グレーな闘争とトーンポリシング/堅田香緒里(仕事文脈vol.19)
跡地に建つコロナ病棟
この原稿に何を書こうかとぼんやり考えていた頃、友人が入院することになった。新型コロナウイルスに感染した彼女は、約2週間の入院中、病院で出される食事の内容と、それを完食したということをほとんど毎日知らせてくれた――高熱や肺炎でしんどいくせに、病院の外にいる私を安心させるために。彼女が退院する日の朝、ただどうしても顔がみたくて、病院まで行くことにした。久しぶりに彼女に会えることが楽しみで、予定時刻より少し早めに到着してしまった私は、彼女がしばらくの間暮らしていた病棟を外からぼーっと眺めていた。二階建てのやや古びた建物には、ワクチンの大規模接種会場の看板が目立つ位置に設置され、屋上には「TOKYO2020」というオリンピック用の薄汚れたバナーがたなびいている。そして真向かいの建物には、東京都立神経病院の文字。
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