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耳かきをめぐる冒険 第一話 ジンベイザメと波打ち際

みなさんはじめまして!
先日からスタッフに加わった椋本と申します。1994年生まれの現在27歳です。

僕は旅先で「ご当地耳かき」を蒐集するのが趣味で、現在300本以上の耳かきを所有しています。いわゆる「耳かきコレクター」ってやつです。
小さい頃から気まぐれに集めていたのですが、コレクションがブーストしたのは新卒で旅行会社に入社してから。ブラックな日々の鬱憤を晴らすかのように出張先で耳かきを買い漁った結果、「あのエージェントには耳かきマニアがいるらしい…」という噂が業界の中で徐々に広まっていきました。しまいには観光協会の方が非売品の耳かきを用意してくれたり、同僚からの出張土産も僕だけお菓子ではなく耳かきというありさま。気がつくと大量の耳かきが自宅のペン立てに刺さっていたというわけです。

「そんなに集めてどうするんだ」というツッコミはさておき、面白いのは一本一本の耳かきを見るとその土地の記憶が蘇ってくること。そしてその記憶に紐づくように、思いがけない方向へ想像力が飛んでいくのです。
『耳かきをめぐる冒険』では、僕のお気に入りの耳かきを足がかりに、記憶と想像をめぐる冒険譚をお届けいたします。

初回の本稿では自己紹介も兼ねて書いてみようかなと。どうぞごゆるりとお楽しみください。

第一話 ジンベイザメと波打ち際

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ジンベイザメ耳かき
かき心地 ★★★★☆
入手場所 美ら海水族館(沖縄)

中学生の頃、修学旅行で沖縄を訪れた際に購入したジンベイザメ耳かき。マスコットのとぼけた表情の愛らしさに加え、特筆すべきは持ち手のデザイン。紺地に白いドット柄があしらわれ、深い海のニュアンスが見事に表現された一本だ。

ところで、ジンベイザメといえば海の生物であるが、海と言えば寺山修司の『少女詩集』を思い出す。まさに「海」という章から始まるこの繊細な詩集には、こんな一編が掲載されている。
「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり」
コンクリートに囲まれた都心で生まれ育った僕は、「麦藁帽の彼」よりもむしろ「海を知らぬ少女」に親近感を覚えるほどに海とは縁遠い生活を送ってきた。海はいつでも遠く、特別な存在だった。

2020年の夏、僕は茅ヶ崎の砂浜に座ってひとり海を眺めていた。

ウイルスのパンデミックにより旅行会社の業務が激減し、下北沢のワンルームにこもりながら「これからどう生きていこうか」なんて少し大袈裟なことを考える鬱屈とした日々。そんなある日、突然海を見たい衝動に駆られ、勢いそのまま小田急線に飛び乗って縁もゆかりもない茅ヶ崎の街へと向かったのだ。

なんの因縁か、家を飛び出すとき本棚から抜き取った本の冒頭に「歴史というのは僕はきらいで、地理にしか興味を持たない」という主旨の寺山修司の言葉が引用されていた。普段ならば読み飛ばしてしまうであろうこのなんてことない一節が、なぜかこのとき僕の脳みそにスパークしたのだ。
「歴史」が一つの場所に根を張る静的な概念だとすれば、「地理」は移動を前提とする動的な概念だ。一所にとどまることに我慢できなくなった人間は、「ここではないどこか」を夢想して場所を変える。これはいわば「待つ思想」と「走る思想」と換言できる。寺山の言葉を借りるならば、机の上で考えていても仕方がない、とにかく走り出すという行動の中にこそ幸福は宿るという考え方だ。

大学生の頃、「書を捨てよ、町へ出よう」という寺山の思想に衝撃を受けた頭でっかちな僕は、世界中の色んな土地を旅したり、転居や転職を繰り返してきた。「ここではないどこかにもっと自分が輝ける場所があるかもしれない」という理想をいつも抱きながら、そうあれない現実とのギャップに心をくさしては移動を繰り返してきたのだ。
しかしどれだけ場所を変えたところで、なぜかすぐにまた心の渇きを感じてしまう。トリュフォーの『大人は判ってくれない』の少年がごとく走って走って走り続けた結果、僕は茅ヶ崎の波打ち際に出てしまったのだ。
そして思い至ったのは、この世界には自分が理想とする場所はそもそも用意されていなくて、たぶん「自分がほしいもの」や「自分が行きたい場所」を自分でつくるしかないんじゃないか、ということだった。

「待つ思想」から「走る思想」、そして「つくる思想」へ。それはまるで「何も起きない」青森から上京し、やがて劇団・天井桟敷を立ち上げた寺山修司の背中を追うようにー

その後、旅行会社をスッパリ辞めた僕は、旅をテーマにした本を出版したり、詩をテーマにしたコミュニティを立ち上げ、自分なりに活動を始めた。そして複数の分野に軸足を置きながら、自分自身の生活を再構築していくことを腹に決めたのだ。つまり『家出のすすめ』よろしく「自分の人生航路を取り戻す」ということである。

あの夏の日、僕を海に向かわせた衝動は、今この記事を書いているタバブックスの事務所へとつながっていた。そしてジンベイザメの耳かきから出発した連想の足どりは寺山修司という思いがけない航路を進み、こんな場所まで来てしまったというわけだ。

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と、こんな調子で、お気に入りの耳かきを入り口に、自由に想像を飛ばしながら言葉を綴っていけたらなと思います。タバブックスではたくさんのことを学びながら、素敵な本やコンテンツをみなさまにお届けできたらなと。
これからどうぞよろしくお願いいたします!

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