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私の家族 5/私とお店のこと beeteat 竹林久仁子
曇りの日、台風が近づいていると庭の家庭菜園のトマトを気にしながら母が「おばあちゃまが来るのよ」とNHK『きょうの料理』を真剣にメモを取りながら見ていた。その日は穏やかな母だった。
借金地獄の父に変わって大黒柱的存在の神戸の祖母は、家族誰もが逆らうことなどできない存在だった。定期的に訪問する祖母に精一杯のおもてなしをすることが、
母の使命であった。そんな日は流石に母も酒を飲んでいる場合ではなかった。テレビ画面を食い入るように見る母。平日の日中は兄と父は学校と会社でいなかった。母と二人きり、べったりとくっつきながらそんな様子を見ている時間が大好きだった。
祖母が来る。朝から慌ただしい日だった。兄達は祖母からのプレセントを期待してそわそわしていた。父は庭でゴルフの素振り、母はおもてなしの料理に追われていた。誰も構ってくれないことに私は朝から不機嫌だった。
まもなくしてチャイムが鳴った。
「こんにちは」
祖母の声が玄関から聞こえた。兄達は”プレセントが来た”と、はしゃいで玄関まで走って行った。私もつられて走った。
「はい、はい落ち着いて、お行儀の悪い子にはプレセントあげませんよ」
子供達をなだめる祖母の後ろから大きな包み紙を持った祖父が入ってきた。二人をせかすように兄たちはリビングへと招いた。
「はい、はい、順番やで。一番大きいお兄ちゃんからどうぞ」
次男が早く自分の分もと祖母をせかせた。
「うるさいっ!!あんたらは少し黙っとき!」
思ったように育て上げられなかった父に代わって祖母の唯一の希望であった長兄は、いつでも特別扱い。我が家の儀式のようなものだった。
長兄が包み紙を開け終わるのを次兄と指をくわえながら見ていた。
「うわ〜」。あまりのかっこよさに思わず私は声をあげた。長男の腕では抱えきれない大きさの、ピッカピカの野球のボードゲームだった。
次に次兄が戦隊モノのロボットを受け取ったが、すぐさま長男とボードゲームに夢中になっていた。
「はい、あんたの」
私の番だった。その流れからしても思ったよりはるかに小さな包みが私に手渡された。全く期待できない大きさの包みを掴み、一気に破いた。
「ぎゃーーーーーー!!!」
受け取った包みを祖母に投げつけながら、私は叫んだ。
騒ぎを聞きつけ、ボードゲームに夢中だった兄たちも集まってきた、私は正直気絶しそうだった。忙しそうにしていた母もキッチンから声をかけてきた。
「人が買ってあげたものを粗末にするなんて!!お仕置きしたる!!」
祖母はカンカンだった。決してこの家で怒らせてはいけない人物を怒らせた、と不穏な空気が流れた。庭にいた父も騒ぎに気付き窓越しに「どないしたんや」と顔をのぞかせた。その瞬間、父が開けたサッシの隙間から外へ飛び出した。母以外の全員がどこへ行くんやと叫んでいた。
「家出してやるっ!」私は素早く靴を履いて家を飛び出した。
包みの中身は、当時爆発的人気だった「モンチッチ」であった。
当時TVCMでも、お友達のお家でも行く先々でモンチッチを見ないことはなかった。どこにでも現れるモンチッチに、幼い私は猿のお化けに追いかけられていると勘違いをしていたのだ……
とうとう我が家にも出たっ!もうこんな家には住めない! 人生初の家出だった。
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