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馴染みの店の、馴染みじゃないメニュー/辻本力 第4回 「エゾ鹿串」
病院の待合室の壁に、診察を待っている子どもが飽きないようにという配慮からか、時々間違い探しのイラストが貼られていることがある。左右対称に配置されたイラストには、擬人化された象などが描かれていて、その手にある風船の色や形状が異なっている——みたいなアレだ。これを見つけると、年甲斐もなく本気で取り組んでしまう自分がいる。で、10個中9個まで間違いを見つけたところで「診察室にお入りください」などと声がかかると、「あとちょっとだったのに!」と悔しくなるのである。
居酒屋にも、間違い探し感のあるメニューが存在する。まあ間違いというのも大げさだが、要するに、1つだけジャンル違いのものが紛れ込んでしまったように見えるケースのことだ。
例えば、やきとん屋のメニューの肉の部位を追っていくとする。「カシラ」といった肉っぽい部位から始まって、「ハツ」のような内臓感の強い部位を経て、加工度合いの大きい「ツクネ」などに行き着くのが比較的オーソドックスなパターンではないだろうか。あるいは「トマト巻き」など、そのまま続けて肉巻き系のメニューに発展していくケースも考えられる。いずれにせよ、やきとんであるから、並ぶのは豚に関する部位である。しかし、そうした流れの中に、突如1本だけ鶏の串が出てきたら「ん?」となるに違いない。あるいは、その「1本だけ」が、魚の串とかであったなら、「ん?」のボリュームはさらにちょっと上がるに違いない。
この並びで、なぜこれが?
店主の気まぐれか? 特に何も考えていないのか? はたまたこちらには想像もできないようなワケがあるのか? それは分からない。ただ、ポジティブな理由を考えるなら、わざわざそれをメニューに加えるだけの自信が、こだわりがあるということだろう。
私の場合は、「せっかくやきとん食べに行っているんだから、わざわざその店が専門としない鶏串/魚串を食べるのってどうなのよ?」と考えてしまい、そうした「間違い探し感のあるメニュー」を長らくスルーしがちであったように思う。ただ、さんざっぱら居酒屋通いをしてきた中で、そこに“隠れた逸品”が隠れているケースもたくさん見てきた。「もっと早く頼んどけばよかった!」と後悔&反省を繰り返した結果、今はなるべく「ん?」なメニューも積極的に頼むようになった次第。
最近の話をすると、近所にあるやきとんを軸にした居酒屋で「エゾ鹿串」なるものを頼んでみたことがあった。これは店に通い出した当初は存在せず、ある時期から唐突にラインナップされるようになったものだ。カシラ、ハラミ、ハツ……みたいな並びに、いきなり鹿。そこだけ急にジビエ料理屋状態で、あまりに唐突だ。気になる。
出てきたのは、黒みを帯びた肉の部分と、脂身と思われる白っぽい部分とが交互に並ぶ串。黒白あわせて頬張ると、豚バラに、若干チレっぽさをプラスしたような味と食感、そこに豚とはまた異なる独特の香りがふんわりと漂う。獣獣しているわけではないが、いい意味でごくわずかにクセがある。これを焼酎ハイボール、通称ボールでグビッと流し込む。うん、いい。ひとしきり豚を食べた後で、こういうのが挟まると、また流れが変わって楽しい。また食べよう。
こうして馴染みじゃないメニューが、馴染みのあるメニューに変わっていくのである。
※鹿のインパクトが大きいため見落としがちだが、じつはラム串もラインナップされていたりします。
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