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【イ・ラン×いがらしみきお 往復書簡・登場作品紹介2】『71歳パク・マンネの人生大逆転』

韓国のアーティスト イ・ランと『ぼのぼの』の漫画家いがらしみきおによる往復書簡『何卒よろしくお願いいたします』。この連載では、二人の手紙に登場するさまざまな映画や本をご紹介します!

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インターネット上で多くの人から攻撃を受けたというランさん。自分への悪口が頭の中に浮かんでつらい日に、いがらしさんへ手紙を書くことにしました。

インターネットで私を攻撃する人は、私が随分前に書いた言葉を保存しておいて、それを攻撃の理由として持ち出してきたりもします。あるひとりのすべての言葉と行動が記録に残ることは、果たしてよいことでしょうか?
(いがらしさんへ 記憶できない言葉たちが記録される時代を生きながら 2020年7月20日)

この手紙全体をとおして、ランさんは「記録」というものについて考えをめぐらせます。

私は小さいとき、記憶するためにこっそり記録をとっていました。そうやって両親に怒られた日を覚えておこうとしました。私にこんなに悔しい思いをさせ、腹を立たせた母や父や姉や弟の行動を長い間覚えておいて、あとで何らかの形で復讐することが、その記録の目的でした。幼いときは、私の部屋とカバンはお母さんにいつもチェックされ、ひっくり返されたために、安心して日記を書くことも、絵を描くこともできませんでした。

記憶するために記録をとっていたというランさん。もしかすると小さいランさんは、自分にこんなに悔しい思いをさせた親やきょうだい自身が「そんなこと言ったっけ?」と忘れても、自分は覚えていてやる、という気持ちで記録していたのかもしれません。私たちもそういう気持ちで、その日あったことを日記に書いたり、SNSに書いたりすることがありますよね。
それができない環境で育ったランさんは、家族にバレないように、机の天板のガラスの断面に文字を書いたり、机の引き出しの奥に日記帳を隠したり、絵を描いて消しゴムで消したりしていたそうです。

「記録」に関して苦労してきたランさんは、ネット上で公開されている人々の記録について考えます。

今は誰でも自由にインターネット上に自分の空間をつくって、いくらでも記録を残すことができます。なのでそんなに聞くことができなかった話も、世に出て知られることになるといういい変化もあります。その中で私がありがたく見ている記録は、生涯食堂の仕事をしていたパク・マンネというおばあちゃんの人生の記録です(孫娘がおばあちゃんにインタビューしたり、一緒に生活する様子を動画で記録してYouTubeにアップロードしています)。

ここで登場するのが、「박막례 할머니(パク・マンネおばあちゃん/Korea Grandma)」というYouTuber。ごりごりの全羅道方言で、ときどき辛辣で痛快な毒舌を発揮しながらしゃべる71歳のおばあちゃんが、旅行したり、ご飯をつくったり、メイクをしたり、韓国ドラマを見たりする様子を、孫娘のユラが撮影しています。

「歯医者に行くときのメイクアップ」という動画(「今日は歯医者に行くからさ。これ以上派手にすると、この老人は歯が痛いっていうのにちゃんと化粧する暇はあったのかって言われそうだから地味にしたよ」と言いながらおばあちゃんがメイクをする様子 ※2022年9月現在で約300万回再生)や、「スイスでキムチ煮込みを作って食べて韓国ドラマを見る」という動画(スイスに旅行に来たけどひどく雨が降っていて、ホテルでただひたすらドラマを見ながらおばあちゃんがドラマにツッコミを入れまくる様子 ※約250万回再生/同じくスイスで撮影した「71歳マンネ、初のパラグライダー!」という動画より何倍も再生された)など、おばあちゃんの生活を記録したものが人気を集めています。

このパク・マンネおばあちゃんの人生の記録は、『71歳パク・マンネの人生大逆転』(朝日出版社、2020年)という本にもなっています。本の前半では、71歳でYouTubeを始める前の、女だからと勉強をさせてもらえずに家事労働ばかりしていた青春時代から、クズ野郎との結婚や2度の詐欺のために働きづめだった50年間の記録が書かれています。そして後半では、認知症の恐れがあると診断されたおばあちゃんに「人生の意味」を見つけてあげるため、孫のユラが会社を辞めてオーストラリア旅行に連れ出し、そこで撮影した動画が反響を呼んだことをきっかけにYouTuberになったことや、その後どんなふうに動画を撮っていったかということがとてもおもしろく書かれています。

ランさんは、そんなパク・マンネおばあちゃんや他のさまざまな人々の記録に思いを巡らせながら、いがらしさんへの質問で手紙を締めくくります。

直接出会ったことのないさまざまな個人の物語と出会えるのは喜ばしいことですが、いつか彼らが無差別攻撃の対象になったり、日常に脅威を感じたりしないかと心配にもなります。
インターネットは引いても開かないドアのようです。ひょっとすると引くのではなく、押して開くドアなのでしょうか。いがらしさんは、インターネットをどのように使っていますか?

いがらしさんはこの手紙にどう返したのでしょうか?ぜひ本書をお手に取ってふたりのやりとりを読んでみてください!

(げじま)

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