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さわる社会学/堅田香緒里 第七回(最終回) 「夜を歩くために」(仕事文脈vol.17)

◆私の身体に勝手に触るな

 彼女はある夜、旧知のバンド仲間に会いにニューヨークを訪れた。その男性と共に夜道を歩きながら、安心してくつろいだ気分で、たわいもないお喋りに興じていた。よき夜。ところが突然、その気分を台無しにされる出来事が起きる。通りすがりの男がいきなり彼女の尻を掴んできたのだ。彼女は咄嗟に、「私の身体に勝手に触るな、クソ野郎!」と怒鳴りつけたものの、隣を歩いていた友人はのらりくらりとごまかし、彼女の味方をすることも、一緒に怒鳴ってくれることもなかった。この出来事は、彼女にとって女性の「安全」について考える一つのきっかけとなっていく。この種の暴力は、ディティールの違いはあれど、あらゆる場で、あらゆる女性が経験していることではないだろうか。 
 アメリカにおけるミソジニー(女性嫌悪)と闘ってきた、フェミニスト・ハードコアパンクバンド“War on Women”のギターボーカル、ショーナ・ポッター(Shawna Potter)は、ニューヨークの夜道で自身の身に起こったこの出来事をきっかけに、(たとえば突然、尻を掴まれるというような)性暴力や、その背後にある差別や抑圧といった問題について、より一層考えるようになった。考えてみれば、この種の問題は、夜道に限らず、日常のあらゆるシーンにありふれているのではないか。そうして彼女は、これらの問題を最小化するための方法として、セーファースペースの必要性を訴えるようになる。
 セーファースペース(Safer Space)とは、差別や抑圧、あるいはハラスメントや暴力といった問題を、可能な限り最小化するためのアイディアの一つで、「より安全な空間」を作る試みのことを指す。ポッターは、自分の身に起こったこと/経験に基づいて、まずは、自身の活動の場であるライブハウスにおいて、セーファースペースの取り組みを始める。多くのライブハウスに出張し、セーファースペースに関する数多のワークショップも企画した。さらに、これらの経験を基に本を書き上げ、多くの人にこのアイディアをシェアし続けている *1。ポッターは、これら一連の活動を通して、ライブハウスを中心とした文化施設や商業施設、公共空間等、私たちの日常にある、あらゆる場におけるセーファースペースの必要性を訴えているのである。

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