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虹色眼鏡 第8回 チサ/さようならアーティスト(仕事文脈vol.16)

一緒にいよう(寄り添い合って)〜沖縄から東京へ愛を込めて

 年を越してからの冬の半分は仕事の関係で東京を離れて暮らしていた。人々がまだオリンピックは開催されると信じていた頃の話で、多くがまだ安心しきっていた頃だった。電車に乗ったり飛行機に乗ったりするのが好きだから移動の多い生活は自分に向いていると思う。大学生たちがインスタのストーリーズでアルコールを飲み散らかしたり、卒業旅行に行くのを片目に、いくつかの未解決な物事を未解決なまま置いて、数枚の下着と着替えだけをリュックに詰めてボーディングゲートをひょいひょいと越え、トウキョウを抜け出す自分に、すくなくとも自由を感じることができる。飛行機から見える雲の上には神様がいないことを知ることができるからだろうか。

 アジア人が欧米で殴られた。泣きながらインカメラに収められた動画は大きく拡散されたようだった。片目は青黒く腫れて内出血していた。そういう理不尽な出来事は今に始まった事ではなかった。
 めっきりニュースに疎くなった自分にも、新型ウィルスの噂は耳にタコができるくらい聞く羽目になった。具体的なことは何一つわかっていないのに早朝からドラッグストアには長蛇の列ができ、店頭からはマスクが消え、消毒液が消え、ハンドソープが消えて、誰かの身内が死んだニュースばかりが流れる世界になった。日本の地下鉄で乗客が咳をしただけでもみ合いがおきたという類のニュースも、聞くたびに滅入ってしまう。インターネットには悪意やデマが飛び交って、人間に良かった部分など一つもなかったような、悲しい気持ちをここ最近はずっと抱えている。あたしたちを取り巻く状況は想像もつかない速度で形を変えていく。

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