動をやっていて、去年の秋からフードバンク活動を始めました。私たちのところではシングルマザーの利用者がすごく多いので、利用者にアンケート調査をして、どういう生活実態があるのかを聞いて、それを要求事項として厚労省に提出して、みたいなこともしてたんです。記者会見とかもして。
皆本:すごい。
冨永:運動の道を私も歩もうとしてるんですけど。やっぱり自分の軸としてあるのは女性の支援をしたいっていう思いなので、何らかの形でできたらって思っていて。今、労働組合でやっているフードバンクの利用者のシングルマザーの組織化もやっていきたいと思います。フードバンク利用者でなくても、労働環境では女性ってやっぱりマイノリティだし、シングルマザーの貧困とも繋がるんですけど、非正規で働いてる人が多いですよね。社会の物価上昇やコロナのしわ寄せが女性に行ってしまう。非正規女性の連帯をやっていきたいなって思っています。困ってることがあっても、それが解決できる問題だと気づいてる人が少ないなと思うので、ちゃんと声を上げれば誰かに届くっていうのをもっと伝えていきたいなと思います。
田澤:冨永さんがいる労働組合ってどういう感じなんですか?
冨永:個人加盟で、ある程度若年層向けの組合なのかな。色々飲食店のユニオンや学生のユニオンもあって。
皆本:学生も労働組合入れるんですね。
冨永:私自身、自分のバイト先で賃金未払いとかパワハラがあって、その団体交渉を求める時に入ったんです。それで闘って解決金もらって。
田澤・皆本:すごい!
皆本:冨永さん、なかなかファイターですよね。私、学生の時にやっていたインターン先でセクハラみたいなことがあって、それに対して私が抗議をしてたら、私が首を切られたんです。どうしていいかわからなくてそのままになってしまって。そういう時には労働組合に入って闘えばいいんですね。
冨永:非正規だったら入っておいた方がいいと思います。労働組合とか知らないですよね。私も全然知らなかったし。
皆本:教えてほしいですよね、学校とかで。こういうところ入っておけばいいんだよとか。
田澤:昔は就職する時、「労働組合が強いところ」って言っていたらしいですけど。労働運動も昔はかなり強かった。あらゆる政治運動を学生や労働者がしない方が、支配者にとって都合がいいじゃないですか。いくらでも労働者を使い潰せるし、いざとなったら戦争できるから。意図的に運動を潰そうとしてくるのが社会の常なので、それが行き届いちゃった結果が今っていう感じがします。だからって私は悲観していないんですけど。自分もいるし、他の人もいる。それに、潰したくなるってことは、やったら勝てちゃうってことなんで。
皆本:運動を危険だと思ってるってことですよね。力があるから恐れてる。そろそろ一時間ですね。
田澤:またご飯とか行きたいですね。
皆本:ぜひまたお会いしましょう。