タバブックスの本棚から02―値下げ交渉
こんにちは、スタッフのげじまです。
タバブックスの本棚から、今回は『仕事文脈 vol.12』「特集 お金文脈」の「桃山商事・清田隆之さんに聞く 若手ライターのお金の悩み」という記事を読みました。若手ライターの山本ぽてとさんと餅井アンナさんが、先輩ライターである清田隆之さんにお金との付きあい方について相談するという内容で、具体的な経験にもとづいた回答がタメになる記事です。
そのなかで私が気になったのは「単価を上げたいけど……原稿料の交渉ってしていいの?」という山本さんの悩みです。これに対して清田さんはつぎのようにアドバイスします。
交渉っておそらく、単に「ギャラを上げろ!」とわがままを言うことではなく、「自分の仕事を適切に評価して欲しい」と伝えることだと思うのよ。(中略) 先方から値下げ交渉されることを見越して最初は高めに設定しておけば、最終的に納得のいく金額に落ち着くと思う。とにかく納得さえできれば気持ちよく仕事に取り組めるし、使える時間も労力も増える。
「値下げ交渉」ということばから、私はある場所を思い出しました。その場所とは、大学1年のときに訪れた、エジプトのカイロです。
カイロ旧市街には、ハーン・アル=ハリーリという迷路のような古い市場があります。そこでは品物に定価がつけられていないことが多く、お店の人と値下げ交渉をしてお金を払います。ハーン・アル=ハリーリを訪れたとき、私は螺鈿細工の小さな宝箱を買いました。お店のおじさんは400エジプトポンドだと言ったので、100ポンドなら買うと言い、交渉が始まりました。最終的に200ポンド(約1400円)になり、納得したので円満に交渉は終わりました。
しかしその後、友達から、同じものが他の店で50エジプトポンドで売っていたと聞きました。私は上手にぼったくられたのです。
そのことを知っても、なぜか悪い気はしませんでした。それは、私自身がおじさんとその場限りのコミュニケーションをして、合意した値段だったからだと思います。
カイロでは、市場だけではなくタクシーに乗るときにも値段の交渉をしました。それまで日本では、モノやサービスや人の労働の値段は、定価や時給といった形であらかじめ固定されているのが私にとって当たり前でした。コミュニケーションを通じて合意したお金ではなく、一方的に決められたものだったのです。だからカイロでの、即興的な双方向の値段交渉が新鮮に感じたのかもしれません。
もちろん私とお店やタクシーのおじさんは、経済的に対等な立場ではなかったと思います。お金の価値もお互いの間で異なるため、交渉自体も対等ではなかったでしょう。また考えてみれば、時給や最低賃金など一定の収入を保証するものがない商売でもあります。ただ、納得するまで交渉するということは、最初から商品やサービスの値段が決まっていて動かせないのではなく、もらうお金の量を自分たちで決めるチャンスがあるということかもしれないと思いました。
記事の相談のなかで、清田さんが「この業界には『好きなことを自由に書けるんだからギャラは安くてもいいでしょ』という謎の風習がある」とおっしゃったように、あらかじめ決められたお金に納得できない場合もあるでしょう。そんなときは、気持ちよく仕事をしてお金を得るために、ときには交渉をして納得するという過程を踏むのもアリなのかも、と考えました。
(げじま)