さわる社会学/堅田香緒里 第三回「抵抗する庭」前編(仕事文脈vol.13)
「後悔していないのか?こんな馬鹿なことのために命を落とすのは残念じゃないのか?」
「俺は少なくともまともな人間でいられた。俺は共犯者にはならなかった」
これは、ドイツ人小説家ハンス・ファラダの遺作『ベルリンに一人死す』(赤根洋子訳、みすず書房)からの引用だ。「ハンペル事件 」*1と呼ばれる歴史的事実に基づいて執筆された長編作品である。私は昨夏、かつて「こんな馬鹿なこと」のためにギロチンに首をはねられた、ハンペル夫妻の自宅跡を訪ねた―亡霊となったかれらとの出会いを求めて。
*1 オットー・ハンペルとエリーゼ・ハンペルという平凡な労働者階級の夫妻による、1940年~1942年の2年以上にわたり、当局の目を逃れて反ナチスの葉書をベルリン中に撒き続ける、という抵抗運動。二人は、ファラダの著作内ではオットー・クヴァンゲルとアンナ・クヴァンゲルという名で登場し、後に何度か映画化もされている(最もよく知られているのは、バンサン・ペレーズ監督による「ヒトラーへの285枚の葉書」、2016年)。
■撒かれた葉書
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