無職の父と、田舎の未来について 第21回 求人と雇用、「みんなで行く」道の歩み方について/さのかずや(仕事文脈vol.21)
はじめての求人、はじめての雇用
自分の会社・株式会社トーチで、はじめてちゃんとお金を払って求人を出した。これまでTwitterなどで手伝ってもらえる人の募集をかけたりしたことはあったが、求人媒体と呼べるものに出したのは初めてだった。6月に募集を行い、ありがたいことに20人ぐらいの方から応募があった。ほとんどすべての方とお話させていただき、自分としてはできる限りの誠意を見せて、1人に内定のお知らせを出した。
内定を出してからは逆に断られる可能性があるので、めちゃ丁寧にコミュニケーションして、書いたことのない雇用条件通知書をつくり(友人の弁護士さんにちゃんと見ていただきました)、無事に9月から新メンバーが入社してくれた。社会人3年目の25歳。埼玉からほとんど来たことがないという札幌に引っ越してきてくれた。
入社する前も入社した後もいろいろな手続きがある。労働基準監督署とハローワークを行き来せねばならない仕組みにモヤつきながらも、ハローワークで「この書類とこの書類とこの書類でいいですね!?」と念押ししたのに、後出しで「この書類とこの書類も送ってください、FAXで」というアナログお約束にもなんとか対応しながらも、入社手続きが完了。
10畳あまりの爆安オフィスにも、インターンや業務委託メンバー合わせて常時3〜4人程度はいてくれるような状態になった。どうにか会社の体をなしつつある気がする。
1年前に鬱から立ち直りかけの状態で書いたvol.19の連載。その文章を読み直したら「結局はお金がなくてむずかった」と書いていた。いまもお金がめっちゃあるわけではないが、無理せずに続けられる関わりから、健康にやれる仕事をいくつか積み重ねた結果、少なくとも自分と1人の社員で、半年くらいは死なないくらいのお金をつくれている。半年前から見たらとてもいい状態になっている。
新メンバーはまだまだ若く、あまり自分がやっているような仕事の経験も多くないので、いわゆる即戦力な人として入ってもらったわけではない。なのでいろいろとじっくりやっているが、これはこれでとてもいい時間の積み重ね方である気がしている。自分がやっている「企画」「事業開発」というような仕事は、そもそもあまり世の中に多くあるタイプの仕事でもないので、変に近しい領域の経験がある方に入ってもらうよりも、じっくりやっていくやり方しかない気もしている。
本人とも話したけど、代表1人しかいない会社に1人目の社員として入るなんてめちゃくちゃ勇気のあることだと思う。そこに飛び込んできてくれたことはめちゃくちゃ尊敬しているし、それだけの価値がある経験をしてもらえるようにしたい、と強く思っている。
実は新メンバーの彼女以外にも、この求人を機に札幌に引っ越してきてくれて、一緒に仕事をしてくれる/仕事をしてくれそうな若者が2人いる。2人とも20代前半の若者で、1人は自分でやっている仕事を札幌に持ってきて東京と行き来しながら、もう1人は新卒で1年半務めた会社をやめて札幌に引っ越してきて、トーチの仕事を手伝ってくれる。みんな無鉄砲だが、その分それなりに真っ当な社会への期待値が下がっている部分もあるのかもしれない。
そういう事を考えても、自分がほとんどなんの後ろ盾もないところから札幌で会社をつくり、鬱をこじらせたりしつつも、自分の会社で移住者を3人生み出しているのは、結構いい所まできているような気がする。
「田舎にいい仕事がないのって、なんでなんですかね」というこの連載のきっかけになったブログを書いて、この秋でちょうど10年が経った。札幌は地元よりは比較にならないほど都市で、地元より圧倒的に有利な環境だけど、とりあえず北海道で、自分が面白いと思える仕事を小さく生み出せていて、なんとか当時の自分に顔向けができるような気はする。
人の力を借りる難しさと、その先に行く方法
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