移動して表現して アーティスト イン レジデンス 「風林火山」と甲府の盆踊り/幸田千依 (vol.6)
アーティスト イン レジデンス、略してAIR。アーティストが、ある場所、街、施設に滞在して制作することと、その支援システムを指す。自治体が主導するパブリックなものから手作りのものまで、実は国内外には様々なAIRがある。制作費や移動費などのお金が支払われたり、支払われない代わりに食事や宿を提供されることも。何となく股旅芸者を応援するふうでもあるが、よく知らない場所で制作するのはアーティストの刺激になるし、街は交流が生まれてにぎやかになる。できあがった作品がその街にとって大事なものになる場合もある。そんな中で、アーティストはどんなふうに制作したり、くらしたり、ごはんを食べたりしているのか。積極的に各地を回って絵を描いている幸田千依さんに、AIRについて聞いてみたら、すっごいよかった!とめちゃくちゃ推されたのが、甲府で作った盆踊り大会について。これもアートなんだ、と思えるいい話だった!(『仕事文脈vol.6』特集:旅と仕事 2015年5月7日)
1.2013年 風林火山、「縁故節」を更新する
「こうふのまちの芸術祭」というのは、甲府出身の歌い手、五味文子さんが発起人になってかれこれ5年前くらいからやっています。彼女の家は、五味醤油っていう有名な味噌屋さんなんですけど、甲府の町がシャッター街化していくのをどうにかしたいということで、1年目はけっこう友だちを呼んで色々やったりしたんですよ。絵描きのわたしと美術家の水川千春さんも行きました。でも五味さんはずっと地道に何かをやれるという人じゃなくて(笑)、その後すぐに青年海外協力隊に行っちゃって、同級生の小林さんという子が意志を継いで続けてたんです。芸術祭といってもささやかで、主催も「やまなしアートツリー」と名乗ってますけど何の営利団体でもなくて、小林さんも普通のOLだから、すごい大変。お金はアサヒアートフェスティバルからちょっと助成金が出てるけど、毎回大赤字だと思います。毎回毎回、今年はもうやめようと(笑)。それで、五味さんも帰ってきて、どうする?というのが2013年。そこで、わたしと水川さん、あと現代音頭作曲家の山中カメラさんがこの年に呼ばれて、たまたま4人が集まったんです。
それで、甲府の山に「御岳文芸座」という廃校になった小学校を市が無料で開放してるところがあって、そこで遊んでたんですよ。なにをやるかとかも全然決まってなくて、ゆるゆると。山合宿といって、近くの五味さんのおばあちゃんの家に泊まっていました。五味さん一家、一族にすごい助けられた。ごはんとかも五味家の人がおにぎり持ってきてくれたりするんです。
カメラさんは各地で盆踊りを作っているので、甲府でもいつも通り自分で作る予定だったんだけど、どうやっていこうかなと悩んでいる時期でもあって。そのおばあちゃんの話とか、昔の村の話とか聞いてるうちに、その土地にある「縁故節」という盆踊りのことを知ったんです。山だから変な歴史とか出てきて、弁天さんという、村にいた予言者みたいな人の台詞とかあるんですよ。それを録音したら、水ちゃん憑依してきて、自分で変な新しい言葉を付け加えたりして。このあと水ちゃん妊娠してるんですよ。とか、話し出すと面白い物語がいっぱい出てきて、そういう昔から繋がってきたことやいろんな実感をどう伝えていこうかと話していて、それを見ていない人に伝えていくというのが、表現者なんじゃないかと思って。その縁故節を核にして、今自分たちが考えてることを、更新していく、そういうやり方で盆踊り大会をやろうということになったんです。わたしや水ちゃんは制作もするし、五味さんは歌、カメラさんは歌の編曲とかそういうことができるから、それぞれがそれぞれの役割、普段やっている表現のやり方を集結して作ろうということで、4人で「風林火山」というグループになりました。
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