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「オリンピックの東京」から脱出したかった理由(仕事文脈vol.16)

誘致の際に「汚染水は完全にアンダーコントロール」と言われてから、東京に決定してから、そしてさまざまな疑念やトラブルが起きるにつれ「オリンピック期間中東京にいたくない」という声を聞くようになった。実際に脱出を計画している人に話を聞くということで始めたこの企画、しかしその後五輪は延期になり、そんな予定があったことすら忘れてしまうほどの、コロナショックで覆われた世界になってしまった。想定していた脱出計画と、脱出も移動も不可能になったうえで思うことをあらためて聞いたインタビューである。(編集部)


東京にいると自分が賛意を示している気持ちになる
安永知澄さん(40代・漫画家)
岩井好典さん(50代・フリー)

―いつごろから東京脱出しようと決めたんですか?

安永 去年の秋には言っていましたよね。夏には言ってたかも。

―脱出計画はどちらが言い始めたんでしょう。

岩井 彼女が東京がオリンピック一色になるのなら脱出したいと言い始めた時、すでに僕の周囲には何人かそういう人がいたんですよ。自分は前回の東京オリンピックが嫌で大阪に逃げたという小林信彦さんの文章を読んでいて、ああ、逃げるっていう選択もあるんだなと。そのことを彼女に話したら、出ましょう出ましょう!と乗ってきて。

―前回の東京オリンピックは盛り上がっていた、という印象がありますが。

岩井 東京生まれの人間は、あそこで街殺しをした、かつて東京が持っていたローカルな文化があそこでかなりリセットされたと思っているんですよ。小林さんはそれが嫌だったんじゃないかな。彼は生粋の東京の人なので。
安永 東京の下町の風景を否定された感じがしますよね。
岩井 オリンピックや万博があると、たとえば靴磨きの人とか、ホームレスの人を排除することが進んでいくので、そういう動きに嫌悪感がある人は見たくないと離れたりすることはあるのかなと。僕も東京生まれで、池袋近くで生まれ育ったからそれはわかる。逆に言うと広島出身の安永さんがオリンピック中に東京を離れたいというのはどういうことなんだろう?
安永 もともと政府のやりかたが好きじゃないのでニュースを見るたびつらくなることが多かったんですけど、オリンピックの名のもとに東京にいると自分が賛意を示している気持ちになる。外にいる人からそう見えるのかな、日本にいるとそう見えるのかなと。それじゃあ逆の動きをしたいなと思って。一体感の中心地が東京にあるとされるなら、意思表示として、そこから移動することでわたしはアンチというか、アクションしましたよと言えるじゃないですか。どうせなら楽しい、涼しいところに行きたい。我慢しているよりは外に出たほうが建設的なおだやかな一週間を過ごせるんじゃないかって。
岩井 はじめは北海道に行こうかと思っていたんですよ。彼女もアイヌ文化が好きで、自分も北海道に挨拶したい人がいるし、涼しいし、いいなと思っていたんだけど、マラソン札幌開催が決まってしまいやめたほうがいいんじゃないのって話になって(笑) 。

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