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二人暮らし 1 /私とお店のこと beeteat 竹林久仁子

母の実家である本家は、100年近く経つ古い家だった。
玄関の戸を開けるとうす暗がりの中大きな土間が広がっていて、薪ストーブと古い井戸があるのが見えた。暗がりだらけの空間がたくさん広がっていてかなり不気味な印象だった。外から犬の鳴く声がしていた。土間越しに小上がりになるように居間があり、群馬の祖父と祖母がコタツに入って待っていた。

「親子の縁は切ったはずだ!!」

祖父が一升瓶片手に赤い顔をしながら怒鳴っていた、母もバツが悪そうにうなだれていた。
「寒いから早くおこた入り」と祖母が優しく声をかけてきた。私には初めての場所だったが、勝手知ったかのように振る舞う母が不思議に見えた。
全く良い雰囲気ではない。どうやら大人同士で難しい話が始まるようだ。今にもお化けが出てくるのではないかと思うようなこの場所で緊張状態だった私は、さらに母にべったりとくっついた。

祖母がガラス戸を引いて居間の奥へと消えた。間も無くして大きなお盆に人数分のどんぶりを乗せて戻ってきた。目の前に「おうどんおたべ」と渡された。
器の中を覗くとギョッとした。真っ黒の液体の中にうどんの麺が沈んでいたのだ。関西では見たことのない食べ物に不信を抱いた。せっかくのもてなしを「寿司がいい」と頑なに拒んだ。うどんなんて食べるような雰囲気でもなかったはずだが、疲労していた叔父たちはそれを美味しそうにすすっていた。

そのうち親戚たちも集まってきて喧嘩が始まった。騒ぐ大人たちをよそ目にこのお化け屋敷のような古い家をじっくりと観察していた。祖母がまた声をかけてきた。「風邪引くよ、おこた入りっ。」無理やりコタツに入れられた。

「あっ、あっ、穴が空いている?!」

古い煉炭式の掘りごたつだった。初めての掘りごたつに、何かが潜んでるのではないかと恐怖で思わず足を引っ込めた。高い天井、2階へ続く階段の先には大きな穴のような真っ暗闇の空間があって、吸い込まれてしまいそうな錯覚に襲われた。「早くお家帰ろう!!」初めての古民家は暗闇がたくさん存在していて、その中に妖怪かお化けのような物がいるのではないかと恐怖でしかなかった。必死に大人たちに訴えかけたが届かなかった。

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