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馴染みの店の、馴染みじゃないメニュー/辻本力 第2回「わかめサラダ」

「この店に行ったら、必ずこれを食べる」という大定番がある一方で、その陰に隠れ、なかなか日の目を見ない存在もまたある。

新宿にある、某老舗有名居酒屋の野菜サラダが好きだ。店に行けば100%注文する。あまりに決まって注文するため、お店の人が気を利かせて席に着くと同時に出してくれるようになった。

「サラダなんかで飲めるかよ」

そんな意見もあるかもしれない。私も昔はそう思っていた。が、ここのサラダはたっぷりのドレッシング&マヨネーズにより、めちゃくちゃパンチがあるのだ。もはや野菜枠ツマミの域をはみ出しまくっている。しかも、トマト、キャベツ、レタス、きゅうり、人参、セロリと、野菜の種類の多さも特筆に価する。終盤、キャベツの千切りが、ドレッシングの塩分でしんなりしたのを食べるのも楽しみの一つだ。ちなみに、こんなの。

そんな最強の酒つまサラダの陰に隠れ、ひっそりとメニューに並んでいるのが「わかめサラダ」である。

過去に頼んだことは……1回くらいあるかもしれない。が、限りなくゼロに近く、実際どんなものだったか、ほとんど憶えてない。せっかく普段頼まないメニューに挑戦する連載を始めたのだから、わかめサラダ、いってみようではないか。というわけで、断腸の思いで野菜サラダを断り、注文。

出てきたのが、これだ。

とにかく、わかめである。そして、その下はスライスオニオン。上に千切りの人参少々、白ゴマがぱらり。ピリ辛な醤油味のドレッシングがかかっている。

「ど」が付くほどのシンプルさである。6種類の材料から成る野菜サラダの豪華さに比べると、正直見劣りは否めない。人参はカウントするほどの量は入っていないので、ざっくりと言えばわかめと玉ねぎだけのサラダだ。ちなみに、値段差は50円。わかめサラダの方がちょっとだけ安い。

うーん、これは……大好きな店なので否定的な意見は書きたくない(店名を出さずとも、写真と文中の僅かな情報で、分かる人は分かるくらいの有名店だし)。まいったな……。

もし美味しくなかったらボツにしようか……そんな気持ちを胸に、一口。うん、わかめと玉ねぎにドレッシングだから、普通に美味しい。美味しいんだけど、野菜サラダと比べると地味だ。そう、旨い/不味いじゃない。ただ比較してしまうと、どうしても「馴染みのメニュー」に軍配が上がってしまうのだ。

が、食べ進めていくうちに、「あれ?」となる。

このサラダの主役であるわかめは、いわゆる塩蔵のやつだ。噛むほどに、じんわりとしたしょっぱさが染み出してくる。それを、生の玉ねぎがさっぱりと中和する。派手さは皆無だが、食べているうちに、だんだんと口に馴染んでくる。地味だけど、決して悪くない。酔いに、静かに寄り添ってくれる、そんな感じがする。

店を出る頃には、結論が出ていた。このわかめサラダはアリである。要は、同じ「サラダ」と名が付くからといって、名作・野菜サラダと比較し、「どちらか」などと考えなければいいのだ。役割が違う。

どっちも頼めばいいのである。最初は、野菜サラダだ。これをベースに串ものを食べていく。一通り食べて腹が膨れてきたら、以降は酒がメインになるので、ちょっとしたツマミ(要するに、塩っ気があってチビチビ食べるようなやつ)があればいい。そこで、普通なら塩辛とかエイヒレみたいなものに行くところ、代わりにわかめサラダを投入するのである。わかめの塩味で、酒が進む進む。しかも、珍味系よりちょっと爽やかだ。

終盤のダラダラ飲みの相棒として、頼もしい存在となったわかめサラダ。はじめまして。これから、どうぞよろしく。


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